家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい

風見ゆうみ

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35 次はないようにしたいかな

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 ドクウサが叫んだため、遠巻きに見ていた人たちは、すぐ近くまで距離を詰めてきた。

 最初はレレール様が誰かわかっていないようだったが、何度か名前を聞いているうちに、一時期話題になった公爵令嬢だと気がついたようだった。

「レレール様って第二王子殿下に婚約破棄された公爵令嬢だったっけ」
「彼女に婚約を申し込んだ男性が複数出て話題になっていたわね」

 顔を真っ赤にして怒っていたレレール様だったが、野次馬の声を聞いて、突然、地面に座り込んだ。

「ひ、酷い、酷いわ! わたくしは何も悪いことなんてしていませんのに!」

 ウッウッと泣き始めたレレール様を見て、ため息を吐く。
 多くの貴族は彼女が嘘泣きをしていることがわかるから問題なかった。だけど、平民は彼女のことをよく知らないから、演技に騙されてしまう人もいる。

「なんだか可哀想じゃないか。あの魔道具はモテない女のやっかみで作られたんだろうな。あんなに綺麗なら何でもいいじゃないか」

 何でもいいわけがない。

 声のした方向に目を向けると、若い男性がニヤニヤしながら、レレール様を見つめているのがわかった。
 騙された一人か。
 呆れ返っていると、私の視線に気がついた男性がこちらに目を向けた瞬間、表情を引きつらせた。

 彼の視線を追ってみると、ジェイクが片手で抱えてくれている、クマリーノとサムイヌがおり、その男性にガンを飛ばしていた。

『最低な野郎でござるな。今晩の拙者の飯にしてやろうか』
『そんなに綺麗が好きなら、お前の毛を刈って全身ツルツルの綺麗な肌にしてやろうかクマ!』
「ひいっ!」

 男性は逃げようとしたが、クマリーノが動きを止めたため逃げることができない。

「た、助けて……」

 予想していた以上に魔導具が暴れている。私が事なかれ主義なだけに、魔道具は勧善懲悪で正義感の強いものにしたのが駄目だったのか。

 まあいいか。私が魔道具師だとバレたわけではない。知っているのはレレール様とその信者だ。見ている人たちは辺境伯家が魔道具師とやり取りをしていることは知っている。
 魔道具との関係性を問われれば、ジェイクが魔道具師からもらったと言ってくれればいい。このことについては、ジェイクにわざわざ言わなくてもわかってくれているはずだ。

 あとは、レレール様たちの口封じをするだけ。

「レレール様の性格が悪いだなんて嘘だっ!」

 静かだったレレール教の信者の一人が叫ぶと、他の信者たちも声を上げる。

「そうだ、そうだ! さっきも言っていたようにモテない女のやっかみだ!」

 一人が私を指さしてきたので、私は嘘泣きを続けているレレール様に近づく。

 脅しの言葉をかけたことなんて、今までに一度もない。効果的な言葉なんて思い浮かばないので、ここは、ジュネコの真似でもしましょう。

「おい、嬢ちゃん」
「……嬢ちゃん?」

 顔を上げたレレール様は目を見開いて私を見つめた。

 しまった。真似しすぎた!

 ごほんと咳払いして言い直す。

「失礼しました、レレール様」
「……何ですのっ! これ以上、わたくしをいじめるおつもりなの?」

 いやいやと言わんばかりに上半身を横に揺らすレレール様に少し苛立ったが、冷静になって彼女の耳元で囁く。

「いい加減にしろや、こらぁ。忠告しておくがなぁ、私が魔道具師なんて口にしてみろ。そんなことしたらどうなるかわかっとるやろなぁ」
「ひっ!」

 レレール様は小さい悲鳴を上げて、私を見つめた。

 私の中では『ウソ泣きはいい加減にやめてください。忠告しておきますが、私が魔道具師なんて口にしないでくださいね。そんなことをしたら大変な目に遭いますよ』だったのだが伝わったかしら。

 そう思った時、頭の中でジュネコの声が響く。

『リリーノ様。次はもう少し巻き舌で、ゴルァでお願いします』

 ……つ、次はないようにしたいかな。

「レレール様! 大丈夫ですか!?」

 信者たちが駆け寄ってきたので、私はジェイクの隣に戻ると、彼が不思議そうな顔で尋ねてきた。

「なんて言ったんだ?」
「私が魔道具師だとバラさないでくださいねって可愛くお願いしたの」
「……怖がってたように見えたけど」
「ジュネコは可愛いでしょ? ジュネコの真似をしたから可愛いのよ」
「……そうだな」

 ジェイクは信じてくれていないようだけど一応、頷いてくれた。

「ひ、人の秘密は、ぜ、絶対に話しませんわ!」

 レレール様は笑みを引きつらせて言うと、ドクウサが口を開く。

「みなさぁん! 見てくださぁい! あれがレレール様が悪いことを考えている時の顔ですぅ! そして、さっきまで泣いていたはずなのに、化粧が落ちていませぇん! 嘘泣きでしたねぇ!」
「う、嘘泣きなんかじゃなくってよ! あなたたち! 覚えていなさいよ!」

 そう言ってレレール様は立ち上がると、背を向けて歩き出した。
 彼女のことを忘れはしないけど、もう関わり合いになりたくないわね。

「リリーノ様ぁ。ドクウサはレレール様を目立たせるための道具ですのでぇ、いってきますぅ」
「ドクウサだけで大丈夫?」
「お任せくださぁい。あと、魔道具師とバラさないように見張っておきますねぇ!」
「ありがとう。助かるわ」
「リリーノ様のためですからぁ。いってきますぅ!」

 ドクウサは私との小声での会話を終えると、私の手の上からジャンプして、レレール様の頭の上に着地した。

「みなさぁん! 人の不幸を見てせせら笑うレレール様のお通りですよぉ! 道を空けてくださぁい!」
「何なんですの、この魔道具はぁ!」

 レレール様や信者たちが必死に頭からドクウサをおろそうとしたが、結局、失敗に終わり、ドクウサはレレール様と一緒に馬車に乗って行ったのだった。
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