ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ

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第16話 変わっていない自分に気付く昼

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 結局、その日はミオナに案内してもらい、裏口から出て宿に向かう事になった。
 本当ならトライト家の馬車で繁華街まで出るつもりだったのだけれど、ビューホ様のせいでそれが出来ず、繁華街まで歩き、そこで辻馬車を拾った。
 あんな場面を目撃してしまった事により、これからの仕事をどうしようか考えた。

 彼女達からの逆恨みに怯えたり、シェーラ様に怯えながら仕事をしても捗らないだろうし、後の仕事はビューホ様に任せてもいいのかしら?
 あんな場面を見てしまった以上、仕事よりも証言集めをした方が良いのかもしれない。

 そう思った私は宿屋に帰り、明日からの予定を変更する事に決めた。

 私は友人からよく真面目すぎると言われていた。

 私もその自覚はあるのだけれど、気になってしまったら、いいかげんにする事ができない。

 自分の命の方が大事だと思っておきながらも、仕事を優先しようとしてしまうなんて冷静に考えればおかしいわ。

 しっかりしないと…!

 仕事の話は離婚の話と一緒にビューホ様に確認する事に決めた。

 私がやらなければ、メイドの給料が払えないかもとか色々と考えたから、離婚してしまう前に自分が出来る分はしてしまおうと思ったけれど、ミオナ以外のメイドには良くしてもらっているわけでもないし、私がそこまでしてあげる義理もないはず…。

 だって、給料を払う義務があるのはビューホ様なんだから。

 まずは、ビューホ様に群がっていた女性達がどこの令嬢かを書き出していき、訪ねていこうと思ったけれど、当たり前の事だけれど、皆、バラバラの地域に住んでいた。

 誰かとデートをしていても違う誰かにばったり会わないくらいの距離の女性を選んでいる様に思えて、そう考えると余計に不快な気持ちになった。

 フィナさん一筋だったならまだしも、ここまで来るとやり過ぎでしょう。
 先日のパーティーで尻尾を出してくれて本当に助かったわ。
 今回はお相手の女性もおかげで発覚できたという事もあるけれど。

 明日にやる事を考えた。
 ビューホ様を取り囲んでいた女性達に連絡を取る事と、イツースに行って私が元気だという事を伝えようと思った。
 マルルさん達に長い間、顔を見せないと心配させてしまうかもしれないから。

 令嬢達にはぜひ会って話を聞きたいんだけれど、想い人の妻である私と会ってくれるかしら?
 別れろと言われるかもとか、慰謝料の事を言われると思って、会ってくれない可能性もあるわよね…。
 彼女達は私がビューホ様と結婚する、もしくはした事を知っていて付き合っていたんでしょうし、私が慰謝料を請求したいところだけれど、離婚してからでも出来るのかしら?
 どちらにしても、彼女達に浮気の件で私がビューホ様と別れたいと思っている事を伝えないといけないわ。

 どうしたら、彼女達にその事を伝えられるか考えたけれど、噂を流す事くらいしか考えられず、とりあえず今日は体を洗ってから眠る事にしたのだった。

 そして、次の日の昼前にイツースに行くと、ジェリー様から手紙を預かっていると言われて、お店の休憩所で読ませてもらう事にした。

 話したい事があるから、イツースで待っていてほしいと書かれていて、マルルさん達にも話がついているとの事だった。
 本当はやりたい事があったのだけれど、公爵令息からの頼みを断る訳にもいかないし、大人しくイツースで待たせてもらっていると、ジェリー様が制服姿でやって来た。
 ダークブラウンのブレザーを着た彼は、いつもよりも幼気に見えて、学生鞄は持っていないけれど、手には白い紙を持っていた。

「ごきげんよう、ジェリー様」
「やあ。待たせてしまったみたいで申し訳ない」
「とんでもございません」

 ジェリー様が向かいの椅子に座り、私の向かい側に座った事を確認してから聞いてみる。

「あの、お話とは何でしょうか?」

 何か悪い事でもしてしまったのかしら。
 と不安に思ってドキドキしていると、ジェリー様が持っていた白い紙を私の方に差し出してきた。

「調査結果を渡しておく」
「……調査結果?」

 意味がわからないまま、差し出された白い紙を受け取ると、ジェリー様が答えてくれる。

「あなたの離婚に有利になると思われる情報を集めてみた」
「えっ!?」
「報告を聞いたけど、昨日は大変だったみたいだな」
「報告…?」

 どういう意味かわからなくて首を傾げると、ジェリー様が心配して私に護衛をつけて下さっていた事がわかった。

「ただ、トライト邸の中にまでは入れないから、そこは勘弁してもらえると助かる」
「そ、そんな護衛をつけてくださっていたなんて…。色々とご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「母上もあなたの事を気にしていたからやっただけで、気になるなら母上に言ってくれ。俺は迷惑だなんて思っていないから謝る必要はない」
「……ですが」
「気にしないでくれ。申し訳ないが、俺は女性の扱いには慣れていないんだ。しかも既婚女性なんて特に、こんな風に深く付き合った事はない。かといって、あなたを見捨てる事も出来ない。だから悪いが、早く離婚してくれ。あなたが俺と浮気しているだなんて噂が立てられたら、あなたに不利になるから」

 真剣な表情で離婚の話をされて、ここは神妙な面持ちで頷くところなのだけれど、なぜかホッとして笑みが零れそうになった。

 私は本当に馬鹿ね。
 自分で気持ちを切り替えたなんて思っていたけれど、全然出来ていなかった。

 離婚をすぐに出来なかったのは、でしかなかったからだわ。
 
 だけど、今、ジェリー様からと言われて、離婚がこれから私を雇ってくれる、ジェリー様の為になると思うと、心が吹っ切れた。
 
「私は、本当に駄目ですね…」
「ん?」
「いえ、何でもないです」

 ジェリー様から渡された紙を握りしめて、首を横に振る。

 この調査結果があれば離婚を有利に進められる。
 猶予など関係ない。

 私は明日、ビューホ様と離婚についての話し合いをする事に決めた。





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