おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ

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18.これからも

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「トロールは八体だけだったんだね?」
「いや九体だ。三人が一体倒したらしいから」
「へぇー、それはすごいね。トロールは格上のモンスターなのに」
「ああ、まったくだよ。その後も八体相手に、俺が来るまでよく持ちこたえたもんだ」

 戦いが終わり、俺はギルド会館の一室でアリアと話をしている。
 現在の時刻は午前二時。
 本来なら閉館している時間だが、ことの顛末を伝えるために呼び出されていた。
 外は真っ暗で、道には誰も歩いていない。
 ギルド会館にいるのも、俺とアリアの二人だけだ。

「あの子たちは?」
「宿屋に戻らせたよ。さすがに疲れてたから、ゆっくり休めって言っておいた」
「そうか」

 色々と聞きたそうな感じだったけど、疲労のほうが大きかったらしい。
 戦いが終わって街に戻った頃には、まっすぐ歩けないくらいヘトヘトになっていた。
 ポーションは傷を治せるだけで、体力までは戻せない。
 ちなみに、三人が守っていた男性も無事だ。

「それにしてもさ。何でトロールが出てきたんだ? それも九体だぞ」
「ええ、明らかに異常ね」

 トロールの縄張りは、サザーク森林の深部。
 基本的に彼らは、縄張りからはあまり出てこない。
 狩りをするために数匹が出てくることはあっても、あんな浅い所までは来ないはずだ。
 理由は簡単で、危険だから。
 俺たちにとって深部が危険な場所であるように、モンスターにとっては、街に近い浅い層のほうが危険なんだ。
 だから、強いモンスターほど深部に縄張りをもつ。

「冒険者を狩りに来たのかな?」
「それは考えにくいんじゃないか? 確かにトロールは人を食らうけど、好き好んで食べているわけじゃないはずだぞ」
「そうよねぇ。考えられるとすれば、深部で何かがあった……ってことくらいかしら?」
「かもしれないな」

 トロールの縄張りを脅かす存在が現れたか。
 もしくは、トロールを操っている奴でもいるのか。
 後者だとしたら、かなり危険な状況かもしれない。

「一先ずここまでね。あとはギルドで調査を進めるわ」
「ああ、頼む」
「もしもの時は、また声をかけるわよ」
「わかってる」

 そうならないことを願っている。
 
  
 翌日の朝。
 俺がギルド会館に向うと、入り口前で三人が待っていた。

「シオンさん、おはようございます!」
「おはよう!」
「おはようございます」

 三人とも元気そうだ。

「おはよう。じゃあ行こうか」

 そのまま一緒にギルド会館の中へ入る。
 普段はクエストボードへ向かうが、今日は別の場所に用がある。

「アリア、入るぞ」

 ギルドマスターの部屋。
 俺はノックし声をかけて、扉を開ける。 

「やぁ、来たね」

 待っていたのはアリアと、隣に立つエマだ。
 俺たちが右のソファーに腰掛け、アリアは反対側に座る。
 向かい合ってから、改まってアリアが口を開く。

「さて、色々とトラブルはあっけど、昨日でちょうど二週間だ。シオン、お疲れ様」
「ああ、本当に疲れたよ」
「ふふっ、君たちはどうだったかな? シオンの指導は」

 アリアが尋ねると、ミルアが最初に答える。

「とっても良かったです! わかりやすくて、丁寧で、優して」
「そうそう! そんでめちゃくちゃ強いんだよな~」
「うん……格好良かった」

 質問の答えは、三人とも大満足。
 その後もべた褒めが続いて、聞いているこっちが恥ずかしくなる。
 アリアもニヤニヤしながら、俺の反応をみて楽しんでいたよ。

「そう、大成功ってことで良さそうね」

 アリアはそう言って、俺と目を合わせた。

「みたいだな」
「君はどうだった? 大変だった以外の感想はある?」
「……そうだなぁ」

 二週間を思い返す。
 最初に出てくる感想は、やっぱり大変だった、だ。
 人に何かを教える……人を育てることが、こんなにも難しいとは思わなかった。
 楽をしたい俺にとっては、出来れば避けたいことだ。
 だけど――

「楽しかったよ。大変だったのに、不思議と悪くない気分だ」

 人を育てる大変さを知った。
 同時に、育てた人が成長していくことの喜びも知れた。
 だからかもしれない。
 またやっても良いとか、らしくないことを思ってしまうのは。

「そういう意味じゃ、ちょっと名残惜しいかな」
「ふふっ、たぶんそれは君より彼女たちのほうだと思うけどね?」
「ん?」

 アリアに言われて、三人に目を向ける。
 そして、すぐに伝わった。
 三人の瞳から、表情から、まだ終わってほしくないという意思が。

「あの……私たち、もっとシオンさんに教えてもらいたいです!」
「槍の特訓も途中だぜ!」
「勉強頑張る」

 伝わる好意は素直に嬉しかった。
 応えてあげたいとも思う。

「なるほど、だったらこうするのはどうかな? アフターサービスとして相談役を継続する。常にとはいかないけど、困ったときは頼れるようにね。もちろん、君たちが良ければだけど」
「はい! そうしてほしいです!」
「シオンは? やってくれる?」
「お兄さん」

 期待の視線が俺に向けられる。
 まったく……そんな風に見つめられたら、断れるわけないだろ。
 いや、断るつもりなんて、最初からなかったけどさ。

 だから――

「ああ。喜んで受けよう」

 これからもよろしく。
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感想 17

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みんなの感想(17件)

A・l・m
2022.12.04 A・l・m

忘れてた。

薬草の臭いが嫌い、であればポーションなり、濃縮青汁なりで魔物よけ作れそう。

解除
A・l・m
2022.12.04 A・l・m

……付与術関係無い……。

それとも、相乗効果なのかな?

解除
A・l・m
2022.12.03 A・l・m

読み返し。

新人冒険者がよくやるミス……。
『セコイアの木は磁力を帯びてて方位磁石をずらすんだ、遠方から来たやつは知らない』


それは冒険者じゃなくてギルドのミスだー!
さて続きと。(完結しちゃったなー)

解除

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