縁あって国王陛下のお世話係になりました

風見ゆうみ

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4  ユリアス邸にて②

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 荷物を私の部屋に運んでもらい、エントランスホールでユリアス邸の執事や使用人たちと、飾られている花をどうするかと話をしていると、ドアマンが私たちに叫んだ。

「当主様方のお帰りです!」

 来たばかりの私がお迎えに混じるのもどうかと思うけれど、出入り口に並んだメイドたちの列に入れてもらう。

「ラナリー様は列に入らなくてもよろしいかと思います」

 横に立つメイドが慌てた顔をする。

「良いのよ。悪いけれど、ここにいさせてくれる? どこに立っていれば良いのかわからないの」
「ラナリー様の横に立てるのは光栄ではございますが、恐れ多くも感じるのですが」

 メイドが困った口調で言った時だった。
 ドアマンが扉を開くと、一番に中に入ってきたのは男の子だった。

 黒色の短髪に金色の瞳にもっちりした頬はピンク色で、顔は小さくて目は丸くて大きい。
 青色のサスペンダーにズボン、襟元にフリルのついた白いシャツを着ており、何か大事そうに抱きかかえていると思ったら、黒い子猫を抱きしめていた。

 少年はキョロキョロと辺りを見回して、近くに立っていた執事に尋ねる。

「ラナリー嬢はまだ来ていないのか?」
「いいえ、いらっしゃいますよ。おや、ラナリー様はどちらに?」

 執事はメイドと一緒に並んでいる私の姿を見つけて驚いた顔をした。

「ラナリー様はこちらへどうぞ」

 執事に促されて近寄っていくと、少年も私に近づいてくる。
 少し距離を空けて少年は立ち止まると、可愛らしい笑顔を見せて言う。

「ぼくがこの国をおさめるシュティルだよ。よろしくね」

 ニコニコと微笑む少年に慌てて、私はカーテシーをする。
 シュティルというのはシュテーダムの国王陛下のお名前と同じだからだ。

「ラナリーと申します。国王陛下にお会いできて光栄ですわ」
「ぼくも会えてうれしいよ。ラナリーはフェルーナとはぜんぜん雰囲気がちがうんだね」

 ふにゃりと柔らかな笑みを見せてくれた陛下は、こんなことを言うと失礼に当たるかもしれないけれど、無邪気な可愛らしい少年にしか見えない。

「姉と私は性格も見た目も似ていないのです」
「そうなんだね。そうだ。ラナリーはネコは好き?」
「はい。動物は全般的に大好きです」

 人はあまり好きではないけれど、嫌いな人ばかりでもないから、この答えは嘘ではない。

「そうか。良かった! マオ、ラナリーは動物が好きだって」

 陛下は満面の笑みを浮かべて、抱っこしている子猫を撫でる。
 マオと呼ばれた子猫は、ジッと私を見つめたあと、プイッとそっぽを向いた。

「嫌われてしまいましたね」
「すまない、ラナリー。マオはフェルーナ嬢に嫌なことをされたんだ。フェルーナ嬢は花の匂いをさせていたから、同じ人かと思っているのかもしれない」

 苦笑する私に、陛下は悲しそうな顔になって肩を落とした。

 お姉様が悪いのに、陛下に謝られてしまった。

 陛下はもうすぐ6歳になるとお聞きしている。

 口調が大人びているのは、立場的なものと周りにいるのが大人ばかりだからかもしれない。

「ようこそ、ラナリー嬢。出迎えられなくて申し訳ない。私がこの家の当主のライオールだ」

 私の陛下の会話が一段落したからか、黒髪の短髪に深緑色の瞳を持つユリアス公爵閣下が眉尻を下げて話しかけてきた。
 公爵閣下は大人の色気を感じさせる端正な顔立ちの持ち主で、羽織っている黒いコートを靡かせて歩いてくる姿はとても絵になっていた。

「はじめまして、ラナリーさん。お会いできて嬉しいわ。私はライオールの妻のシファランよ。仲良くしてもらえたら嬉しいわ」

 公爵閣下の横に立って挨拶してくれたのは公爵夫人のシファラン様。
 水色の長い髪を背中におろしていて、髪と同じ色の瞳を持つ小柄な美人だった。

 公爵閣下との身長差がありすぎて、まるで大人と子供だけれど、お二人の醸し出す雰囲気から、二人が夫婦であることはすぐにわかる。

「はじめまして、ラナリー・エードルと申します。本日よりお世話になります」

 カーテシーをすると、公爵夫妻は驚いた顔をした。
 
 おかしい。
 礼儀作法に関しては、どの国も共通だと調べてきたのに違っているのかしら。

「……ルラン、ラナリーさんはあなたの妻になる方でしょう。早くご挨拶なさい」

 公爵夫人に促されて現れたルラン様は、公爵閣下が二十年程若返ったかのような端正な顔立ちの男性だった。
 年齢は私よりも三つ年上の20歳で、眉間に深く刻まれている皺のせいで気難しそうにも見える。

「はじめまして、ルラン・ユリアスだ。これからよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「ルランは怖い顔をしているけれど、ぼくの兄のようなものだから、仲良くしてやってくれ」

 陛下にキラキラした瞳で見つめられ、私は笑顔で頷いた。
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