無償の愛を捧げる人と運命の人は、必ずしも同じではないのです

風見ゆうみ

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10 『無償の愛』を捧げなければならない理由

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 セブレブ王国の両陛下はとても優しい人たちで、アーサーが無理やり私を連れてきたのではないかと、未だに気にしてくれている。
 最初は私が婚約者になったことを歓迎していないのかとも思ったけれど、そうではなかった。
 アーサーの私に対する気持ちが重すぎるのではないかと心配してくれているだけだった。

 王太子妃教育という名のティータイムでの王妃陛下であるシェイラ様との話は、セブレブ王国の貴族の話や国の歴史などを知ることができて、とても楽しい。
 真面目な話以外はいつもシェイラ様の周りで起こる出来事が中心だが、今日はサウザン王国の話になった。
 
「アーサーがあなたを、国に戻すつもりはないと連絡したんだけど、案の定、向こうは激怒してきたわ。あなたにもう一度、フォークスを愛してほしいみたいね」 
「そこまでしなければいけないほどフォークス殿下の状態は良くないということでしょうか」
「そのようね」

 シェイラ様は金色のウェーブのかかった長い髪をシニヨンにした、童顔ではあるが美しい女性だ。憂いの帯びた表情も美しくて、国王陛下が一目ぼれし、猛アタックして結婚に至ったという話も頷ける。

 ……って、こんな話、聞いたことがある気がするけど、無理やりじゃないからまた違うわね。

「フォークス殿下が何に変わってしまったかの連絡はあったのですか?」
「いいえ。あなたに届いた手紙には、何か書いてあった?」
「具体的には書いてありませんでしたが、ウェンディ様からの手紙には、見るだけで気持ちが悪い虫だと書いてありました」
「……虫だったのね。そういえば、今の国王陛下はトンボだったと聞いたわ。やはり、気持ちが悪いものとなると、虫系になるのかしらね」

 シェイラ様は想像したのか、体をぶるりと震わせた。

「魔女は王子にのみ呪いをかけていて、本人が特に嫌っている動物になるみたいですね。醜い見た目でも、愛してくれる人がいるならば、その王子は生きる価値のある人間だと判断され、呪いが解けるのではないかと考えられています」
「私の国にも、サウザン王国の王子への呪いについて書かれた本があるから読んだことがあるわ。魔女は良い人だったのよね?」
「はい。魔女に関わったことがある人は、みなそう言っていたそうです」
「魔女は、国王を愛していたのかしら?」
「どちらかというと憎んでいたようです。魔女には恋人がいたのに引き裂かれたようですから」

 考えるだけで、当時の国王に腹が立ってくる。無理やり結婚しておいて、新しく好きになった人を正妃にするために魔女を殺すなんて!

「王家の血が途切れないことも不思議だけど、無償の愛を捧げてもらえるような自分になろうとしない王子が代々続いていることに驚きだわ」

 呆れた顔をするシェイラ様に苦笑して答える。

「血筋かもしれませんが、悪いと思っていないのでしょう」
「完全に変身しまったら、自分のことを忘れてしまうの?」
「本人の意識がなくなってしまえば罰にはなりませんので、どんな状態になっても記憶がなくなるわけではないようです。シェイラ様に言われて気づきましたが、反省するチャンスを与えているのかもしれません」
「それもあるでしょうけど、他の人間が何らかの形で犠牲にならないようにしたのかしら」
「それもあるようです。肉食の何かになった場合、世話をする人が襲われる可能性がありますから、他の人に命の危険が及ばないようにしたのではないかと文献には書かれていました」

 この呪いは今の王家の血が途絶えるまで続くのかしら。

 そう考えた時、アーサーと一緒に国王陛下であるルーサー様が難しい顔をしてやって来た。

「どうかしたの?」

 シェイラ様が尋ねると、ルーサー様が答える。

「魔女の末裔を調べていたら、ミランが魔女の元恋人の末裔の1人だとわかった」
「「ええっ!?」」

 あまりの驚きで、私もシェイラ様と一緒に大きな声で聞き返してしまったのだった。
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