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5 絶対に幸せになってやるんだから!
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出てすぐに、信じられないことが起こった。
なんと父は私を殺すつもりだったらしい。
御者から付いてくる馬車がいると言われ、危険を察知した私は、行き先を変更した。
万が一の可能性を考えて、昨日のうちに下見をしていた場所まで行き追い詰められたふりをして森の中に入った。
木々が密集しているため、弓矢で攻撃されることがあっても木が多少は邪魔してくれる。
履いているパンプスに魔法をかけて、人間ではあり得ないスピードで走ったため、彼らは追いつくことはできなかった。
崖のすぐ近くの場所に辿り着いたところで崖下の川に向けて羽織っていたストールを落とした。
その後すぐにトランクケースの中から、一回り小さなトランクケースを取り出して、父から渡された大きいほうを崖下に投げ捨てた。滑ったかのように地面を削ると、悲鳴を上げ、すぐにその場から移動した。
残したトランクケースからカーテンを引っ張り出し、魔法をかけて被る。トランクケースは大きな石に、私は太い木の根上がりに擬態して大人しくしていると、刺客たちが追いついてきた。
「なんて、足の速さだ。……というか、さっきの悲鳴からして、ここから落ちたのか?」
「ここに足を滑らせたような跡がある!」
追いかけてきた男たちは崖下を覗き込みながら口々に話す。
「勢い余って落ちたというところか。せっかくここまで逃げてきたのに、あっけない最後だったな」
「まあ、貴族の令嬢ですからね。ここまで逃げてこれただけすごいですよ」
あはははと笑いながら、刺客たちは呑気に会話をしながら去っていった。
しばらく隠れ続け、姿が見えなくなってから、私は安堵のため息を吐いた。
「人が崖下に落ちたっていうのに笑うことができるなんて普通の神経じゃないわね!」
刺客なんてそんなものだろうか。
スカートについた土や草を払い、私はトランクケースを持ち上げた。
「見てなさいよ! 絶対に幸せになってやるんだから!」
決意を口にして、私は薄暗い森の中を歩き出した。
******
約10日かけて、私は北の辺境の地であるローズコット辺境伯領に辿り着いた。
女性一人の旅ということで、変な人に絡まれそうにはなったが、魔道具で撃退してなんとかなった。
私が出発した次の日には、なんとミゼシュ王国全土に私の死が知れ渡った。というのも、前日に第二王子の婚約解消と、聖女と呼ばれているレレール様に多くの男性が婚約を申し込んだことが大々的な記事になっていたからだ。
多くの貴族は第二王子の判断を支持したが、レレール教の信者たちは国王陛下に第二王子に何らかの処分を与えるように訴えたそうだ。……相手にされなかったみたいだけど。
ちなみにレレール教というのは、盲目的にレレール様を信じている人たちのことを、揶揄する意味の言葉だ。
信仰は自由だし、それぞれの神に敬意を抱いているけれど、レレール様は人間であって神ではない。
しかも、女性に対しては性格が悪い。人のものを欲しがるタイプで、友人の婚約者を奪うのが趣味だ。
……ってどんな趣味よ! そして、これまたたちが悪いのは彼女の両親が彼女に甘いということだ。
今まではレレール様に目をつけられないように大人しくしていたけれど、もう彼女のことなんて気にしなくていい!
婚約者に婚約破棄され、家族に捨てられただけでなく、この世から抹消された私だけど本当に幸せ!
