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2 幸せになりましょうね!
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二つ年下の妹のシャゼットは父の遺伝子を色濃く引き継いでおり、ダークブラウンの髪に同じ色の瞳を持っている。
気の強そうな見た目と同じく、性格も悪い。同級生が私のことを「可愛い」と言っているのを聞いてから、シャゼットは私のことを敵視している。
人の顔の好みなんてそれぞれ違う。好きな人に可愛いと言ってもらえればそれで良いじゃないの。
……とまあ、その好きな人も私のことを可愛いと言っていたらしいし、嫉妬したくなる気持ちはわからないでもない。
いや、そんな理由で嫌がらせをしてくるのは、ただの八つ当たりだから、やっぱり許さない。
「うるさいわね。ざまぁみろな展開かどうかはまだわからないでしょう」
私に睨まれた妹は「ふふふ」と笑いながら、今日のパートナーを務めている従兄の元に歩いていく。
多くの人の視線が私に集まる中で、私はどうすることが最善なのか考える。
魔道具を売ったお金が貯まってきたし、婚約破棄されて追い出されても、今ならしばらくは生きていけるはずだ。
それに、お金が底を尽きる前に、魔道具の新しい販売ルートを見つければ良い。
その時、よく知った声が聞こえてきた。
「リノ!」
リノは私の愛称だ。リリーと呼ばれている人が周りに多かったため、親しい人にだけリノと呼んでもらっていた。
その親しい人というのは、お母様以外では一人だけ。私の前に現れた、ローズコット辺境伯家の次男のジェイクだ。
ジェイクは私と同い年でシルバーブロンドの髪に濃紺の瞳を持つ、長身痩躯の美青年だ。
彼は子供の頃に不注意で頬に大きな傷を負っている。時が経つにつれて薄れていってはいるが、不良品だと揶揄する令嬢もいて、彼には婚約者がいないので、今日は妹と一緒に来ているようだった。
お母様の病気が悪化するまでは、私も学園に通っていたので、ジェイクとはそこで知り合った。
彼はシャゼットの現在の思い人でもあるのだが、彼女が猫をかぶっていることを知っているため、まったく相手にしていない。それだけでなく、レレール様に興味もないようだ。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫! せっかく心配してくれたのにごめんね。とにかく話を終わらせるわ」
手を合わせて謝ったあと、壇上の婚約者に向き直る。
「婚約破棄を受け入れてもかまいませんが、手切れ金をいただけますでしょうか」
「……は?」
婚約者は間抜けな顔をして聞き返してきた。
なんだろう。婚約者じゃなくなると思ったら、急に彼への嫌悪感が湧いてきた。
「あなたが私と婚約を破棄する理由は、レレール様と婚約をしたいから、ですわよね?」
「そ、そうだけど……」
「では、私は悪くありません。まさか、レレール様のような素敵な人になれだなんて、できないことをおっしゃるような方ではありませんわよね?」
おそらく彼の中ではレレール様は聖女であり女神だ。彼女に匹敵する女性などいないなずだ。
そう思って尋ねると、婚約者ははっきりと頷く。
「当たり前だ」
「なら、婚約破棄はあなたの都合ですわね。自分勝手な都合で婚約を破棄するのですから、対価を求めます」
愛がないのならお金だわ! お金で解決しましょう!
