婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

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44 ご心配なく

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「どうしてそんなことを言うんだよ!? まだわからないじゃないか!」
「絶対にありえません」

 私が何か言う前にロード様が答えてくれるから、スカディ様は納得できないといった様子で叫ぶ。

「さっきの言葉はロードに言ったんじゃない! ミレニアに言ったんだよ!」
「ミレニアは僕の婚約者です。他の男性が興味を持とうとしているのなら、それを断ち切るのも婚約者である僕の務めだと思っています」

 こんなことを男性に言われる日が来るだなんて思ってもいなかった。
 だからなのか、それともロード様に言ってもらえたからなのかわからないけれど、胸がドキドキした。

「……どうかしたか?」
「いえ、何でもありません!」

 私の様子がおかしいことに気が付いたロード様が不思議そうな顔で聞いてきたので、慌てて首を横に振った。

 こんな時にときめいてしまうなんて呑気すぎるわよね。

 気合を入れ直すために両頬を叩いてから、スカディ様に私の口から伝える。

「申し訳ございませんが、スカディ殿下、私はあなたのお気持ちには応えられません」
「ど、どうして!? 僕は王子なんだよ!?」
「王子だからといって、気持ちに応えないといけないわけではありません」

 眉根を寄せて答えると、スカディ様は子供みたいに頬を膨らませる。

「僕が思ってあげるって言ってるんだよ!? どうして気持ちを返してくれないんだよ!?」
「あの、ですからっ」

 話が通じなさすぎて、さすがに頭にきてしまい、語気を荒げた時だった。

「ミレニアは僕の婚約者だと先程も言ったでしょう。あなたには渡しません」

 ロード様が冷たい声でスカディ様に言うと、今度は完全に蚊帳の外になっているレジーさんに顔を向ける。

「部屋を忘れてしまったようなので、お連れしよう」
「わ、忘れてなんかいないわよ! 戻りたくないだけよ!」

 レジーさんの言葉を無視して、ロード様はちょうど自分の背後に立っていた女性騎士に声を掛ける。

「メイドに案内させるから、レジー嬢を部屋まで運んでくれないか? 男性に抱きかかえさせるわけにもいかないから」
「承知いたしました」

 普段、私の部屋の前で護衛任務についてくれている女性騎士は一礼すると、レジーさんに近付いて彼女の腕をとった。

「失礼いたします」
「嫌よ、やめてよ!」
「申し訳ございませんが命令ですので」

 レジーさんは泣きなら嫌だと訴えた。
 でも、女性騎士二人に引きずられて連れて行かれた。

 ……可哀想だと思わなくてもいいわよね?

 レジーさんの姿が見えなくなると、突然、お座りしていたメルちゃんが立ち上がり、スカディ様に近付いていった。

 ふさりふさりと尻尾を振っているので、どこか嬉しそうにも見える。

 どうして近付いていくのかしら?

 そう思った時、スカディ様のズボンのポケットが膨らんでいるのが見えた。
 そして、メルちゃんの視線がそちらに向けられていることに気がつく。
 すると、ハヤテくんが私の腕の中で暴れ始めた。

 おろせと言っているみたいだけど、スカディ様に近づいていきそうだから、おろすことはできない。

「スカディ殿下、ポケットの中には何が入ってるんですか?」

 ロード様が尋ねると、スカディ様はポケットの中から小さな袋を取り出して答える。

「ビスケットだよ! 厨房に用意してあったんだ! 小腹が減ったから持ってきたんだよ!」
「その袋は……」

 ロード様が眉根を寄せて呟いた。
 スカディ様が持っている袋は、メルちゃんとハヤテくんのおやつを入れる袋だった。

 メルちゃんはおやつの匂いがするから近づいていったみたいだった。

「まだ食べていないんですよね?」
「食べたよ! 薄味だったけど美味しかった」

 私とロード様は思わず顔を見合わせた。

 犬に人間の味付けと同じものをあげるのは体に良くない。
 だから、メルちゃんたちのおやつは公爵邸の料理人に作ってもらっている。

 味は薄くても、良い素材で作られているから美味しく感じるのはおかしくない。

「スカディ殿下、それは犬のおやつです。あなたがおやつをくれると犬は思っています」
「え? そんな、嘘だろ?」

 スカディ殿下は情けない声を上げて聞き返してきた。

「残念ながら嘘ではありません。体に害はありませんのでご心配なく」

 苦笑して言うと、スカディ様は「そんなぁ!」と叫んで、その場に座り込んだのだった。




もう少しで終わりです。


どうでも良い話ですが、祖父母の家に犬を連れて遊びに行ってたら、犬用のお菓子を用意してくれるようになりました。
で、それをテーブルに置いていたら伯父が食べていたそうです。しかも半分以上。
見た目が普通のクッキーと変わらないですし、気付かなければ私も食べてしまいそうな気がします。
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