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11 この浮気男め!
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ジェイクは私の許可を得たあとに、辺境伯夫妻には私が生きているという話をしたそうだが、エイフィック様には話していないと言っていた。
話す気にならなかっただけでなく、両親から止められたというのだから、よっぽど、エイフィック様は信用を失っているのでしょう。
ということで、エイフィック様には私だとバレるわけにはいかない。彼に背を向けて急いで厨房に入った。エイフィック様はジェイクに気を取られていたからか、私に気づいていないようだ。
髪を下ろしている姿とポニーテールでは印象が違うし、今のメイクはナチュラルメイクだ。エイフィック様は厚化粧の私しか知らないし、それも気づかなかった理由の一つかもしれない。
「ジェイク! お前はまだリリーノのことが忘れられないらしいな!」
「兄さんには関係ないだろ! 大体、義姉さんまで連れてきて何の用だよ!?」
辺境伯家の兄弟喧嘩に、店内にいる客たちの視線が集まる。女将さんは私の隣で腕を組んで二人を見つめていた。
貫禄があってカッコいい!
「ココナをレレール様のメイドとして働かせることにした。彼女を連れて行くから、お前に護衛を頼む」
自分の妻をメイドとして働かせる!? 辺境伯令息の妻なのよ? せめて侍女じゃないの!?
驚いていると、女将さんが話しかけてくる。
「リリーは昔のエイフィック様を知ってるかい?」
「……はい。親しかったわけではありませんが、話はしていましたし優しい人だと思っていました。今はその面影はないですが……」
「いつからか、人が変わったみたいになってしまってね。昔は良い人だとみんなから好かれていたのに、今では敬遠される存在だよ」
女将さんは、どこか哀れむような目でエイフィック様を見つめている。
幼い頃の純粋な彼の姿を知っている分、ショックも大きいんでしょう。
「よっぽど辛いことがあったんだろうね」
女将さん、その人、闇女に失恋しただけです。あ……、闇女じゃなかった。聖女に失恋してやけっぱちになってる人ですよ。
奥様をレレール様の所に連れて行こうとしているのだって、自分が会いたい、もしくは奥様を使ってレレール様に近づきたいだけでしょう!
この浮気男め!
人を幸せにする魔道具を作るのが、私のポリシーだが、悪人を除くという前提がある。
「好きな人には顔がジャガイモにしか見えない魔道具でも作って、ジェイクから恋のお守りだと言ってもらってエイフィック様に渡してもらおうかな」
「相手に気持ち悪いものを見せるよりかはマシだね」
暗に女将さんはエイフィック様のことを気持ち悪いものと言ってしまっている。人の顔がジャガイモに見えたら、レレール様は確実にエイフィック様を恐れるわよね。よっぽどジャガイモが好きなら別だけど。
好きな人に辛く当たられる気持ちを、エイフィック様にもわかってもらいましょう。奥様が彼のことを好きかどうかはわからない。でも、嫌いならとっとと離婚しているだろうし、やり直すきっかけになればいい。
万が一、奥様がジェイクを狙っていたとしても、彼がその気持ちを受け入れることはない。
私はジェイクとエイフィック様の話に意識を戻す。
「俺なんかよりももっと腕のいい騎士に頼んでください」
「お前は騎士団に入ってすぐに一部隊の副隊長になれたんだろう? そんな人間よりも優れた人なんてそういない」
「褒めていただけるのはありがたいですが、俺よりも腕の立つ人間はたくさんいますよ」
「頼みやすいから言っているんだ! お前は弟だろう! 兄の言うことを聞け!」
「言っていることは聞こえていますよ。ですが、兄さんの思うようには動きません」
「ジェイク!」
エイフィック様はジェイクの名を呼んだのに、なぜか奥様の頬を叩いた。
「……っ!」
「次に逆らうとまた同じことをするぞ!」
「義姉さん、大丈夫か!? 兄さん、いい加減にしてくれ!」
奥様は悲鳴を上げなかったが、頬を押さえてしゃがみ込んだ。そんな彼女のもとにジェイクが駆け寄る。
「なんてこと!」
女将さんが割って入ろうとするのを止めて話しかける。
「女将さん、あなたが出ていったらこの店に難癖をつける可能性があります。私に任せてもらえませんか」
「あんたが行くのは駄目だ! 正体がバレてしまうかもしれないよ!」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。私が行くわけではないので。エミー」
「……なに?」
今日は休みの日だったけれど、騒ぎを聞きつけて上から下りてきたエミーにお願いする。
「落ち着いてほしいと言って、お水を渡してくれない?」
私はコップに魔法をかけたあと、水を入れてエミーに渡す。
「手に取ってもらえばいいの?」
「ええ。割れたら弁償するわ。あと、何かあったらいけないし、渡したらすぐに彼から離れてね」
「わかった」
エミーは頷くと、エイフィック様の元に向かって歩き出す。無事に彼女がエイフィック様にコップを渡し、少し距離を取った時だった。
「違う! 違うんです! これは僕は悪くないんです!」
エイフィック様が頭を抱えてしゃがみ込む。彼が手放したコップは、床に落ちる前にジェイクが受け止めてくれた。
「ジェイク様が手にとっても大丈夫なのかい?」
「大丈夫です。ジェイクはレレール様に罵られてもダメージがないですから」
女将さんの問いに、私は笑顔で答えた。
私がコップにかけた魔法は『レレール様から一番言われたくない言葉を言われる幻覚を見る』だった。
話す気にならなかっただけでなく、両親から止められたというのだから、よっぽど、エイフィック様は信用を失っているのでしょう。
ということで、エイフィック様には私だとバレるわけにはいかない。彼に背を向けて急いで厨房に入った。エイフィック様はジェイクに気を取られていたからか、私に気づいていないようだ。
髪を下ろしている姿とポニーテールでは印象が違うし、今のメイクはナチュラルメイクだ。エイフィック様は厚化粧の私しか知らないし、それも気づかなかった理由の一つかもしれない。
「ジェイク! お前はまだリリーノのことが忘れられないらしいな!」
「兄さんには関係ないだろ! 大体、義姉さんまで連れてきて何の用だよ!?」
辺境伯家の兄弟喧嘩に、店内にいる客たちの視線が集まる。女将さんは私の隣で腕を組んで二人を見つめていた。
貫禄があってカッコいい!