「金だと!? 君は正気なのか!?」
あなたに言われたくない。
私はこれ見よがしにため息を吐く。
「当たり前ではないですか。レレール様が可哀想だから、私との婚約を破棄する? レレール様と同じように、こんなに大勢の前で婚約を破棄された私は可哀想ではないのですか?」
王子も破棄していたけれど、私には関係のない話だ。それにあんな話を、事前連絡もなくするはずがない。
レレール様のことだから聞いてないふりをしていたのでしょう。それで王家側がキレたと言ったところかしら。
「お前なんか可哀想じゃない! レレール様だから可哀想なんだ!」
私の婚約者の周りにいる男性陣が、そうだそうだと拍手をする。
「ただの貴族が聖女に勝てると思うなよ」
「そうだ! 魔法も使えないくせに!」
この世界で魔法を使える人は数少ない。だから、魔法を使える多くの人は認知されているものだ。
レレール様も魔法を使える一人で、彼女は回復魔法が使えるため『聖女』と呼ぶ人もいるので、さっきの発言だ。
私のように魔法が使えることを隠している人間は、一般的に魔法が使えない人間の立場になる。だから、反論することはやめた。
「みなさん、やめてください! 私のために他の女性を傷つけないで!」
レレール様がめそめそと泣きながら言うと、男性たちは一斉に彼女を慰め始めた。
「……ジェイク」
「ん?」
「私を馬鹿にしてた人物の名前はわかる?」
「わかるけど」
「あとで教えてくれる?」
私は人の顔は覚えられても名前を覚えるのが苦手だ。無駄な知識を頭に入れるくらいなら、付与魔法を極めたほうが良いと思っている。だから、彼らのことを見たことはあるが、どこの貴族だったかは思い出せないのだ。
あとでジェイクから名前を教えてもらい、これから私の作った魔道具は彼らが使うことがあっても効果が発揮できないようにしてあげよう。
性格が悪いって? いえいえ、彼らが相手ならお互い様でしょう?
私は婚約者に話しかける。
あ、さすがに婚約者の名前は覚えている。腹が立つのと、どうせさようならなので、呼びたくないだけだ。
「さあ、レレール様への愛を見せてください」
「……わかったよ」
そう言って婚約者は付き人の所に走っていくと、金額の書かれた小切手を渡してくれた。
額はもう一声と叫びたいものだったが、もらえないよりもマシだ。
さあ、もうここに用はないわ。パーティーを無茶苦茶にしたのは私ではないし、色々と準備をしなければならないから、もう帰らせてもらいましょう。
「ありがとう。では、お幸せに」
カーテシーをしたあと、ドレスのすそをふわりと靡かせて背を向けた私は、言い忘れていたことを思い出して立ち止まる。
「婚約破棄をされた令嬢にお伝えしたいことがあります」
静まり返ったホール内に、私の声が響き渡る。
「悲しむことなんてありません。軽率な行動をする婚約者とお別れできたことは、これからの幸せに繋がります。幸せになりましょうね!」
言いたいことを言い終えてすっきりした私は、ジェイクを促して会場をあとにした。
気の強そうな見た目と同じく、性格も悪い。同級生が私のことを「可愛い」と言っているのを聞いてから、シャゼットは私のことを敵視している。
人の顔の好みなんてそれぞれ違う。好きな人に可愛いと言ってもらえればそれで良いじゃないの。
……とまあ、その好きな人も私のことを可愛いと言っていたらしいし、嫉妬したくなる気持ちはわからないでもない。
いや、そんな理由で嫌がらせをしてくるのは、ただの八つ当たりだから、やっぱり許さない。
「うるさいわね。ざまぁみろな展開かどうかはまだわからないでしょう」
私に睨まれた妹は「ふふふ」と笑いながら、今日のパートナーを務めている従兄の元に歩いていく。
多くの人の視線が私に集まる中で、私はどうすることが最善なのか考える。
魔道具を売ったお金が貯まってきたし、婚約破棄されて追い出されても、今ならしばらくは生きていけるはずだ。
それに、お金が底を尽きる前に、魔道具の新しい販売ルートを見つければ良い。
その時、よく知った声が聞こえてきた。
「リノ!」
リノは私の愛称だ。リリーと呼ばれている人が周りに多かったため、親しい人にだけリノと呼んでもらっていた。
その親しい人というのは、お母様以外では一人だけ。私の前に現れた、ローズコット辺境伯家の次男のジェイクだ。
ジェイクは私と同い年でシルバーブロンドの髪に濃紺の瞳を持つ、長身痩躯の美青年だ。
彼は子供の頃に不注意で頬に大きな傷を負っている。時が経つにつれて薄れていってはいるが、不良品だと揶揄する令嬢もいて、彼には婚約者がいないので、今日は妹と一緒に来ているようだった。
お母様の病気が悪化するまでは、私も学園に通っていたので、ジェイクとはそこで知り合った。
彼はシャゼットの現在の思い人でもあるのだが、彼女が猫をかぶっていることを知っているため、まったく相手にしていない。それだけでなく、レレール様に興味もないようだ。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫! せっかく心配してくれたのにごめんね。とにかく話を終わらせるわ」
手を合わせて謝ったあと、壇上の婚約者に向き直る。
「婚約破棄を受け入れてもかまいませんが、手切れ金をいただけますでしょうか」
「……は?」
婚約者は間抜けな顔をして聞き返してきた。
なんだろう。婚約者じゃなくなると思ったら、急に彼への嫌悪感が湧いてきた。
「あなたが私と婚約を破棄する理由は、レレール様と婚約をしたいから、ですわよね?」
「そ、そうだけど……」
「では、私は悪くありません。まさか、レレール様のような素敵な人になれだなんて、できないことをおっしゃるような方ではありませんわよね?」
おそらく彼の中ではレレール様は聖女であり女神だ。彼女に匹敵する女性などいないなずだ。
そう思って尋ねると、婚約者ははっきりと頷く。
「当たり前だ」
「なら、婚約破棄はあなたの都合ですわね。自分勝手な都合で婚約を破棄するのですから、対価を求めます」
愛がないのならお金だわ! お金で解決しましょう!
