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13 逃がすのはお断り
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マゼケキ様は数時間後に意識を取り戻しましたが、どんな状況で階段から落ちたかは「覚えてない」と言って話してくれませんでした。
下手に話をすれば、また自分の命が狙われると思ったのでしょう。
素直に真実を口にして、私達に助けを求めれば良い気もしますが、そうなると捕まることになりますし、罰も受けなければなりません。
どうしても、それが嫌なのでしょう。
普通は自分の命を優先すると思うのですが、そんな風に思えないから、安易に私を殺そうだなんて考えたんでしょうね。
「素直に話をしてくれたら、すぐに殺されることはないですわよ」
頭に包帯が巻かれたマゼケキ様に冷たい声で話しかけると、マゼケキ様は目を天井に向けたまま、涙目で尋ねます。
「すぐに殺されないということは、いつかは殺されるのか」
「あなたが悪いことをしなければ大丈夫です。ただ、痛い目に遭うことは覚悟してください」
「い、痛い目って、どんなだよ」
「そうですわね。ハンマーで指を叩く、爪を剥がすなとです」
「拷問じゃないか!」
「……では、そうですわね。近頃、貴族の女性の間で流行っている武器兼防具がありますの。そちらで殴られるのはいかがでしょう」
「……これ以上、痛い思いをしたくないんだ」
マゼケキ様は心底怯えているのか、目から大粒の涙を流しました。
自分が死ぬのは怖いのに、人の命を奪うことは良いだなんて呆れてしまいます。
自分が実行するわけじゃないから良いということなのでしょうか。
「痛い思いをしない人生は無理ですわね。あなたは、やってはいけないことをしましたから。ですが、生き残りたいなら、どちらに付くか考えたほうが良いですわね」
近くに立っていたメイドにも聞こえるように、少し大きめの声で言ってから、放心しているマゼケキ様を置いて、レイディスと共に部屋を出ました。
「あのメイドには、こっちが悪者みたいに見えただろうな」
「それで良いと思うわ。そのほうが向こうも動いてくれるでしょうから」
周りに人がいないことを確認してから、レイディスに頷きました。
部屋にいたあのメイドは、宰相のセインサーに飼われているという話ですから、今の話は彼女からセインサーの耳に届くでしょう。
こんな簡単な罠にかかるかはわかりません。
でも、向こうは私を甘く見ているはずです。
なら、焦る気持ちのほうが先にくるでしょう。
その日の晩は、夜中に起きなければいけない可能性があったため、体調不良のふりをして、早めに眠ることにしたのでした。
******
「うわあああ! 誰か! 誰か助けてくれ!」
「くそっ!」
それから、2日が経った夜遅くのことです。
レイディスの部下が私の部屋にやって来て、セインサーが動き出したと教えてくれました。
そのため、セインサーが来るまでに、マゼケキ様の部屋に移動したのです。
セインサーは人を雇って、マゼケキ様を殺そうとしましたが、私を殺害しようとした罪で捕まった賊が拷問されたという話が周知されていたため、彼の仕事を受けてくれる人はいませんでした。
ですから、彼は自分で実行することにしたのです。
マゼケキ様には部屋から出ろと行っても恐怖で腰が抜けて動くことが出来なくなってしまい、担いでどこかに連れて行くには時間がなかったため、ベッドで静かにしているようにお願いしました。
でも、暗闇に慣れた目で部屋の扉がゆっくりと動いたことを確認した瞬間、黙っていられずに叫んだようです。
必ず助けるから大人しくしていろと言ったのに、無理なお願いでしたね。
ここで逃がせば、しばらくの間は向こうも慎重になることでしょう。
セインサーがマゼケキ様を毒殺するためか、毒の入った小瓶を入手しているのはわかっています。
そして、それが今、彼の上着のポケットに入っていることも――
「は、放してくれ! わたしはただ、マゼケキ様の様子を見に来ただけなんだ!」
レイディスの部下に両腕を掴まれたセインサーは、じたばたと暴れますが、力で兵士に勝てるはずがありません。
すぐに疲れ切って大人しくなりました。
「セインサー様、こんな時間にマゼケキ様にどういった御用ですか?」
「ど、どうしてあなたがここにいるんですか!?」
