捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ

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1  あなたではないのですか?  

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「ええっ!? ど、どうしてお姉様が、こちらにいらっしゃるんですか!?」

 リミアリアは大げさに驚いてみせたあと、すぐに微笑んでフラワに話しかけた。

「お姉様、お久しぶりです。お元気そうですね」
「まあね。あなたと比べて幸せな生活を送っているもの」

 フラワは勝ち誇った笑みを浮かべ、リミアリアを見つめた。
 フラワから見たリミアリアは、顔立ちは整っているが、化粧も地味で服装も野暮ったい。

 幼い頃から男性を意識し、外見を磨いてきた自分が、リミアリアに負けるわけがないという自信があった。

「お姉様、私はイランデス伯爵家の皆さんと楽しく暮らせていますわ」
「楽しくだと? 俺の側近といい仲になっているそうじゃないか」
「いい仲とは?」

 リミアリアが聞き返すと、エマオは不機嫌そうな顔で答える。

「俺に定期的に送ってくれた近況報告の手紙では、仕事を滞りなくできていると書いいたが、俺の側近たちに色仕掛けをして、仕事をさせていただけなのだろう?」
「エマオ様、私はそんなことはしておりません!」

 リミアリアは否定したが、エマオはふんと鼻を鳴らしただけだった。

 フラワから嘘を教えられたのだろうとわかっている。
 だが、こんなことを素直に信じる男に伯爵が務まるのだろうかと、リミアリアは内心あきれ返っていた。

「エマオ様、私たちはリミアリア様に色仕掛けなどされていません! リミアリア様は本当によくやってくださっています!」
「うるさい!」

 留守を任されていた側近の一人が、リミアリアをかばい、自分の無実を訴えようとした。
 だが、エマオは興味がなければ人の話に耳を貸さない。
 怒りで顔を真っ赤にしながら、側近に平手打ちをして叫んだ。

「この裏切り者が! 本来なら主の妻と関係を持ったお前など殺してやるところなんだぞ! だが、心優しいフラワが、それは違うと言う! 悪いのはリミアリアであり、お前たちは助けてやれと言うから助けてやるんだ」

 リミアリアや側近だけでなく、他の使用人も、エマオに寄り添うフラワに非難の目を向けた。
 多くの視線を浴びたフラワは、満足そうに微笑んで口を開く。

「リミアリアはいつだってそう。男性を誘惑して、自分は楽になろうとするのよ」
「お姉様、そのような行動を取っていたのはあなたではないのですか?」
「ひ、酷いわ! どうしてそんなことを言うの!?」

 フラワは男性の前でのみ外面そとづらがいい。
 か弱い女性のふりをして嘘をつき、男性の同情を買い、気に入らない女性を間接的にいじめて楽しむタイプだ。

 貴族の間では有名な話ではあるが、作り話だと言って信じない者もいる。
 その中の一人にエマオがいた。

 彼は良くも悪くも純粋な心の持ち主で、人から聞いた話を信じる人間だった。

 結婚の書類にサインをし、すぐに現地に戻ったエマオのもとにフラワが訪ねてきたのは、結婚して十日後のことだ。

 明日は非番だったため、酒場で仲間と酒盛りをしていた時、フラワが目の前に現れた。

 そして、涙ながらに彼にこう訴えた。

『私はエマオ様と結婚したかったのです! それなのに、妹のリミアリアがわがままを言って、私からあなたを奪ったのです!』

 エマオはパーティーに出席することよりも、戦地で暴れることを優先するタイプだ。
 だから、フラワの噂など知らない。

 自分と結婚したかったと泣くフラワを見て、一度だけ顔を合わせた地味なリミアリアよりも、可愛らしいフラワのほうがいいと感じた。

 戦地でのストレスを発散するために、休みの日には馬を使い、半日ほどで行ける高級娼館に世話になっていた。
 そんなエマオにとって、フラワは身近で性欲を解消できる都合のいい女性になった。

 体を重ね、話を続けていくうちに、彼はフラワに夢中になった。
 そして、リミアリアが浮気をしていると、フラワから知らされたのだ。

 数え切れないほどの浮気をしているエマオだが、浮気されることは許せなかった。

「このクソ女がっ!」

 フラワの涙を見て、怒りが抑えきれなくなったエマオは、問答無用でリミアリアの頬を打った。

 
 
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