婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

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24 お姉様にとっては地獄でしょうね

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 お姉様の叫び声は聞こえてきたものの、それに対して言葉を返しているはずの、ロード様や他の人たちの声は聞こえてこない。

「えっ!? あなたみたいな人でもチヤホヤされるのっ!?」

 しばらくしてまた、お姉様の驚く声が聞こえてきた。

 すると今度は、お姉様ではない他の女性の声も聞こえてくる。

「あなたみたいって何よ! あんたこそ馬鹿みたいな話し方して何なの!? 子供なら可愛いし許せるけど、あんた大人でしょ!? 可愛こぶるのはやめなさいよ! キモいんだけど!」
「可愛こぶるってなんなのっ!? わたしは可愛いんだから、ぶってるんじゃないわ! 可愛いのよ!」
「あんた、本当に鬱陶しいわね! 貴族の令嬢だか何だか知らないけど、ここに来たら、そんなの関係ないからね! こちらにいる公爵閣下にも許可を得てるんだから、厳しく指導してやるわ!」

 こちらにいる公爵閣下というのは、ロード様のことだと思われる。
 というか、ここはロード様の領地だし、他の公爵閣下がいたら不自然だ。

 撫でる手が止まっていたからか、メルちゃんが私の顔に自分の顔を寄せてきた。

「ごめんね、メルちゃん」

 メルちゃんを撫でながら聞こえてくる声に耳を傾けていると、メルちゃんの耳がたまにピクピク動いていることに気が付いた。

 私には聞こえないけれど、ロード様が話をしているのだと思った。

 メルちゃんは耳が良いから、ロード様の声には反応しているのね。

「どうして、この人にそんなことを決める権利があるのっ!? わたしは、侯爵令嬢なのよっ!? 偉いんだから! 嫌よ! ジーギス様たちの所に帰れないなら実家に帰る!」

 お姉様がわあわあと騒いでいる。

 実は伯父様はお姉様を家に連れて帰りたがっていた。
 だけど、ロード様がそれを良しとしなかった。
 家に帰らせるだけじゃ解決には至らないだろうし、見せしめにもならないからだ。

 お姉様のことだから、実家に帰ったら伯父様にお願いして、すぐにまた私のところへ来るようになりそうだもの。

「ねぇ、あんた、そんなに自信がないの?」
「何がよっ!?」
「あたしとあんたなら、この店の客の人気はあたしのほうが上だって言えるわよ。だって、あんたは可愛くないもん」
「な、なんですって!?」

 お姉様は怒りのままに叫ぶ。

「見てなさいよ! わたしが絶対にこの店で一番の人気者になってやるんだからぁ! あ、聞いておくけれど、この店のお客様は男性なんでしょうっ!?」
「そんなに大きな声で言わなくても聞こえてるわよ。あと別に客全員が男性ってわけじゃないわよ。女性だっているわ。それに、男性はお金はないし、下品な奴らばっかりだけどね。あ、お触りとか一応は禁止してるから安心して。すごく汗臭いし、汚い手で触れられたくないのよ。まあ、全員そういうわけじゃないからさ。ちゃんと清潔感があるのもいるわよ」

 見知らぬ女性の言葉に返答する、お姉様の言葉は聞こえなかった。
 きっと、話を聞いて呆然としているんだと思う。

 お姉様は汗臭い男性が好きではない。
 汗臭い人が苦手なのは男女問わずにいると思うから、その気持ちはわからないでもない。

 この店は採掘員にとって憩いの場だ。
 酒場と言ってはいるけれど、メインになる食事も提供していて、仕事帰りに直接、夕食をとるためにここに寄る人が多いんだそうだ。

 だから、ドロドロの作業服のままの汗臭いお客様が多いのだと聞いている。
 頑張って働いている証なんだけれど、お姉様にとっては地獄でしょうね。



*****




 お姉様は次の日から働くことになり、お店の2階にある従業員が寝泊まりできる部屋に、強制的に連れて行かれた。

 逃げられないように部屋の前には監視がつけられ、部屋の窓には鉄格子がつけられているとのことだった。

 プライバシーは守られているから、慣れれば快適な住処になると、お姉様と言い合っていた女性が教えてくれた。

 その女性は犬が好きらしく、店の中をウロウロしないのであれば、お店の中に入れても良いと言ってくれた。
 だから、メルちゃんも一緒に中に入り、これから、お姉様がする仕事を説明してもらうことになった。

 
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