「金だと!? 君は正気なのか!?」
あなたに言われたくない。
私はこれ見よがしにため息を吐く。
「当たり前ではないですか。レレール様が可哀想だから、私との婚約を破棄する? レレール様と同じように、こんなに大勢の前で婚約を破棄された私は可哀想ではないのですか?」
王子も破棄していたけれど、私には関係のない話だ。それにあんな話を、事前連絡もなくするはずがない。
レレール様のことだから聞いてないふりをしていたのでしょう。それで王家側がキレたと言ったところかしら。
「お前なんか可哀想じゃない! レレール様だから可哀想なんだ!」
私の婚約者の周りにいる男性陣が、そうだそうだと拍手をする。
「ただの貴族が聖女に勝てると思うなよ」
「そうだ! 魔法も使えないくせに!」
この世界で魔法を使える人は数少ない。だから、魔法を使える多くの人は認知されているものだ。
レレール様も魔法を使える一人で、彼女は回復魔法が使えるため『聖女』と呼ぶ人もいるので、さっきの発言だ。
私のように魔法が使えることを隠している人間は、一般的に魔法が使えない人間の立場になる。だから、反論することはやめた。
「みなさん、やめてください! 私のために他の女性を傷つけないで!」
レレール様がめそめそと泣きながら言うと、男性たちは一斉に彼女を慰め始めた。
「……ジェイク」
「ん?」
「私を馬鹿にしてた人物の名前はわかる?」
「わかるけど」
「あとで教えてくれる?」
私は人の顔は覚えられても名前を覚えるのが苦手だ。無駄な知識を頭に入れるくらいなら、付与魔法を極めたほうが良いと思っている。だから、彼らのことを見たことはあるが、どこの貴族だったかは思い出せないのだ。
あとでジェイクから名前を教えてもらい、これから私の作った魔道具は彼らが使うことがあっても効果が発揮できないようにしてあげよう。
性格が悪いって? いえいえ、彼らが相手ならお互い様でしょう?
私は婚約者に話しかける。
あ、さすがに婚約者の名前は覚えている。腹が立つのと、どうせさようならなので、呼びたくないだけだ。
「さあ、レレール様への愛を見せてください」
「……わかったよ」
そう言って婚約者は付き人の所に走っていくと、金額の書かれた小切手を渡してくれた。
額はもう一声と叫びたいものだったが、もらえないよりもマシだ。
さあ、もうここに用はないわ。パーティーを無茶苦茶にしたのは私ではないし、色々と準備をしなければならないから、もう帰らせてもらいましょう。
「ありがとう。では、お幸せに」
カーテシーをしたあと、ドレスのすそをふわりと靡かせて背を向けた私は、言い忘れていたことを思い出して立ち止まる。
「婚約破棄をされた令嬢にお伝えしたいことがあります」
静まり返ったホール内に、私の声が響き渡る。
「悲しむことなんてありません。軽率な行動をする婚約者とお別れできたことは、これからの幸せに繋がります。幸せになりましょうね!」
言いたいことを言い終えてすっきりした私は、ジェイクを促して会場をあとにした。
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