8 / 9
8
しおりを挟む
「婚約者……? 私が、殿下の?」
「そうだ」
「どうして、ですか?」
「お前のことが気に入った。その力もそうだが、俺を相手に物怖じしない態度も面白い。俺はずっと探していたんだ。共にこの国を変えることができる存在を。きっとお前がそれだ」
笑みを浮かべてそう言い切る殿下に、私は首を傾げる。
私の何を評価してくれているのか。
異能だけを必要とされるほうがまだ説得力がある。
「知っての通り、俺は王位継承権を争う立場にある。その上で、婚約者の存在は重要な要素だ。より優れた人物……立場、地位、思想……もしくは、絶対的な力を持つ者が隣にいれば、それだけ俺を支持する者が増えるだろう」
殿下は語る。
要するに、自分が王になるために力を貸せ、と言っているのか。
私のことが気に入ったとか言いながら、結局力がほしいだけ。
まぁ、わかっていたけど。
「でしたら私でなくてもいいでしょう? 私より姉のエレナのほうが、立場も力もあります」
「いいや、お前でなくてはダメだ。俺の隣に、お前以上の適任はいない」
断固として言い切る姿勢に私は疑問を抱く。
そこまでして私の力がほしい?
だとしても他に方法はある。
わざわざ目立つような婚約者に置かなくても、利用する方法なんて……。
「俺の母は無能力者だった」
「――!」
突然語り出す。
きっと、納得いかない私に知らせるために。
彼は過去を、願いを語る。
「無能力者がこの国でどういう扱いを受けるのか。お前ならよく知っているだろう?」
「……」
もちろん知っている。
知り尽くしている。
この身で十年以上味わってきたのだから。
「加えて母は唯一の一般女性だった。周囲の締め付けは激しく、父でさえ母のことを疎ましく思っていた。俺が異能者だったから尚更、母の存在は邪魔だったのだろう」
まるで私たち双子の姉妹の話を聞いてるようだった。
「待遇に耐えかねた母は失踪した。俺は……優しい母が好きだった。あの人の笑っている顔が見たかった……だが、この国では、世界ではそれが叶わないと悟った。だから、俺が変える」
彼は拳を握る。
決意するように。
想いを打ち明ける。
「この話を知っているのは王族と、ごく一部の貴族のみ。大半は知らないが、自然と支持率は低い。俺は八人の候補の中で一番期待されていない。俺の異能者としての資質だけでは、ついてくる者は限られている」
「……だから、私ですか?」
「ああ。お前は、持たざる者の苦しみを知り、共有できる存在だ。俺はずっと待っていた。お前のような存在が現れることを。だから、お前は俺の婚約者になれ」
「……」
彼の思いはわかった。
共感できる部分は多い。
彼の願いは、異能者だけが優遇される世界を変えること。
彼の母親が堂々と生きられる世界にすること。
それはとても素晴らしいことだと思う。
でも私は……。
「私は平穏に暮らしたいだけです」
「知っている。だが、断ればどうせ平穏はない。このことを俺が公表する」
「っ……」
「どうなるか想像に容易いだろう?」
ここにきて脅し……。
優しい人なのかと思ったけど、いい性格しているわね。
「断っても受け入れても、今まで通りの生活はできないぞ? だったら俺の婚約者になるほうが得だとは思わないか?」
「……」
「それに、俺の婚約すれば間違いなく、お前の両親や周囲の人間は驚き動揺するだろうな。なぜお前がそこにいるのかと……悔しがるかもしれない。今まで見下していた相手が自分より上にいる。さぞ気分が悪いだろう。反対にお前は――」
気分がいい。
想像してしまった私は、思わずニヤリと笑みを浮かべる。
私は自分で思っていた以上にネチネチした性格なのかもしれない。
皆が私を羨ましく思うことに、優越感を抱いてしまった。
「お前にとっても悪くない話だ。」
「……一つ、確認してもいいでしょうか」
「なんだ?」
「殿下が目指す未来で、私は平穏な暮らしができますか?」
私の願い平穏な暮らし。
意趣返しができようと、すっきりしようと。
それが達成できなければ意味はない。
「俺が保証しよう。俺の目的が達成されたなら、お前は望んだ暮らしを手に入れられる」
「――わかりました」
その一言で、私は決心した。
どうせバレてしまったのなら、盛大にこの機会を利用しよう。
私を見下していた人たちをギャフンと言わせて、最後には平穏な暮らしを手に入れる。
最高の人生設計のために。
「そうだ」
「どうして、ですか?」
「お前のことが気に入った。その力もそうだが、俺を相手に物怖じしない態度も面白い。俺はずっと探していたんだ。共にこの国を変えることができる存在を。きっとお前がそれだ」
笑みを浮かべてそう言い切る殿下に、私は首を傾げる。
私の何を評価してくれているのか。
異能だけを必要とされるほうがまだ説得力がある。
「知っての通り、俺は王位継承権を争う立場にある。その上で、婚約者の存在は重要な要素だ。より優れた人物……立場、地位、思想……もしくは、絶対的な力を持つ者が隣にいれば、それだけ俺を支持する者が増えるだろう」
殿下は語る。
要するに、自分が王になるために力を貸せ、と言っているのか。
私のことが気に入ったとか言いながら、結局力がほしいだけ。
まぁ、わかっていたけど。
「でしたら私でなくてもいいでしょう? 私より姉のエレナのほうが、立場も力もあります」
「いいや、お前でなくてはダメだ。俺の隣に、お前以上の適任はいない」
断固として言い切る姿勢に私は疑問を抱く。
そこまでして私の力がほしい?
