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三女サーシャ
①
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小さい頃から、身体を動かすことが好きだった。
勉強は苦手だし、女の子らしくお淑やかにするのも窮屈だったから。
身体を動かしている間は、余計なことを考えなくて良い。
聖女になってからも、それは変わらなかった。
日々のお務めよりも、騎士の人たちと稽古したり、庭を走り回るほうが楽しい。
そんなある日、騎士の人から冒険者というお仕事があるという話を聞いた。
冒険者は言葉通り、森とか洞窟とか、色々な場所を冒険する人のこと。
ギルドという所に所属して、冒険ついでに依頼をこなし、報酬をもらって生活しているらしい。
ボクはその話を聞いた時、なんてピッタリな仕事があるんだ、と思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
清々しい朝が来た。
窓から差し込む日差しに刺激されて、瞼がパッチリと開く。
目をこすり、身体を起こして背伸びをする。
時計を確認すると、午前六時半を指していた。
「ぅ~ もう朝か~」
身体も頭も半分は眠っているような感じがする。
寝起きはいつもこんな感じで、ベッドから降りるまで時間がかかる。
そしてカチカチと時計の針が進み、しばらくすると――
「サーシャ! もう朝だから起きなさい」
と、扉の向こう側からアイラお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
これも普段通り。
「はーい!」
アイラお姉ちゃんの声がボクにとっての目覚まし代わりだ。
身体と頭が目覚めたボクは、ベッドから起きて服を着替える。
そのまま支度を済ませて、一階まで降りる。
食堂へ行くと、二人のお姉ちゃんが待っていた。
「おっはよー!」
「……遅い」
「もう、いいかげん一人で起きられるようになりなさい」
「えへへへっ、ごめんなさい」
よく言われているけど、直らないと自覚している。
だって一人で起きられるようになったら、もうアイラお姉ちゃんが起こしに来てくれないから。
三人で食卓を囲む。
料理はアイラお姉ちゃんがしてくれている。
ボクとカリナお姉ちゃんは、あんまり料理が得意じゃない。
だからボクは、代わりに洗濯物を干したり、掃除したりを手伝っている。
「アイラお姉ちゃんは今日も聖堂にいくの?」
「ええ、帰りはいつもの時間になるわ」
「わかった! カリナお姉ちゃんもお仕事だよね?」
「そうよ」
王国を出て三か月くらい。
この借家での暮らしも慣れてきている。
ボクたちはそれぞれに仕事を見つけて、それなりに忙しい日々を送っていた。
アイラお姉ちゃんは王城近くの聖堂で、聖女として街の人たちと関わっている。
何でも王子様と縁があったみたいで、その時に聖女だったこともバレてしまったらしい。
その後に色々あって、結局は前と同じようなことをしている。
だけど、見ていて前より楽しそうだから、これで良かったのだと思う。
カリナお姉ちゃんは街の図書館で司書をしている。
初めてここへ来た日も、司書になりたいと言っていた。
元々本が好きだったカリナお姉ちゃんには、ピッタリの仕事だと思う。
他にも色々とあるみたいだけど、詳しいことは教えてくれない。
ただ、カリナお姉ちゃんも楽しそう。
そしてボク、三女のサーシャはというと……
「サーシャは今日もギルドへ行くのよね?」
「もちろん! ボクは冒険者だからね!」
ずっとなりたかった職業についている。
冒険者――依頼を受けて魔物を狩ったり、未知の場所を探検する職業。
身体を動かしてお金を稼ぐ仕事の中で、一番自由な職業だと思う。
「いつも言ってるけど気を付けてね?」
「大丈夫だよ! アイラお姉ちゃん」
「サーシャちゃんの大丈夫は……あんまり信用できない」
「えぇ~ ひどいよカリナお姉ちゃん、ボクなら本当に大丈夫だよ? なんたって頼れる仲間がいるからね」
そう言って、僕は自分の胸をドンと叩く。
二人は心配そうな顔をしたまま、同じタイミングでため息をついた。
アイラお姉ちゃんが言う。
「その人にあんまり迷惑かけちゃダメよ?」
「甘えすぎも良くない」
「もぉー、じゃあどうすればいいのさぁ」
二人のお姉ちゃんは心配性だ。
ボクのことを心配してくれるのは嬉しいけど、少しは信用してほしいとも思う。
それにボクだって一人で冒険するわけじゃないから。
さっきも言った通り、頼れる仲間がいてくれる。
ちょっと変わった人だけど、頼りになってボクは大好きだ。
そのうち二人にも会わせてあげたいと思っている。
「ごちそうさま! じゃあ行ってくるね!」
「本当に気を付けるのよ!」
「行ってらっしゃい」
玄関にある剣を拾い、腰に装備してから出発する。
二人に見送られ、ボクは冒険者ギルドに向って走る。
「おはよう! サーシャちゃん」
「おっはよー!」
「サーシャは今日も元気だな~」
「えっへへ~ おじさんも元気出して行こう!」
この街の人たちは、とても暖かくてやさしい。
よそ者だったボクたちを快く出迎えてくれて、手を振ってあいさつもしてくれる。
綺麗な街に住んでいると、皆の心も綺麗になるのかな。
そんなことを考えながら、海の近くにある大きな建物にたどり着いた。
