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9 王命ではないのですか?
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リミアリアが新居に着いた日は、彼女の予想していなかったことばかり起きていたが、二日目もそうだった。
アドルファスが来たこともそうだが、メイドたちが来るまでは一人で過ごすと思っていた新居に多くの人が集まっているからだ。
そうなった理由は、リミアリアの友人である伯爵令嬢のメイ・ピスカが使用人を引き連れてやってきたからである。
朝から突然訪ねてきたメイは「お会いできて嬉しいです」と喜ぶリミアリアに笑顔でこう言った。
「今日はわたくし、こちらの家に泊まらせてもらいますわね」
「はい?」
リミアリアがきょとんとしている間に、メイは背後に控えていた使用人たちに指示をする。
「屋敷の中が埃っぽいわ! 部屋の掃除をお願いね!」
「承知いたしました!」
廃墟になりかけていた屋敷だったため、破格の値段で買うことができたが、その分、人が住むには不衛生な環境だった。
自分が寝泊まりする部屋は整えておいたものの、それ以外は埃だらけで生活するには厳しい。
メイドたちと合流した前に、少しずつでと改善していくつもりのリミアリアだったが、メイが連れてきてくれた使用人たちのおかげで、邸内は見違えるほど綺麗になっていった。
掃除の邪魔だと言われてしまったリミアリアたちは、掃除が終わった談話室で話をすることにした。
「お久しぶりね」
黒のドレスに身を包んだメイは、ソファの背もたれに背中を深く預けて微笑んだ。
ストレートの金色の髪をハーフツインにしたメイは、吊り上がり気味の目のせいか、第一印象は気の強そうな美人である。
胸が一般的よりも大きいことがコンプレックスで、無胸元の開いていないドレスを着ていることが多い。
「お会いできて嬉しいです。それから、邸の掃除をしていただき、本当にありがとうございます。メイ様や使用人の皆さんには感謝しかありません」
「私が勝手にやったことですもの。私に礼を言う必要はありませんわ。逆にあなたは怒ってもいいのですよ」
「いいえ。強引にしないと、私が遠慮すると思ってくれたのでしょう? お気遣いいただき、本当にありがとうございます」
リミアリアが頭を下げると、メイは眉尻を下げた。
「わたくし、あなたのお友達のはずなのに、あなたが苦しんでいることに気づけなかった。もっと早くに気づいていれば、結婚をやめさせるように、アドルファス様たちにお願いしていたわ。本当にごめんなさい」
「そんな! 気になさらないでください。相談しなかった私が悪いんです」
リミアリアの素性については、彼女が入部した時に、王家が手配した調査員によって調べられていた。
その結果、問題ないと判断されたわけだが、それは外面上であり、内部の事情までは調べていなかったのだ。
「そうですわ! 相談してくれていれば、わたくしやアドルファス様、それにカビル様は全力であなたを助けましたのに!」
「も、申し訳ございません」
「謝罪はもういいですわ! これからのあなたの行動に期待いたしますから、がっかりさせないでくださいませね!」
「もちろんです。これからは自分一人で解決できない場合は、助けを求めたいと思います」
「本当かしら」
目を細めて疑うような表情のメイに、リミアリアは大きくうなずく。
「本当です。それに、今回の件はちゃんとアドルファス様に頼りましたよ。アドルファス様が学園を中退して戦地で指揮を執ると聞いた時は驚きましたが、エマオ様のことで色々と相談して、現在に至りますから」
「……あなた、アドルファス様が戦地に行った本当の理由を知らないんですの?」
「王命ではないのですか?」
リミアリアが聞き返した時、イランデス邸で働いていたメイドがやってきたと、メイが連れてきていた使用人から報告があった。
話を中断してメイドに会いに行くと、エマオがリミアリアを探していることを教えてくれたのだった。
※8話でエマオがフラワに「お前は妹だろう」と言っていたシーンがあるのですが「お前の妹だろう」の誤字でした。申し訳ございません!