だとしても他に方法はある。
わざわざ目立つような婚約者に置かなくても、利用する方法なんて……。
「俺の母は無能力者だった」
「――!」
突然語り出す。
きっと、納得いかない私に知らせるために。
彼は過去を、願いを語る。
「無能力者がこの国でどういう扱いを受けるのか。お前ならよく知っているだろう?」
「……」
もちろん知っている。
知り尽くしている。
この身で十年以上味わってきたのだから。
「加えて母は唯一の一般女性だった。周囲の締め付けは激しく、父でさえ母のことを疎ましく思っていた。俺が異能者だったから尚更、母の存在は邪魔だったのだろう」
まるで私たち双子の姉妹の話を聞いてるようだった。
「待遇に耐えかねた母は失踪した。俺は……優しい母が好きだった。あの人の笑っている顔が見たかった……だが、この国では、世界ではそれが叶わないと悟った。だから、俺が変える」
彼は拳を握る。
決意するように。
想いを打ち明ける。
「この話を知っているのは王族と、ごく一部の貴族のみ。大半は知らないが、自然と支持率は低い。俺は八人の候補の中で一番期待されていない。俺の異能者としての資質だけでは、ついてくる者は限られている」
「……だから、私ですか?」
「ああ。お前は、持たざる者の苦しみを知り、共有できる存在だ。俺はずっと待っていた。お前のような存在が現れることを。だから、お前は俺の婚約者になれ」
「……」
彼の思いはわかった。
共感できる部分は多い。
彼の願いは、異能者だけが優遇される世界を変えること。
彼の母親が堂々と生きられる世界にすること。
それはとても素晴らしいことだと思う。
でも私は……。
「私は平穏に暮らしたいだけです」
「知っている。だが、断ればどうせ平穏はない。このことを俺が公表する」
「っ……」
「どうなるか想像に容易いだろう?」
ここにきて脅し……。
優しい人なのかと思ったけど、いい性格しているわね。
「断っても受け入れても、今まで通りの生活はできないぞ? だったら俺の婚約者になるほうが得だとは思わないか?」
「……」
「それに、俺の婚約すれば間違いなく、お前の両親や周囲の人間は驚き動揺するだろうな。なぜお前がそこにいるのかと……悔しがるかもしれない。今まで見下していた相手が自分より上にいる。さぞ気分が悪いだろう。反対にお前は――」
気分がいい。
想像してしまった私は、思わずニヤリと笑みを浮かべる。
私は自分で思っていた以上にネチネチした性格なのかもしれない。
皆が私を羨ましく思うことに、優越感を抱いてしまった。
「お前にとっても悪くない話だ。」
「……一つ、確認してもいいでしょうか」
「なんだ?」
「殿下が目指す未来で、私は平穏な暮らしができますか?」
私の願い平穏な暮らし。
意趣返しができようと、すっきりしようと。
それが達成できなければ意味はない。
「俺が保証しよう。俺の目的が達成されたなら、お前は望んだ暮らしを手に入れられる」
「――わかりました」
その一言で、私は決心した。
どうせバレてしまったのなら、盛大にこの機会を利用しよう。
私を見下していた人たちをギャフンと言わせて、最後には平穏な暮らしを手に入れる。
最高の人生設計のために。
26
あなたにおすすめの小説
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
【完結】兄様が果てしなくアレなのですけど、伯爵家の将来は大丈夫でしょうか?
まりぃべる
恋愛
サンクレバドラー伯爵家は、果てしなくアレな兄と、私レフィア、それから大変可愛らしくて聡明な妹がおります。
果てしなくアレな兄は、最近家で見かけないのです。
お母様は心配されてますよ。
遊び歩いている兄様…伯爵家は大丈夫なのでしょうか?
☆この作品での世界観です。現実と違う場合もありますが、それをお考えいただきましてお読み下さると嬉しいです。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです
ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。
そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、
ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。
誰にも触れられなかった王子の手が、
初めて触れたやさしさに出会ったとき、
ふたりの物語が始まる。
これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、
触れることから始まる恋と癒やしの物語
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。
待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。
もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる