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14 後悔先に立たず
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ファーシバル家の騎士たちが野蛮な男性を止めないわけがない。
店内の壁に沿って立っていた騎士が動き、ミンラッド伯爵令息の前に立ちはだかった。
「これ以上近づくことは許されません。お下がりください」
騎士が低い声で言うと、ミンラッド伯爵令息は目を細めて威圧的な口調で言葉を返す。
「おい、俺は伯爵令息だぞ! 伯爵令嬢の騎士が偉そうにすんじゃねぇよ!」
女性を守る男性というのが気に食わないらしい。
これ見よがしに大きなため息を吐いてから口を開く。
「わたしが伯爵令嬢であることは間違っていません。ですが、ここにいる彼らは公爵家の騎士ですよ。護衛対象に近づかせないのが彼らの仕事です」
「公爵家の騎士だろうが騎士は騎士だ。俺よりも下なんだよ!」
「相手が誰であっても、彼らは自分の仕事を遂行しようとするだけです」
どうして、伯爵令嬢のわたしに公爵家の騎士が付いているのか、普通なら疑問に思うはずなのだけど、ミンラッド伯爵令息にはどうでも良いことらしい。
でも、騎士の仕事には納得したのか、ミンラッド伯爵令息はわたしに話しかけてくる。
「俺は嫡男だ。爵位を継げないお前とは違うんだ。話をしてもらえているだけでも有り難いと思え」
「爵位を継げないということは間違っておりませんわね」
話をしてもらえて有り難いとは思わないけれど、頷いてから考える。
伯父様の遺言書通りになるならば、婚約者が誰であっても、わたしは誰かと結婚すれば公爵夫人になれる。
となると、ミンラッド伯爵令息よりも格上になるのよね。
レイ様が次期公爵だと発表され、その婚約者がわたしだと知ったら、彼はなんて言うのかしら。
反応が気になるから、今は調子に乗らせてあげましょうか。
「間違っていない、じゃなくて継げねぇんだよ! 平民と仲良くしている間にどんどん頭も悪くなってんのか」
ミンラッド伯爵令息は肩をすくめて、ため息を吐いた。
彼らのような人は権力に弱い。
自分よりも格上の人間と対峙して、自分のことを無力だと感じる立場になった時、彼はどんな行動を起こすのか。
わたしの考えていることがミンラッド伯爵令息と同じだと言う人もいるかもしれない。
でも、同じことをされないとわからない人間もいる。
「頭が悪いのはどちらか、明日にはわかると思いますわ」
「ふん。明日になってもどうせ一緒だ。男に結婚してもらわなければ、お前ら女は平民なんだ。そのことを覚えておけ」
「言われなくても知っておりますし、覚えておりますとも」
わたしが公爵夫人になった時には、女性の跡継ぎが許されるように法律を変えたい。
伯父様は今の男尊女卑の世の中はおかしいと口にしていた。
操り人形にできるフサス様を婚約者にして、表向きは男性が継ぐことにしておき、実権はわたしに握らせるのが伯父様の考えだった。
婚約者がレイ様に代わっても、伯父様の願いは叶えられる。
レイ様はわたしの考えが悪いことじゃない限り賛同してくれる人だから。
「知っていると言うんならとっとと失せろ! ここはお前たちのような人間が入れる場所じゃねぇんだよ!」
ミンラッド伯爵令息の叫びを聞いて、店員の案内で他の客は店の外に出ていく。
意識を失っている男性をファーシバル公爵家の騎士が店の奥へと運んでいくのが見えた。
大事に至っていなければ良いんだけど、少しでも早くにお医者様に診てもらったほうが良さそうだわ。
「ピノ、ノノン、場所を変えましょう。この店はわたしが入って良い場所ではないそうなの」
外に出て、お医者様の手配をし、また二人と店を変えて話をしようと思って声を掛ける。
「そうね」
「……はい。……ここでは、ゆっくりできませんから」
ピノとノノンが立ち上がると、ミンラッド伯爵令息が命令する。
「偉そうにするなって言ってんだろ。お前らのような女や平民の男には人権なんてねぇんだ! 平民が入っていいカフェなんてねぇんだよ!」
近くにあった木のテーブルにミンラッド伯爵令息は拳で振り下ろした。
テーブルの上のティーカップやソーサーなどが、カチャカチャとうるさい音を立てる。
気にせずに出ていこうとすると、騎士が話しかけてきた。
「ミンラッド伯爵令息のことはいかがされますか?」
「明日以降に抗議はするわ。手を出されない限り、今は何もしないで」
「承知しました」
今は吠えさせておけば良い。
店内にいた人たちは全て出て行ったから、これ以上被害に遭う人もいない。
……と、一つ確かめておきたいことがあった。
「ミンラッド伯爵令息にお聞きしたいのですが、あなたは全ての女性を馬鹿にしておられるようですね」
「そうだよ。女なんて男がいなければ何もできない!」
「どうしてそんな考えに至るのかはわかりませんが、あなたの言い方ですと、王妃陛下のことも公爵夫人のこともそう思っているということで間違いありませんわね?」
「そ、それは……」
さすがに王族や自分よりも爵位が上の男性の家族を馬鹿にする勇気はないらしい。
「あなたのお考えはよくわかりましたわ」
引きつった表情になっているミンラッド伯爵令息を残して、わたしたちは外に出た。
「お代は後日払うとして、お医者様を呼んで頂戴」
