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9 気にしてあげる必要もないわね
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ジェイクは私がリリーノだと確信したようだった。わたしのようすか本人だと言ってはいけないと判断してくれたらしく、他の隊員たちに言う。
「す、すごく似てるからびっくりした。今日、捕まえた男が死んだ人間が生きていたと言っていたのもわかる気がする」
「そんなに似ているんですか?」
「ああ。何か彼女を見たら悲しい気分が薄れてきたし、二人で話をしてもいいですか?」
ジェイクが隊長と呼ばれていた人に許可を取ると、隊長さんが女将さんにも話をつけてくれて、二人で話をすることになった。
私とジェイクだけ、みんながいるテーブルから少し離れた席に座ると、ジェイクが小声で尋ねてくる。
「生きていてくれたのは嬉しいけど、一体、どういうことなんだよ」
「父が私を殺そうとしたの。追われるのは疲れるからだから死んだように見せかけたのよ」
「なんだって? リノの親父さんはショックで身投げしたって言ってたぞ」
「身投げしたふりをしたのよ。そうしなかったら殺されて埋められていたかもしれないわ。ところで、あなたは私についてどんな話を聞いたの?」
父曰く、憔悴しきった私が崖から飛び降り、遺体は見つかったが、損傷が激しくて誰だかわからない状態だと言われたらしい。遺体が私だとわかった理由は着ていた服や髪色などが同じだったそうだ。
フェルスコット領の一部は治安が悪く、毎日誰かが犯罪に巻き込まれて亡くなっていると聞いたことがある。
「服装については何とでも言えるわね。きっと身寄りのない人間の遺体を持ってきて、私の代わりにしたんだわ」
ジェイクは私の話を聞いて、眉尻を下げる。
「俺がもっと早くに行っていれば……、本当ごめん」
「ジェイクが気にすることじゃないわ。もし、悪いと思ってくれているならお願いしたいことがあるの」
「なんだ?」
「タクリッボの店長に姿を見られたの。彼は父の所に行って報告すると思うのよ」
「また命を狙われる可能性があるのか?」
「それはないとは思うんだけど……」
ジェイクのことだし、秘密を話しても言いふらすようなことはしないと思う。あとから知るよりかは私の口から知らせておいたほうが良いわよね。知らせておいたほうが協力してもらえるでしょうし。
念のためにシルバートレイに触れてもらったところ、ジェイクは何も反応しなかったので胸を撫でおろす。
「ジェイク、あなたに話をしておきたいことがあるの」
「なんだ?」
他の人に聞かれないようにジェイクに身を寄せると、彼は焦った顔で身を引いた。
「どうしたの?」
「ち、近い!」
「不快な思いをさせてしまったのならごめんなさい。でも、人に聞かれたくない話のよ」
「不快な思いはしてない! ただ、その免疫がないだけだ」
よく見てみると、ジェイクの顔が赤い。彼はまだお酒を飲んでいないはずだから、熱がある、もしくは私が近づいたことで照れているのだと思う。免疫がないっていうのは、そういうことかしら。
「悪いけれど、一瞬で免疫をつけて?」
「わ、わかった」
ジェイクが私に身を寄せてきたので、彼の耳元に口を寄せ、口を手で隠して話す。
「私、付与魔法が使えるの」
「……え?」
「タクリッボの魔道具の話を聞いたことはある?」
「あるよ。良い製品ばかりで有名だった。だけど、最近はそうでもないんだろ?」
「良い製品を売っていたのは私なのよ。そして、タクリッボの店長にも内緒にしていたけれど、魔道具を作っていたのも私なの」
えっへんと胸を張って見せると、ジェイクは困惑した様子で尋ねてくる。
「酔ってるんじゃないよな?」
「酔ってないわ。勤務中にお酒は飲みません!」
ミゼシュ王国は16歳から飲酒が可能だが、私は今までに一度も飲んだことがない。……って、そんなことは今はどうでもいいわね。
「それならどうして、リノは虐げられてたんだ? 付与魔法が使えるのなら、敬われてもおかしくないくらいの立場だろ」
「あの人たちには教えていなかったの」
「どうしてだ? 伝えていたら待遇も変わっていただろ」
「あなたが私の立場だったら、家族に伝えるの?」
ジェイクは眉間に皺を寄せて少し考えてから首を横に振る。
「伝えない。手のひら返しされてもむかつくだけだ」
「でしょう? それに、まさか殺そうとしてくるだなんて思っていなかったの」
「魔道具を作れる人間だとわかったら優しくなるんだろうな」
「自慢の娘とか言い出すようになるかも。だけどね、私はここで暮らすって決めたの。そのためにはジェイクの協力が必要なの」
「わかった。今度こそリノを守る」
力強く頷いてくれたジェイクに握手を求めると、恥ずかしそうにしながら手を握ってきた。
「どうかしたの?」
「リノ、さっきまでの話、全部聞いてたんだよな?」
「さっきまでの話?」
手を離してから記憶を遡ってみると、情けない姿のジェイクが浮かび上がってきた。
そうだった。ジェイクは私のことを好きなんだわ! こ、ここは聞かなかったふりをすべきなの?
