おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ

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14.最終日

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 一日目が終わり、二日目が始まる。
 日を跨ぐごとに緊張はほぐれ、自然体で接することが出来るようになる。
 ステラには槍の使い方を教えることになった。
 クエストとは別で時間を作り、個人的な特訓に付き合う。
 その様子を見ていたミルアが……

「私も剣の使い方を教えてほしいです!」

 と言い出すまで、時間はあまりかからなかった。
 結局、最終的には三人それぞれで時間を作り、個別指導をすることになった。
 これが中々にハードスケジュールだ。
 
 早朝、ミルアの剣術稽古に付き合う。
 剣術に関しては、知り合いに恐ろしいほど強い剣士がいて、そいつの訓練に付き合っていたから、そこらへんの剣士より自信があるぞ。

 それからギルド会館が開く時間まで訓練して、他の二人と合流。
 クエストを受けてエリアに向う。
 終わって街に戻ったら夕方になっていることが多い。
 そこからステラの特訓開始だ。
 クエスト後で疲れも溜まり、空腹にも耐えながら頑張る。
 
 その後は三人で夕食を取り、すっかり夜も遅い時間だ。
 ただし、まだ仕事は終わらない。
 夕食後からソフィアの特訓が始まる。
 特訓と言っても、彼女の場合は勉強と言い換えたほうが正しい。
 俺は魔法が使えるわけじゃないからな。
 持っている知識を伝えて、今の彼女が使える魔法や応用について一緒に考える。
 ソフィアが眠たくなったら、おしまいの合図だ。

 予定がすべて終わって解散する頃には、午後十時を超えている。
 宿屋に戻った俺は、軽くシャワーだけ浴びて倒れるようにベッドに入る。

「……これ今までで一番大変かも」
 
 そう呟いて、直後には眠りについていた。


 早朝。
 俺はアリアに呼び出されてギルド会館へ足を運んだ。
 この日はオフで、ゆっくり休もうと思っていたから、ちょっぴり不機嫌だ。

「なんて顏してるのさ」
「いや別に……で、何の用だ?」
「途中経過の確認だよ。雇い主として、君がしっかり仕事をしているか聞こうと思ってね」
「それで呼んだのか」
「ええ。さっそく聞かせてもらえるかしら?」

 アリアは楽しそうに尋ねてきた。
 疲れている俺は、やれやれと思いながら語りだす。
 極力簡単に、すぐに状況が伝わるように説明して、彼女はそれを頷きながら聞いている。

「なるほどなるほど。中々大変みたいだね」
「だから一刻も早く帰って休みたいんだが?」
「ふふっ、それで不機嫌だったの?」
「そうだよ」
「だったら呼んで正解だったわね」

 アリアは楽しそうにクスクス笑う。
 面白がっているのが表情から伝わってくるようだ。

「じゃ、用は済んだし帰るぞ」
「ええ~ もうちょっと話を聞かせてよ」
「近況なら伝えただろ」
「そうじゃなくて、君の感想が聞きたいな」
「感想?」
「ええ。どう? アドバイザーになってみて」

 そう言ってアリアは、優しく微笑み首をちょこっと傾ける。
 俺は少し考えて、最初に思いついたことを口にする。

「そりゃまぁ、大変だよ」

 パーティーの一員として冒険に出る方が、よっぽど楽だと思う。
 それを実感する毎日だ。
 だけど――

「そう。でも、嫌じゃないでしょ?」
「……まぁな」

 アリアには見透かされていた。
 そうだ、嫌じゃない。
 むしろ楽しいとさえ思ってしまっている。
 人に何かを教えるのは難しいけど、ちゃんと伝わったときに込み上げてくる達成感。
 成長が垣間見えたら、それをもっと感じられる。

「生意気なところはあるけど、三人とも素直だからな。今はちゃんと言ったことを守ってくれるし、頼られるのも悪い気分じゃない」
「そう。君ならそう言うと思っていたわよ」
「またそういう」

 見透かしたような瞳で見てくる。
 何年経っても、アリアには敵う気がしないな。

「じゃあな」
「ええ。終わったらまた聞かせてね」

 俺は手を振り部屋を出る。
 ギルド会館を出てしばらく歩いていると、反対側から三人の姿が見えた。
 ミルアが最初に気付いて、俺に手を振ってくる。

「シオンさーん!」
「おう。三人で買い物か?」
「そうだぜ! シオンは何してたんだ?」
「俺はアリアと話してきた所だ」
「そうだったんですね」

 彼女たちを見て、アリアとの話を思い出す。
 終わったら……か。
 そうか、もう半分は過ぎてしまったんだな。

「シオンさん?」
「何でもない」

 追い出される以外でパーティーを抜けるのは、きっと何倍も寂しいんだろうな。
 せめて残りの一週間は、やれるだけ頑張ってみよう。

 そして――

 あっという間に最終日を迎えた。
 ギルド会館に集まった三人に向けて、俺は改まって言う。

「三人とも、この二週間よく頑張ったな。アドバイザーとして関わるのも、今日で最後だ」

 俺がそう言うと、三人はわかりやすくしょんぼりしていた。
 呆れたように笑い、続けていう。

「俺から見て、君たちは成長したと思う。それを今から、実戦で証明してほしい」
「証明……ですか?」
「どういう意味だよ」
「簡単だ。俺抜きでクエストに行って、無事に達成して戻ってこれば良い」

 受けるクエストは決めてある。
 最初に受けた三つ。
 薬草採取、トラップ回収、ウルフ討伐だ。
 これを難なくこなせるなら、成長していると言えるだろ。
 何より、冒険者として飯を食うなら、それくらい出来ないと駄目だ。

「やれるか?」
「はい!」
「もちろんだぜ! みっちり鍛えられたしな!」
「うん」
「よし、じゃあ頑張って来い」

 この日、俺は初めて彼女たちを見送った。
 子供の門出を心配する親の気持ちが、何となくわかった気がするよ。
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