新聞に書かれていた私の死因は、婚約を破棄されたショックで崖から身投げしたことになっている。
いつか、父たちの前に姿を現すことがあったら、恐れおののくんじゃないかしら。
「リリーさん、検問所が見えてきましたよ」
乗合馬車の中で仲良くなった人に声をかけられ、身を乗り出して指さされた方向に目を向ける。
青々とした木々に、馬車の轍がついた道。そして、その先には高い壁が見え、辺境伯領に入るための検問所があった。
領ごとに検問所があり、入る時にだけ身分証を確認される。通り過ぎる場合だけの時は国の整備局が管理している道を行けば良いので、身分証は必要ない。
辺境伯領に入るための身分証だが、魔道具を販売する資格を母が生きている時に取得していたので、その時にもらった資格証明書が身分証明に使える。
ちなみに姓は書かれていないので、亡くなった人の身分証だと思われることもない。
姓を省いても良いのは、平民の中には名しか持っていない人がいるからだ。
資格証明書を発行している商業ギルドに問い合わせされたら別だけど、わざわざそんなことをする人はいないでしょう。
身分証明の有効期限は十年間。すでに三年ほど経過しているので、あと七年。その間に新しい身分を手に入れるか、一生、この領から出なければ特に問題はないはずだ。
魔法で偽造することもできるけど、なんだろう。それはやってはいけない気がするのよね。
まあ、このことについては生活が安定してから考えましょう!
とりあえず、今は辺境伯領に入れれば何でも良い。
愛想笑いを振りまき、礼儀正しく検問所の人に挨拶をすると、資格証明証が珍しかったらしく驚かれたが、魔道具の商人は大歓迎だと言ってもらえた。
雑談ついでにローズコット辺境伯領はどんな所か聞いてみると、国境付近以外は自然の多い場所ばかりだが、商店街は活気に満ち溢れているんだそうだ。
領主夫妻のこともとても良い人たちだと褒めていた。
気になったのは、辺境伯夫妻やジェイクのことは褒めていたのに、長男のエイフェック様については触れなかったことだ。
エイフィック様とは、問題の婚約破棄祭りの時に会った。そういえば感じが悪かったものね。ジェイクやエイフィック様の奥様のことも脅しているみたいだったし心配だわ。
ジェイクとは些細な喧嘩もしたりしたけど、なんだかんだ言って一緒にいると楽しかった。学園に通わなくなってからは疎遠になっていたし、嫌われたと思っていたから、あの時は心配してくれて嬉しかったな。
……もしかしたら、私の手元に届かなかっただけで、手紙を送ってくれていたのかもしれない。
もう、どこかで姿を見ることはできても、話すことはできないんだよね。正体を明かすことがあっても、ジェイクの耳に届くかはわからないもの。
領主の息子と平民が話す機会なんてあるわけがない。この時の私は、本気でそう思っていた。
なんと父は私を殺すつもりだったらしい。
御者から付いてくる馬車がいると言われ、危険を察知した私は、行き先を変更した。
万が一の可能性を考えて、昨日のうちに下見をしていた場所まで行き追い詰められたふりをして森の中に入った。
木々が密集しているため、弓矢で攻撃されることがあっても木が多少は邪魔してくれる。
履いているパンプスに魔法をかけて、人間ではあり得ないスピードで走ったため、彼らは追いつくことはできなかった。
崖のすぐ近くの場所に辿り着いたところで崖下の川に向けて羽織っていたストールを落とした。
その後すぐにトランクケースの中から、一回り小さなトランクケースを取り出して、父から渡された大きいほうを崖下に投げ捨てた。滑ったかのように地面を削ると、悲鳴を上げ、すぐにその場から移動した。
残したトランクケースからカーテンを引っ張り出し、魔法をかけて被る。トランクケースは大きな石に、私は太い木の根上がりに擬態して大人しくしていると、刺客たちが追いついてきた。
「なんて、足の速さだ。……というか、さっきの悲鳴からして、ここから落ちたのか?」
「ここに足を滑らせたような跡がある!」
追いかけてきた男たちは崖下を覗き込みながら口々に話す。
「勢い余って落ちたというところか。せっかくここまで逃げてきたのに、あっけない最後だったな」
「まあ、貴族の令嬢ですからね。ここまで逃げてこれただけすごいですよ」
あはははと笑いながら、刺客たちは呑気に会話をしながら去っていった。
しばらく隠れ続け、姿が見えなくなってから、私は安堵のため息を吐いた。
