おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ

文字の大きさ
11 / 18

11.グレーウルフ

しおりを挟む
 トラップ回収と薬草採取。
 二つのクエストを順調にクリアした俺たちは、最後のクエストを達成するため移動していた。

「グレーウルフとは戦ったことあるかな?」
「あるぜ! 村にきた奴を皆で追い払ったんだ!」

 ステラが元気よく答えた。

「皆って言うのは村の大人たち?」
「いえ、私たちだけです」
「へぇ~ それはすごいな」
「べっつにすごくないよ。あんなの一匹くらいあたしらなら余裕だったしな!」

 ステラが自慢げにそう語った。
 そうか、一匹だったのか。
 おそらく群れから逸れた個体だったのだろう。
 本来のウルフは、数匹で群れをつくり行動している。
 単独で行動するのは、ブラックウルフという上位種だけだ。

「これから戦うのはウルフの群れだ。油断しないようにな」
「はい」
「というか全然いないけど……ホントにいるのか?」
「ちゃんといるよ。足元を見てみると良い」
「足元?」

 ステラが視線を下げる。
 すると、そこには足跡があった。
 人間のものではなく、ウルフの足跡だ。
 それも見てすぐわかるほどくっきりとついている。

「それとあっちの木には、ウルフの毛がついてるだろ?」
「本当だ」

 めくれかけの木の皮についた毛に、ミルアも気づいて近づく。

「足跡からしてまだ新しい。この付近にウルフがいるのは確実だ」

 そして足跡の数からして、この付近にいる群れは四匹くらいだろう。
 ミルアは木についた毛を取り、じっと見つめている。
 ステラが足跡を見つめて呟く。

「全然気づかなかった……」
「モンスターを探すなら、痕跡も追えるようにならないとな。中には頭の良いモンスターもいるし、テキトーに歩いてると、罠にかかったりするから」
「罠? そんなのあるのか?」
「つくるモンスターもいるぞ? 冒険者を続けていれば、いずれ出くわすだろうな」

 さて、そろそろ警戒を強めるとしよう。
 この足跡の主が近くにいるのか。
 今のうちに確認しておいた方が安全だ。

「【空間知覚強化】、【索敵範囲強化】」

 俺は自分に二つの効果を付与した。
 これで俺は、周囲の地形や生き物の接近を感じ取ることが出来る。
 範囲内にウルフの群れは感知できない。

「もう少し進んでみようか」

 そう言って俺が先頭に立ち彼女たちが後に続く。
 普段ならありえないことだ。
 付与術師の俺が、パーティーを先導するなんてな。
 ある意味新鮮な感じで、悪くはないけど。

 しばらく進み、ピタリと立ち止まる。
 俺たちが進んでいる先に、複数の気配が蠢いている。
 ゆっくりと茂みに隠れながら近づいて……

「いたぞ」
「四匹ですね」
「ああ」

 グレーウルフの群れが一本の木の下で休憩していた。
 数は予想通り四匹。

「じゃあ作戦だけど、ウルフの習性は――」
「そんなのいらないって! ウルフくらい余裕で倒せるし」
「いや、今回は群れだぞ?」
「関係ないね。何匹だろうとちょっと凶暴な犬に負けるわけないもん。なっ?」
「え、で、でも……」

 自信たっぷりのステラに対して、ミルアは困った表情を見せる。
 ここはリーダーとしてビシッと判断してほしい所だが、どうやら難しそうだ。
 仕方ない、ここは俺が折れるとしよう。
 彼女たちの腕前を見る良い機会だ。

「わかった。君たちに任せよう」
「よっしゃ! じゃあフィー、最初に一発かましてよ」
「うん」

 ステラに言われ、ソフィアが杖を構える。
 彼女は魔法使いだ。
 杖に魔力を込め、魔法陣を展開させる。
 青白い魔法陣はウルフへ照準を合わせ、彼女の詠唱と共に放たれる。

「ライトニングボルト」

 雷撃がウルフを襲う。
 敵意を感知したウルフは、一瞬早く回避行動をとっていた。
 それでも一匹には直撃し、倒すことが出来たようだ。

「いくぜ!」
「私も!」

 ステラが槍を構えて飛び出し、少し遅れてミルアが出ていく。
 
 さてさて、お手並み拝見だが……
 彼女たちは、ちゃんと周りに気付いているのだろうか。
 ウルフの習性を知っていれば、警戒するはずなんだけど。

「あたしがこっちの二匹やるから! ミルアはそっち頼むよ!」
「うん、わかった!」

 役割分担は悪くない。
 剣より槍のほうが、複数を相手にするには向いている。
 それから、ステラの動きも良い感じだ。
 槍さばきは我流でめちゃくちゃだけど、足さばきとスピードは才能を感じる。
 剣士のミルアも、ウルフと上手く立ち回っている。
 二人とも個人の動きとしては良い。
 だからこそ、勿体ない。

「……」

 隣でステラが杖をもって動かない。
 いや、動けないというのが正しいだろう。
 前衛で戦う二人を援護したいと思いながら、敵との距離が近すぎて手出しできない。
 若干前のめりになっている姿勢が物語っている。
 本当にもったいない。
 上手く連携すれば、四匹程度なら一分もかからないだろうに。

 そして、懸念した通りだ。
 彼女たちは気付いていない。

「まず一匹!」

 ステラがウルフの一匹を倒した。
 それとほぼ同じタイミングで、ミルアがもう一匹を倒す。
 残るは一匹、ステラは余裕の表情で槍を構える。
 すぐに追撃しない慢心。
 ウルフは吠える。
 高々と、森へ響き渡るほど大きな声で。

「うるさいなー! 泣いてもこれで終わりだぜ!」

 ステラが最後のウルフへ突っ込んでいく。
 いや、この場合……最後という表現は間違いだ。
 なぜなら――

「ステラ! 横!」

 ウルフの遠吠えは、群れを呼ぶ合図なのだから。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...