「あの、そういうわけだけど、リノは今はそれどころじゃないだろ? 落ち着いてから考えてくれないか」
「……ありがとう。そうさせてもらうね」
ジェイクの気持ちは嬉しい。でも、今は浮ついた気持ちではいられないのよ。だから、その提案はとてもありがたかった。
「そういえば、お前の元婚約者がどうなったか知ってるか?」
「いいえ」
「小切手が換金されたから、手切れ金を勝手に渡したことが親にバレたんだ」
そうだった。あの手切れ金、彼が自分の判断で私に渡したものなのよね。
あの後、小切手は賊に追われているとわかった時に御者に渡したんだった。死んだふりをするなら、私が換金するよりも他の人のほうが良いと思ったのよね。しかも、怖い思いをさせてしまったし、迷惑料込みの値段にると思っていた。
「で、どうなったの?」
「婚約破棄を勝手にしただけでなく、家の金まで勝手に使ったということで勘当されたよ」
「……なら、レレール様にもふられたのね?」
「ああ。ただ、彼の場合は彼女に、はなから相手にされてなかったみたいだけどな」
ジェイクが呆れた顔で言った。
後先考えずにあんなことをするからよ。まあ、元婚約者がどうなろうが彼の選んだ道だもの。
私が気にしてあげる必要もないわね。
「す、すごく似てるからびっくりした。今日、捕まえた男が死んだ人間が生きていたと言っていたのもわかる気がする」
「そんなに似ているんですか?」
「ああ。何か彼女を見たら悲しい気分が薄れてきたし、二人で話をしてもいいですか?」
ジェイクが隊長と呼ばれていた人に許可を取ると、隊長さんが女将さんにも話をつけてくれて、二人で話をすることになった。
私とジェイクだけ、みんながいるテーブルから少し離れた席に座ると、ジェイクが小声で尋ねてくる。
「生きていてくれたのは嬉しいけど、一体、どういうことなんだよ」
「父が私を殺そうとしたの。追われるのは疲れるからだから死んだように見せかけたのよ」
「なんだって? リノの親父さんはショックで身投げしたって言ってたぞ」
「身投げしたふりをしたのよ。そうしなかったら殺されて埋められていたかもしれないわ。ところで、あなたは私についてどんな話を聞いたの?」
父曰く、憔悴しきった私が崖から飛び降り、遺体は見つかったが、損傷が激しくて誰だかわからない状態だと言われたらしい。遺体が私だとわかった理由は着ていた服や髪色などが同じだったそうだ。
フェルスコット領の一部は治安が悪く、毎日誰かが犯罪に巻き込まれて亡くなっていると聞いたことがある。
「服装については何とでも言えるわね。きっと身寄りのない人間の遺体を持ってきて、私の代わりにしたんだわ」
ジェイクは私の話を聞いて、眉尻を下げる。
「俺がもっと早くに行っていれば……、本当ごめん」
「ジェイクが気にすることじゃないわ。もし、悪いと思ってくれているならお願いしたいことがあるの」
「なんだ?」
「タクリッボの店長に姿を見られたの。彼は父の所に行って報告すると思うのよ」
「また命を狙われる可能性があるのか?」
「それはないとは思うんだけど……」
ジェイクのことだし、秘密を話しても言いふらすようなことはしないと思う。あとから知るよりかは私の口から知らせておいたほうが良いわよね。知らせておいたほうが協力してもらえるでしょうし。
念のためにシルバートレイに触れてもらったところ、ジェイクは何も反応しなかったので胸を撫でおろす。
「ジェイク、あなたに話をしておきたいことがあるの」
「なんだ?」
他の人に聞かれないようにジェイクに身を寄せると、彼は焦った顔で身を引いた。
「どうしたの?」
「ち、近い!」
「不快な思いをさせてしまったのならごめんなさい。でも、人に聞かれたくない話のよ」