「人が崖下に落ちたっていうのに笑うことができるなんて普通の神経じゃないわね!」
刺客なんてそんなものだろうか。
スカートについた土や草を払い、私はトランクケースを持ち上げた。
「見てなさいよ! 絶対に幸せになってやるんだから!」
決意を口にして、私は薄暗い森の中を歩き出した。
******
約10日かけて、私は北の辺境の地であるローズコット辺境伯領に辿り着いた。
女性一人の旅ということで、変な人に絡まれそうにはなったが、魔道具で撃退してなんとかなった。
私が出発した次の日には、なんとミゼシュ王国全土に私の死が知れ渡った。というのも、前日に第二王子の婚約解消と、聖女と呼ばれているレレール様に多くの男性が婚約を申し込んだことが大々的な記事になっていたからだ。
多くの貴族は第二王子の判断を支持したが、レレール教の信者たちは国王陛下に第二王子に何らかの処分を与えるように訴えたそうだ。……相手にされなかったみたいだけど。
ちなみにレレール教というのは、盲目的にレレール様を信じている人たちのことを、揶揄する意味の言葉だ。
信仰は自由だし、それぞれの神に敬意を抱いているけれど、レレール様は人間であって神ではない。
しかも、女性に対しては性格が悪い。人のものを欲しがるタイプで、友人の婚約者を奪うのが趣味だ。
……ってどんな趣味よ! そして、これまたたちが悪いのは彼女の両親が彼女に甘いということだ。
今まではレレール様に目をつけられないように大人しくしていたけれど、もう彼女のことなんて気にしなくていい!
婚約者に婚約破棄され、家族に捨てられただけでなく、この世から抹消された私だけど本当に幸せ!
新聞に書かれていた私の死因は、婚約を破棄されたショックで崖から身投げしたことになっている。
いつか、父たちの前に姿を現すことがあったら、恐れおののくんじゃないかしら。
「リリーさん、検問所が見えてきましたよ」
乗合馬車の中で仲良くなった人に声をかけられ、身を乗り出して指さされた方向に目を向ける。
青々とした木々に、馬車の轍がついた道。そして、その先には高い壁が見え、辺境伯領に入るための検問所があった。
領ごとに検問所があり、入る時にだけ身分証を確認される。通り過ぎる場合だけの時は国の整備局が管理している道を行けば良いので、身分証は必要ない。
辺境伯領に入るための身分証だが、魔道具を販売する資格を母が生きている時に取得していたので、その時にもらった資格証明書が身分証明に使える。
ちなみに姓は書かれていないので、亡くなった人の身分証だと思われることもない。
姓を省いても良いのは、平民の中には名しか持っていない人がいるからだ。
資格証明書を発行している商業ギルドに問い合わせされたら別だけど、わざわざそんなことをする人はいないでしょう。
身分証明の有効期限は十年間。すでに三年ほど経過しているので、あと七年。その間に新しい身分を手に入れるか、一生、この領から出なければ特に問題はないはずだ。
魔法で偽造することもできるけど、なんだろう。それはやってはいけない気がするのよね。
まあ、このことについては生活が安定してから考えましょう!
とりあえず、今は辺境伯領に入れれば何でも良い。
愛想笑いを振りまき、礼儀正しく検問所の人に挨拶をすると、資格証明証が珍しかったらしく驚かれたが、魔道具の商人は大歓迎だと言ってもらえた。
雑談ついでにローズコット辺境伯領はどんな所か聞いてみると、国境付近以外は自然の多い場所ばかりだが、商店街は活気に満ち溢れているんだそうだ。
領主夫妻のこともとても良い人たちだと褒めていた。
気になったのは、辺境伯夫妻やジェイクのことは褒めていたのに、長男のエイフェック様については触れなかったことだ。
エイフィック様とは、問題の婚約破棄祭りの時に会った。そういえば感じが悪かったものね。ジェイクやエイフィック様の奥様のことも脅しているみたいだったし心配だわ。
ジェイクとは些細な喧嘩もしたりしたけど、なんだかんだ言って一緒にいると楽しかった。学園に通わなくなってからは疎遠になっていたし、嫌われたと思っていたから、あの時は心配してくれて嬉しかったな。
……もしかしたら、私の手元に届かなかっただけで、手紙を送ってくれていたのかもしれない。
もう、どこかで姿を見ることはできても、話すことはできないんだよね。正体を明かすことがあっても、ジェイクの耳に届くかはわからないもの。
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