看板には大きな文字で『冒険者ギルドクレンベル支部』と書かれている。
勉強は苦手だし、女の子らしくお淑やかにするのも窮屈だったから。
身体を動かしている間は、余計なことを考えなくて良い。
聖女になってからも、それは変わらなかった。
日々のお務めよりも、騎士の人たちと稽古したり、庭を走り回るほうが楽しい。
そんなある日、騎士の人から冒険者というお仕事があるという話を聞いた。
冒険者は言葉通り、森とか洞窟とか、色々な場所を冒険する人のこと。
ギルドという所に所属して、冒険ついでに依頼をこなし、報酬をもらって生活しているらしい。
ボクはその話を聞いた時、なんてピッタリな仕事があるんだ、と思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
清々しい朝が来た。
窓から差し込む日差しに刺激されて、瞼がパッチリと開く。
目をこすり、身体を起こして背伸びをする。
時計を確認すると、午前六時半を指していた。
「ぅ~ もう朝か~」
身体も頭も半分は眠っているような感じがする。
寝起きはいつもこんな感じで、ベッドから降りるまで時間がかかる。
そしてカチカチと時計の針が進み、しばらくすると――
「サーシャ! もう朝だから起きなさい」
と、扉の向こう側からアイラお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
これも普段通り。
「はーい!」
アイラお姉ちゃんの声がボクにとっての目覚まし代わりだ。
身体と頭が目覚めたボクは、ベッドから起きて服を着替える。
そのまま支度を済ませて、一階まで降りる。
食堂へ行くと、二人のお姉ちゃんが待っていた。
「おっはよー!」
「……遅い」
「もう、いいかげん一人で起きられるようになりなさい」
「えへへへっ、ごめんなさい」
よく言われているけど、直らないと自覚している。
だって一人で起きられるようになったら、もうアイラお姉ちゃんが起こしに来てくれないから。
三人で食卓を囲む。
料理はアイラお姉ちゃんがしてくれている。
ボクとカリナお姉ちゃんは、あんまり料理が得意じゃない。
だからボクは、代わりに洗濯物を干したり、掃除したりを手伝っている。
「アイラお姉ちゃんは今日も聖堂にいくの?」
「ええ、帰りはいつもの時間になるわ」
「わかった! カリナお姉ちゃんもお仕事だよね?」
「そうよ」
王国を出て三か月くらい。
この借家での暮らしも慣れてきている。
ボクたちはそれぞれに仕事を見つけて、それなりに忙しい日々を送っていた。
アイラお姉ちゃんは王城近くの聖堂で、聖女として街の人たちと関わっている。
何でも王子様と縁があったみたいで、その時に聖女だったこともバレてしまったらしい。
その後に色々あって、結局は前と同じようなことをしている。
だけど、見ていて前より楽しそうだから、これで良かったのだと思う。
カリナお姉ちゃんは街の図書館で司書をしている。
初めてここへ来た日も、司書になりたいと言っていた。
元々本が好きだったカリナお姉ちゃんには、ピッタリの仕事だと思う。
他にも色々とあるみたいだけど、詳しいことは教えてくれない。
ただ、カリナお姉ちゃんも楽しそう。
そしてボク、三女のサーシャはというと……
「サーシャは今日もギルドへ行くのよね?」
「もちろん! ボクは冒険者だからね!」
ずっとなりたかった職業についている。
冒険者――依頼を受けて魔物を狩ったり、未知の場所を探検する職業。
身体を動かしてお金を稼ぐ仕事の中で、一番自由な職業だと思う。
「いつも言ってるけど気を付けてね?」
「大丈夫だよ! アイラお姉ちゃん」
「サーシャちゃんの大丈夫は……あんまり信用できない」
「えぇ~ ひどいよカリナお姉ちゃん、ボクなら本当に大丈夫だよ? なんたって頼れる仲間がいるからね」
そう言って、僕は自分の胸をドンと叩く。
二人は心配そうな顔をしたまま、同じタイミングでため息をついた。
アイラお姉ちゃんが言う。
「その人にあんまり迷惑かけちゃダメよ?」
「甘えすぎも良くない」
「もぉー、じゃあどうすればいいのさぁ」
二人のお姉ちゃんは心配性だ。
ボクのことを心配してくれるのは嬉しいけど、少しは信用してほしいとも思う。
それにボクだって一人で冒険するわけじゃないから。
さっきも言った通り、頼れる仲間がいてくれる。
ちょっと変わった人だけど、頼りになってボクは大好きだ。
そのうち二人にも会わせてあげたいと思っている。
「ごちそうさま! じゃあ行ってくるね!」
「本当に気を付けるのよ!」
「行ってらっしゃい」
玄関にある剣を拾い、腰に装備してから出発する。
二人に見送られ、ボクは冒険者ギルドに向って走る。
「おはよう! サーシャちゃん」
「おっはよー!」
「サーシャは今日も元気だな~」
「えっへへ~ おじさんも元気出して行こう!」
この街の人たちは、とても暖かくてやさしい。
よそ者だったボクたちを快く出迎えてくれて、手を振ってあいさつもしてくれる。
綺麗な街に住んでいると、皆の心も綺麗になるのかな。
そんなことを考えながら、海の近くにある大きな建物にたどり着いた。
看板には大きな文字で『冒険者ギルドクレンベル支部』と書かれている。
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