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「フリルヴェール、君との婚約を……破棄させていただく」
二人きりの部屋の中。
彼は私から視線をそらしてそう言った。
私は驚かない。
表情も変えず、ただじっと見つめる。
婚約者だった男性のことを。
「……」
「ジルムット公爵とは話がついている。すまないがこれは決定事項だ」
「そうですか。わかりました。短い間でしたが、楽しかったです」
「……?」
淡々と返す私に、元婚約者は呆気にとられたような表情をする。
意外だったのだろう。
私がもっと悲しんだり、取り乱すことを期待したのかもしれない。
残念ながらそうはならなかった。
私は呆れながら微笑む。
「どうしたの? まさか、私が悲しみに暮れると思っていたのかしら?」
「あ、いや……」
もう婚約者でもないんだ。
変に畏まったり、下手に出る必要もなくなった。
いつも通りに。
「残念だったわね。慣れっこなのよ、こんなことくらいは」
そう、慣れている。
婚約して、破棄される。
この流れも五回目になると、私の感情は揺さぶられない。
最初からわかっていたことだ。
「二か月……いえ一か月半くらいかしら? むしろよく持ったほうね。前の方なんて二週間で婚約破棄を申し出てきたわ。その中じゃ、あなたは頑張ったほうよ」
「……君は、自覚がないのか? どうして僕が婚約を破棄するのか」
「わかってるわよ? 理由くらい」
私は話しながら自分の目を指さす。
ぱっちりとわかりやすく開いて、彼を見つめながら。
「この眼が気に入らないのでしょう? 二人目の元婚約者に聞いたわ」
私の瞳は瑠璃色をしている。
珍しい色の瞳だと自分でも理解していた。
ただ、それだけなんだ。
色が珍しいだけで、特別な意味も力も宿していない。
ただの瞳……それを皆が嫌う。
「まるで、自分の心の中を見透かされているようで気持ちが悪い……でしょう?」
「……その通りだ。君を前にすると、どうにも背筋がぞっとする。見られているだけで、心を握りつぶされているような感覚に陥る。正直、こうして対面で話していることもきつい」
「でしょうね。汗がにじみでているわよ」
「……」
彼は私のことを睨んでいる。
とても元婚約者に向けるような視線じゃなかった。
私と関わった人は皆、彼のような顔をする。
訝しんで、恐れて、一秒でも早く逃げ出したいと表情に漏れている。
「用は済んだのでしょう? 早く出て行ってくれないかしら? ここは私の部屋よ。関係ない人に踏み入ってほしくないわ」
「……そんな態度だから、嫌われるんだぞ」
「あら、忠告してくれるの? 優しいわね。けど不要よ。なんとも思っていない相手に好かれようと、嫌われようと私は何も感じない。あなただって、私のことが好きだから婚約者になったわけじゃないでしょう?」
「……まったくその通りだ。君との婚約を破棄できることに、清々しさすら感じている」
珍しいことに多少の申し訳なさもあったみたいだ。
でも、私とのやり取りで罪悪感も消えて、貴族らしい横柄な態度を見せる。
これでいい。
私も二度と、彼と関わるつもりはない。
名前すら思い出す気にもならない。
「それでは失礼する。君にも新しい出会いが待っていることを祈るよ」
「ありがとう。あなたも頑張ってね? 私と違って、あの子は人気者よ?」
「……そうだね。姉妹なのにこうも差があるとは思っていなかった」
「ふっ、私もよ」
捨て台詞を吐いて扉を勢いよく開閉する。
元婚約者の男性はいなくなる。
こうして私は一人になった。
また……同じように。
「はぁ……」
椅子に腰かけ、外を見つめる。
五回目の婚約破棄。
慣れてしまえばどうってことはない。
嫌われるのも慣れている。
今に始まったことじゃない。
私は……物心ついた時から嫌われていた。
この瞳の色のせいで。
二人きりの部屋の中。
彼は私から視線をそらしてそう言った。
私は驚かない。
表情も変えず、ただじっと見つめる。
婚約者だった男性のことを。
「……」
「ジルムット公爵とは話がついている。すまないがこれは決定事項だ」
「そうですか。わかりました。短い間でしたが、楽しかったです」
「……?」
淡々と返す私に、元婚約者は呆気にとられたような表情をする。
意外だったのだろう。
私がもっと悲しんだり、取り乱すことを期待したのかもしれない。
残念ながらそうはならなかった。
私は呆れながら微笑む。
「どうしたの? まさか、私が悲しみに暮れると思っていたのかしら?」
「あ、いや……」
もう婚約者でもないんだ。
変に畏まったり、下手に出る必要もなくなった。
いつも通りに。
「残念だったわね。慣れっこなのよ、こんなことくらいは」
そう、慣れている。
婚約して、破棄される。
この流れも五回目になると、私の感情は揺さぶられない。
最初からわかっていたことだ。
「二か月……いえ一か月半くらいかしら? むしろよく持ったほうね。前の方なんて二週間で婚約破棄を申し出てきたわ。その中じゃ、あなたは頑張ったほうよ」
「……君は、自覚がないのか? どうして僕が婚約を破棄するのか」
「わかってるわよ? 理由くらい」
私は話しながら自分の目を指さす。
ぱっちりとわかりやすく開いて、彼を見つめながら。
「この眼が気に入らないのでしょう? 二人目の元婚約者に聞いたわ」
私の瞳は瑠璃色をしている。
珍しい色の瞳だと自分でも理解していた。
ただ、それだけなんだ。
色が珍しいだけで、特別な意味も力も宿していない。
ただの瞳……それを皆が嫌う。
「まるで、自分の心の中を見透かされているようで気持ちが悪い……でしょう?」
「……その通りだ。君を前にすると、どうにも背筋がぞっとする。見られているだけで、心を握りつぶされているような感覚に陥る。正直、こうして対面で話していることもきつい」
「でしょうね。汗がにじみでているわよ」
「……」
彼は私のことを睨んでいる。
とても元婚約者に向けるような視線じゃなかった。
私と関わった人は皆、彼のような顔をする。
訝しんで、恐れて、一秒でも早く逃げ出したいと表情に漏れている。
「用は済んだのでしょう? 早く出て行ってくれないかしら? ここは私の部屋よ。関係ない人に踏み入ってほしくないわ」
「……そんな態度だから、嫌われるんだぞ」
「あら、忠告してくれるの? 優しいわね。けど不要よ。なんとも思っていない相手に好かれようと、嫌われようと私は何も感じない。あなただって、私のことが好きだから婚約者になったわけじゃないでしょう?」
「……まったくその通りだ。君との婚約を破棄できることに、清々しさすら感じている」
珍しいことに多少の申し訳なさもあったみたいだ。
でも、私とのやり取りで罪悪感も消えて、貴族らしい横柄な態度を見せる。
これでいい。
私も二度と、彼と関わるつもりはない。
名前すら思い出す気にもならない。
「それでは失礼する。君にも新しい出会いが待っていることを祈るよ」
「ありがとう。あなたも頑張ってね? 私と違って、あの子は人気者よ?」
「……そうだね。姉妹なのにこうも差があるとは思っていなかった」
「ふっ、私もよ」
捨て台詞を吐いて扉を勢いよく開閉する。
元婚約者の男性はいなくなる。
こうして私は一人になった。
また……同じように。
「はぁ……」
椅子に腰かけ、外を見つめる。
五回目の婚約破棄。
慣れてしまえばどうってことはない。
嫌われるのも慣れている。
今に始まったことじゃない。
私は……物心ついた時から嫌われていた。
この瞳の色のせいで。
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