蝋燭の明かりに照らされた、恰幅の良い中年のセインサーは、部屋の奥から現れた私達を見て、驚きの声を上げたのでした。
下手に話をすれば、また自分の命が狙われると思ったのでしょう。
素直に真実を口にして、私達に助けを求めれば良い気もしますが、そうなると捕まることになりますし、罰も受けなければなりません。
どうしても、それが嫌なのでしょう。
普通は自分の命を優先すると思うのですが、そんな風に思えないから、安易に私を殺そうだなんて考えたんでしょうね。
「素直に話をしてくれたら、すぐに殺されることはないですわよ」
頭に包帯が巻かれたマゼケキ様に冷たい声で話しかけると、マゼケキ様は目を天井に向けたまま、涙目で尋ねます。
「すぐに殺されないということは、いつかは殺されるのか」
「あなたが悪いことをしなければ大丈夫です。ただ、痛い目に遭うことは覚悟してください」
「い、痛い目って、どんなだよ」
「そうですわね。ハンマーで指を叩く、爪を剥がすなとです」
「拷問じゃないか!」
「……では、そうですわね。近頃、貴族の女性の間で流行っている武器兼防具がありますの。そちらで殴られるのはいかがでしょう」
「……これ以上、痛い思いをしたくないんだ」
マゼケキ様は心底怯えているのか、目から大粒の涙を流しました。
自分が死ぬのは怖いのに、人の命を奪うことは良いだなんて呆れてしまいます。
自分が実行するわけじゃないから良いということなのでしょうか。
「痛い思いをしない人生は無理ですわね。あなたは、やってはいけないことをしましたから。ですが、生き残りたいなら、どちらに付くか考えたほうが良いですわね」
近くに立っていたメイドにも聞こえるように、少し大きめの声で言ってから、放心しているマゼケキ様を置いて、レイディスと共に部屋を出ました。
「あのメイドには、こっちが悪者みたいに見えただろうな」
「それで良いと思うわ。そのほうが向こうも動いてくれるでしょうから」
周りに人がいないことを確認してから、レイディスに頷きました。
部屋にいたあのメイドは、宰相のセインサーに飼われているという話ですから、今の話は彼女からセインサーの耳に届くでしょう。
こんな簡単な罠にかかるかはわかりません。
でも、向こうは私を甘く見ているはずです。
なら、焦る気持ちのほうが先にくるでしょう。
その日の晩は、夜中に起きなければいけない可能性があったため、体調不良のふりをして、早めに眠ることにしたのでした。
******
「うわあああ! 誰か! 誰か助けてくれ!」
「くそっ!」
それから、2日が経った夜遅くのことです。
レイディスの部下が私の部屋にやって来て、セインサーが動き出したと教えてくれました。
そのため、セインサーが来るまでに、マゼケキ様の部屋に移動したのです。
セインサーは人を雇って、マゼケキ様を殺そうとしましたが、私を殺害しようとした罪で捕まった賊が拷問されたという話が周知されていたため、彼の仕事を受けてくれる人はいませんでした。
ですから、彼は自分で実行することにしたのです。
マゼケキ様には部屋から出ろと行っても恐怖で腰が抜けて動くことが出来なくなってしまい、担いでどこかに連れて行くには時間がなかったため、ベッドで静かにしているようにお願いしました。
でも、暗闇に慣れた目で部屋の扉がゆっくりと動いたことを確認した瞬間、黙っていられずに叫んだようです。
必ず助けるから大人しくしていろと言ったのに、無理なお願いでしたね。
ここで逃がせば、しばらくの間は向こうも慎重になることでしょう。
セインサーがマゼケキ様を毒殺するためか、毒の入った小瓶を入手しているのはわかっています。
そして、それが今、彼の上着のポケットに入っていることも――
「は、放してくれ! わたしはただ、マゼケキ様の様子を見に来ただけなんだ!」
レイディスの部下に両腕を掴まれたセインサーは、じたばたと暴れますが、力で兵士に勝てるはずがありません。
すぐに疲れ切って大人しくなりました。
「セインサー様、こんな時間にマゼケキ様にどういった御用ですか?」
「ど、どうしてあなたがここにいるんですか!?」
蝋燭の明かりに照らされた、恰幅の良い中年のセインサーは、部屋の奥から現れた私達を見て、驚きの声を上げたのでした。
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