この悪女に溺愛は不要です!

風見ゆうみ

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15  言葉遣いには気をつけたほうが良くってよ

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 クブス男爵は令声をかけた息たちに、この話は秘密だと言って大人が介入しないようにしていた。恋に落ちてしまっている令息たちはそれを疑わしいと思わず、ラブと婚約したいがためにお金を払い続けていた。
 といってもまだ十六歳の子供だ。誰かに話したい気持ちもあった。親に言えば反対されるかもしれないという恐怖があり、親には言えなかった。だから、ディーク様にマウントを取りたいという幼稚な考えが抑えきれなかったこともあり、彼に話をしたようだった。
 クブス男爵を告発するためには彼らの証言がなければ駄目だが、令息たちは望みを捨てきれないでいる。ラブに確認してみるように言ったところ『ごめんなさい。ラブはディーク様のものなの』と答えたから意味がなかった。
 自分たちが婚約できないのは、ディーク様のせいだも考えたのだ。

「どうしてみんな、自分が騙されていることに気づかないんだろう」

 何も知らないディーク様は、とても不思議そうにしている。ゲーム上のラブの設定が中々変えられないことがわかっている私は、何と答えたら良いのかわからなくて苦笑するだけにとどめた。

「逆に僕が騙されていないことも謎だな」
「私も騙されてはいませんよ」
「それはそうなんだけど、わりと女性陣はクブス男爵令嬢に対して悪感情を持っている人が多いんだ。それで、君も騙されていないんじゃないかな」
「悪女扱いされたくらいですから、彼女に良い感情は持てませんわね」

 レオン殿下に悪女扱いされたわけだが、指示したのはラブだと思い、そう答えた。
 ディーク様は私が何か知っていると薄々気づいてはいるようだ。だけど、無理に話すように言ってこないから一緒にいて楽だ。彼と婚約を解消した令嬢は本当にもったいないことをしたわよね。

「そういえば、君のデビュタントの日も近づいてきたけど、クブス男爵令嬢もそうだよね」
「招待されましたがお断りしました」

 私のデビュタントの日よりもラブのほうが早かった。彼女は自分がちやほやされているところを私に見せたかったようだが、そんなものを見てやる義理はない。

「男爵家がホールを貸し切りにして娘のデビュタントをするんだから、どこから金が湧いてきたのかってところだよ」
「結婚詐欺のお金はクブスさんのデビュタントのためだったのでしょうか」
「それもあるだろうね。娘に金をかけることは投資にもなるだろうから」
「娘を目立たせて、良い所に嫁がせたいわけですね」
「そういうこと。でもさ、クブス男爵令嬢はまだ僕のことを諦めたわけじゃないみたいで、僕のところにも招待状が来ていたんだ」

 ディーク様が楽しそうな顔をしているので、私は呆れを隠さずに尋ねる。

「出席なさるおつもりですね」
「うん。出席したら、クブス男爵が僕に近づきやすいと思うんだ」
「罠にかけるおつもりですか」
「そういうこと」

 私に手を貸すと言ってくれたからの行動なのだろう。

「ディーク様、お気持ちはとてもありがたいのですが、ご両親に了承を得ておられるのですか?」
「もちろん。僕もまだ子供だから、行動するには制限があるからね。安心していいよ。両親は法に触れるようなことをしたり、僕が死ぬようなことがなければ好きなようにしていいって言ってるから」

 なんというか、公爵家だというのに奔放な育て方をされているわね。

「では、よろしくお願いいたします」

 ディーク様にそうお願いした翌日、ラブが私の所にやって来た。

「べリアーナ様ぁ! ごめんなさいね。ディーク様は私のデビュタントに来てくれるんですって!」
「どうして私に謝るのかしら」
「だって、べリアーナ様にはディーク様しかいないじゃないですか。それなのにディーク様が私に奪われちゃったでしょう?」
「ディーク様は私のものではないから奪われてはいないわ」

 冷たく答えると、ラブは私の耳元で囁くように話す。

「ディーク様に可愛がられているようだけど、もう終わりね。あんたみたいな悪女のババアにディーク様の溺愛なんて必要ないのよ」
「ババア?」
「そうよ。あんた、中身はババアなんでしょう?」
「見たらわかるでしょう? 私は十六歳ですが? それよりもあなた、言葉遣いには気をつけたほうが良くってよ」

 ラブから顔を遠ざけ、彼女を見上げて微笑んだ。

「いちいちうるさいのよ!」

 カッとなったラブはそう吐き捨てると、大股で教室を出ていく。その時に気がついたのは、クラスメイトの男子の視線だった。今まではラブがどんな態度を取ろうと、うっとりした様子で彼女を見ている人が多かった。それなのに今は違う。みんな、呆れた様子で彼女を見つめていた。

 その光景見た私は、私が悪女なのか、それとも悪女はラブなのか。はっきりする日が近づいてきたと感じたのだった。
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