とりあえず「お前は姉だろう」に変更いたしました。
非承認で連絡いただきましたので、この場でご連絡させていただきます。
アドルファスが来たこともそうだが、メイドたちが来るまでは一人で過ごすと思っていた新居に多くの人が集まっているからだ。
そうなった理由は、リミアリアの友人である伯爵令嬢のメイ・ピスカが使用人を引き連れてやってきたからである。
朝から突然訪ねてきたメイは「お会いできて嬉しいです」と喜ぶリミアリアに笑顔でこう言った。
「今日はわたくし、こちらの家に泊まらせてもらいますわね」
「はい?」
リミアリアがきょとんとしている間に、メイは背後に控えていた使用人たちに指示をする。
「屋敷の中が埃っぽいわ! 部屋の掃除をお願いね!」
「承知いたしました!」
廃墟になりかけていた屋敷だったため、破格の値段で買うことができたが、その分、人が住むには不衛生な環境だった。
自分が寝泊まりする部屋は整えておいたものの、それ以外は埃だらけで生活するには厳しい。
メイドたちと合流した前に、少しずつでと改善していくつもりのリミアリアだったが、メイが連れてきてくれた使用人たちのおかげで、邸内は見違えるほど綺麗になっていった。
掃除の邪魔だと言われてしまったリミアリアたちは、掃除が終わった談話室で話をすることにした。
「お久しぶりね」
黒のドレスに身を包んだメイは、ソファの背もたれに背中を深く預けて微笑んだ。
ストレートの金色の髪をハーフツインにしたメイは、吊り上がり気味の目のせいか、第一印象は気の強そうな美人である。
胸が一般的よりも大きいことがコンプレックスで、無胸元の開いていないドレスを着ていることが多い。
「お会いできて嬉しいです。それから、邸の掃除をしていただき、本当にありがとうございます。メイ様や使用人の皆さんには感謝しかありません」
「私が勝手にやったことですもの。私に礼を言う必要はありませんわ。逆にあなたは怒ってもいいのですよ」
「いいえ。強引にしないと、私が遠慮すると思ってくれたのでしょう? お気遣いいただき、本当にありがとうございます」
リミアリアが頭を下げると、メイは眉尻を下げた。
「わたくし、あなたのお友達のはずなのに、あなたが苦しんでいることに気づけなかった。もっと早くに気づいていれば、結婚をやめさせるように、アドルファス様たちにお願いしていたわ。本当にごめんなさい」
「そんな! 気になさらないでください。相談しなかった私が悪いんです」
リミアリアの素性については、彼女が入部した時に、王家が手配した調査員によって調べられていた。
その結果、問題ないと判断されたわけだが、それは外面上であり、内部の事情までは調べていなかったのだ。
「そうですわ! 相談してくれていれば、わたくしやアドルファス様、それにカビル様は全力であなたを助けましたのに!」
「も、申し訳ございません」
「謝罪はもういいですわ! これからのあなたの行動に期待いたしますから、がっかりさせないでくださいませね!」
「もちろんです。これからは自分一人で解決できない場合は、助けを求めたいと思います」
「本当かしら」
目を細めて疑うような表情のメイに、リミアリアは大きくうなずく。
「本当です。それに、今回の件はちゃんとアドルファス様に頼りましたよ。アドルファス様が学園を中退して戦地で指揮を執ると聞いた時は驚きましたが、エマオ様のことで色々と相談して、現在に至りますから」
「……あなた、アドルファス様が戦地に行った本当の理由を知らないんですの?」
「王命ではないのですか?」
リミアリアが聞き返した時、イランデス邸で働いていたメイドがやってきたと、メイが連れてきていた使用人から報告があった。
話を中断してメイドに会いに行くと、エマオがリミアリアを探していることを教えてくれたのだった。
※8話でエマオがフラワに「お前は妹だろう」と言っていたシーンがあるのですが「お前の妹だろう」の誤字でした。申し訳ございません!
とりあえず「お前は姉だろう」に変更いたしました。
非承認で連絡いただきましたので、この場でご連絡させていただきます。
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