わたしが騎士にお願いした時、誰かが呼んでくれていたのか、年配の男性のお医者様が助手らしき男性と共にやって来たのだった。
店内の壁に沿って立っていた騎士が動き、ミンラッド伯爵令息の前に立ちはだかった。
「これ以上近づくことは許されません。お下がりください」
騎士が低い声で言うと、ミンラッド伯爵令息は目を細めて威圧的な口調で言葉を返す。
「おい、俺は伯爵令息だぞ! 伯爵令嬢の騎士が偉そうにすんじゃねぇよ!」
女性を守る男性というのが気に食わないらしい。
これ見よがしに大きなため息を吐いてから口を開く。
「わたしが伯爵令嬢であることは間違っていません。ですが、ここにいる彼らは公爵家の騎士ですよ。護衛対象に近づかせないのが彼らの仕事です」
「公爵家の騎士だろうが騎士は騎士だ。俺よりも下なんだよ!」
「相手が誰であっても、彼らは自分の仕事を遂行しようとするだけです」
どうして、伯爵令嬢のわたしに公爵家の騎士が付いているのか、普通なら疑問に思うはずなのだけど、ミンラッド伯爵令息にはどうでも良いことらしい。
でも、騎士の仕事には納得したのか、ミンラッド伯爵令息はわたしに話しかけてくる。
「俺は嫡男だ。爵位を継げないお前とは違うんだ。話をしてもらえているだけでも有り難いと思え」
「爵位を継げないということは間違っておりませんわね」
話をしてもらえて有り難いとは思わないけれど、頷いてから考える。
伯父様の遺言書通りになるならば、婚約者が誰であっても、わたしは誰かと結婚すれば公爵夫人になれる。
となると、ミンラッド伯爵令息よりも格上になるのよね。
レイ様が次期公爵だと発表され、その婚約者がわたしだと知ったら、彼はなんて言うのかしら。
反応が気になるから、今は調子に乗らせてあげましょうか。
「間違っていない、じゃなくて継げねぇんだよ! 平民と仲良くしている間にどんどん頭も悪くなってんのか」
ミンラッド伯爵令息は肩をすくめて、ため息を吐いた。
彼らのような人は権力に弱い。
自分よりも格上の人間と対峙して、自分のことを無力だと感じる立場になった時、彼はどんな行動を起こすのか。
わたしの考えていることがミンラッド伯爵令息と同じだと言う人もいるかもしれない。
でも、同じことをされないとわからない人間もいる。
「頭が悪いのはどちらか、明日にはわかると思いますわ」
「ふん。明日になってもどうせ一緒だ。男に結婚してもらわなければ、お前ら女は平民なんだ。そのことを覚えておけ」
「言われなくても知っておりますし、覚えておりますとも」
わたしが公爵夫人になった時には、女性の跡継ぎが許されるように法律を変えたい。
伯父様は今の男尊女卑の世の中はおかしいと口にしていた。
操り人形にできるフサス様を婚約者にして、表向きは男性が継ぐことにしておき、実権はわたしに握らせるのが伯父様の考えだった。
婚約者がレイ様に代わっても、伯父様の願いは叶えられる。
レイ様はわたしの考えが悪いことじゃない限り賛同してくれる人だから。
「知っていると言うんならとっとと失せろ! ここはお前たちのような人間が入れる場所じゃねぇんだよ!」
ミンラッド伯爵令息の叫びを聞いて、店員の案内で他の客は店の外に出ていく。
意識を失っている男性をファーシバル公爵家の騎士が店の奥へと運んでいくのが見えた。
大事に至っていなければ良いんだけど、少しでも早くにお医者様に診てもらったほうが良さそうだわ。
「ピノ、ノノン、場所を変えましょう。この店はわたしが入って良い場所ではないそうなの」
外に出て、お医者様の手配をし、また二人と店を変えて話をしようと思って声を掛ける。
「そうね」
「……はい。……ここでは、ゆっくりできませんから」
ピノとノノンが立ち上がると、ミンラッド伯爵令息が命令する。
「偉そうにするなって言ってんだろ。お前らのような女や平民の男には人権なんてねぇんだ! 平民が入っていいカフェなんてねぇんだよ!」
近くにあった木のテーブルにミンラッド伯爵令息は拳で振り下ろした。
テーブルの上のティーカップやソーサーなどが、カチャカチャとうるさい音を立てる。
気にせずに出ていこうとすると、騎士が話しかけてきた。
「ミンラッド伯爵令息のことはいかがされますか?」
「明日以降に抗議はするわ。手を出されない限り、今は何もしないで」
「承知しました」
今は吠えさせておけば良い。
店内にいた人たちは全て出て行ったから、これ以上被害に遭う人もいない。
……と、一つ確かめておきたいことがあった。
「ミンラッド伯爵令息にお聞きしたいのですが、あなたは全ての女性を馬鹿にしておられるようですね」
「そうだよ。女なんて男がいなければ何もできない!」
「どうしてそんな考えに至るのかはわかりませんが、あなたの言い方ですと、王妃陛下のことも公爵夫人のこともそう思っているということで間違いありませんわね?」
「そ、それは……」
さすがに王族や自分よりも爵位が上の男性の家族を馬鹿にする勇気はないらしい。
「あなたのお考えはよくわかりましたわ」
引きつった表情になっているミンラッド伯爵令息を残して、わたしたちは外に出た。
「お代は後日払うとして、お医者様を呼んで頂戴」
わたしが騎士にお願いした時、誰かが呼んでくれていたのか、年配の男性のお医者様が助手らしき男性と共にやって来たのだった。
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