「ココナをレレール様のメイドとして働かせることにした。彼女を連れて行くから、お前に護衛を頼む」
自分の妻をメイドとして働かせる!? 辺境伯令息の妻なのよ? せめて侍女じゃないの!?
驚いていると、女将さんが話しかけてくる。
「リリーは昔のエイフィック様を知ってるかい?」
「……はい。親しかったわけではありませんが、話はしていましたし優しい人だと思っていました。今はその面影はないですが……」
「いつからか、人が変わったみたいになってしまってね。昔は良い人だとみんなから好かれていたのに、今では敬遠される存在だよ」
女将さんは、どこか哀れむような目でエイフィック様を見つめている。
幼い頃の純粋な彼の姿を知っている分、ショックも大きいんでしょう。
「よっぽど辛いことがあったんだろうね」
女将さん、その人、闇女に失恋しただけです。あ……、闇女じゃなかった。聖女に失恋してやけっぱちになってる人ですよ。
奥様をレレール様の所に連れて行こうとしているのだって、自分が会いたい、もしくは奥様を使ってレレール様に近づきたいだけでしょう!
この浮気男め!
人を幸せにする魔道具を作るのが、私のポリシーだが、悪人を除くという前提がある。
「好きな人には顔がジャガイモにしか見えない魔道具でも作って、ジェイクから恋のお守りだと言ってもらってエイフィック様に渡してもらおうかな」
「相手に気持ち悪いものを見せるよりかはマシだね」
暗に女将さんはエイフィック様のことを気持ち悪いものと言ってしまっている。人の顔がジャガイモに見えたら、レレール様は確実にエイフィック様を恐れるわよね。よっぽどジャガイモが好きなら別だけど。
好きな人に辛く当たられる気持ちを、エイフィック様にもわかってもらいましょう。奥様が彼のことを好きかどうかはわからない。でも、嫌いならとっとと離婚しているだろうし、やり直すきっかけになればいい。
万が一、奥様がジェイクを狙っていたとしても、彼がその気持ちを受け入れることはない。
私はジェイクとエイフィック様の話に意識を戻す。
「俺なんかよりももっと腕のいい騎士に頼んでください」
「お前は騎士団に入ってすぐに一部隊の副隊長になれたんだろう? そんな人間よりも優れた人なんてそういない」
「褒めていただけるのはありがたいですが、俺よりも腕の立つ人間はたくさんいますよ」
「頼みやすいから言っているんだ! お前は弟だろう! 兄の言うことを聞け!」
「言っていることは聞こえていますよ。ですが、兄さんの思うようには動きません」
「ジェイク!」
エイフィック様はジェイクの名を呼んだのに、なぜか奥様の頬を叩いた。
「……っ!」
「次に逆らうとまた同じことをするぞ!」
「義姉さん、大丈夫か!? 兄さん、いい加減にしてくれ!」
奥様は悲鳴を上げなかったが、頬を押さえてしゃがみ込んだ。そんな彼女のもとにジェイクが駆け寄る。
「なんてこと!」
女将さんが割って入ろうとするのを止めて話しかける。
「女将さん、あなたが出ていったらこの店に難癖をつける可能性があります。私に任せてもらえませんか」
「あんたが行くのは駄目だ! 正体がバレてしまうかもしれないよ!」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。私が行くわけではないので。エミー」
「……なに?」
今日は休みの日だったけれど、騒ぎを聞きつけて上から下りてきたエミーにお願いする。
「落ち着いてほしいと言って、お水を渡してくれない?」
私はコップに魔法をかけたあと、水を入れてエミーに渡す。
「手に取ってもらえばいいの?」
「ええ。割れたら弁償するわ。あと、何かあったらいけないし、渡したらすぐに彼から離れてね」
「わかった」
エミーは頷くと、エイフィック様の元に向かって歩き出す。無事に彼女がエイフィック様にコップを渡し、少し距離を取った時だった。
「違う! 違うんです! これは僕は悪くないんです!」
エイフィック様が頭を抱えてしゃがみ込む。彼が手放したコップは、床に落ちる前にジェイクが受け止めてくれた。
「ジェイク様が手にとっても大丈夫なのかい?」
「大丈夫です。ジェイクはレレール様に罵られてもダメージがないですから」
女将さんの問いに、私は笑顔で答えた。
私がコップにかけた魔法は『レレール様から一番言われたくない言葉を言われる幻覚を見る』だった。
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