「不快な思いはしてない! ただ、その免疫がないだけだ」
よく見てみると、ジェイクの顔が赤い。彼はまだお酒を飲んでいないはずだから、熱がある、もしくは私が近づいたことで照れているのだと思う。免疫がないっていうのは、そういうことかしら。
「悪いけれど、一瞬で免疫をつけて?」
「わ、わかった」
ジェイクが私に身を寄せてきたので、彼の耳元に口を寄せ、口を手で隠して話す。
「私、付与魔法が使えるの」
「……え?」
「タクリッボの魔道具の話を聞いたことはある?」
「あるよ。良い製品ばかりで有名だった。だけど、最近はそうでもないんだろ?」
「良い製品を売っていたのは私なのよ。そして、タクリッボの店長にも内緒にしていたけれど、魔道具を作っていたのも私なの」
えっへんと胸を張って見せると、ジェイクは困惑した様子で尋ねてくる。
「酔ってるんじゃないよな?」
「酔ってないわ。勤務中にお酒は飲みません!」
ミゼシュ王国は16歳から飲酒が可能だが、私は今までに一度も飲んだことがない。……って、そんなことは今はどうでもいいわね。
「それならどうして、リノは虐げられてたんだ? 付与魔法が使えるのなら、敬われてもおかしくないくらいの立場だろ」
「あの人たちには教えていなかったの」
「どうしてだ? 伝えていたら待遇も変わっていただろ」
「あなたが私の立場だったら、家族に伝えるの?」
ジェイクは眉間に皺を寄せて少し考えてから首を横に振る。
「伝えない。手のひら返しされてもむかつくだけだ」
「でしょう? それに、まさか殺そうとしてくるだなんて思っていなかったの」
「魔道具を作れる人間だとわかったら優しくなるんだろうな」
「自慢の娘とか言い出すようになるかも。だけどね、私はここで暮らすって決めたの。そのためにはジェイクの協力が必要なの」
「わかった。今度こそリノを守る」
力強く頷いてくれたジェイクに握手を求めると、恥ずかしそうにしながら手を握ってきた。
「どうかしたの?」
「リノ、さっきまでの話、全部聞いてたんだよな?」
「さっきまでの話?」
手を離してから記憶を遡ってみると、情けない姿のジェイクが浮かび上がってきた。
そうだった。ジェイクは私のことを好きなんだわ! こ、ここは聞かなかったふりをすべきなの?
「あの、そういうわけだけど、リノは今はそれどころじゃないだろ? 落ち着いてから考えてくれないか」
「……ありがとう。そうさせてもらうね」
ジェイクの気持ちは嬉しい。でも、今は浮ついた気持ちではいられないのよ。だから、その提案はとてもありがたかった。
「そういえば、お前の元婚約者がどうなったか知ってるか?」
「いいえ」
「小切手が換金されたから、手切れ金を勝手に渡したことが親にバレたんだ」
そうだった。あの手切れ金、彼が自分の判断で私に渡したものなのよね。
あの後、小切手は賊に追われているとわかった時に御者に渡したんだった。死んだふりをするなら、私が換金するよりも他の人のほうが良いと思ったのよね。しかも、怖い思いをさせてしまったし、迷惑料込みの値段にると思っていた。
「で、どうなったの?」
「婚約破棄を勝手にしただけでなく、家の金まで勝手に使ったということで勘当されたよ」
「……なら、レレール様にもふられたのね?」
「ああ。ただ、彼の場合は彼女に、はなから相手にされてなかったみたいだけどな」
ジェイクが呆れた顔で言った。
後先考えずにあんなことをするからよ。まあ、元婚約者がどうなろうが彼の選んだ道だもの。
私が気にしてあげる必要もないわね。
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