価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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5  独房での再会

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 閉じ込められてから、何日経ったかはわかっていない。
 ただ、食事の回数だけ数えていると、2日くらいは経っていると思われる。

 窓のない独房石造りの独房では、1日の動きは感じられなかった。

 斬られたメイド達が軽症だという事は、食事を持ってきてくれた本邸のメイドが教えてくれた。

 そうすれば私が大人しくなるだろうと、お兄様は騎士に最初から、そう命令していたらしい。

 その罠にまんまと嵌ってしまった。

 でも、命に別状がなかったのならそれでいい。
 あとの事は、お父様に相談しましょう。

 それから、私が仕事に行っていない事を怪しまれない様に、職場には休職願が出されているんだそう。

 そろそろ、お父様が帰ってくるはず。
 お父様はさすがに、お兄様のした事を許さない。

 かといって、お兄様がいなければ、この家を継ぐ人はいない。
 お父様は自分の代でトニア家を終わらせたくないはず…。

 私だってその気持ちは同じだ。

 昔の優しいお兄様に戻ってほしい。

 甘い考えだとは思うけれど、家族だからこそ願っていた事だった。

 何もする事がなく、ベッドの上で寝転んでいると、誰かの足音が近付いてくるのがわかった。
 かなり焦った様子で走っている様に感じられた。

 やって来たのは鍵を持ったお兄様だった。

「くそっ! ルリ、早くでなさい! 父上が帰ってくるようです。閉じ込められていた事は父上には絶対に言わないでください」
「嫌です! お兄様、いいかげんに目を覚ましてください!」
「目を覚ますのはルリ! あなたですよ! ノーラルは私達の事を大事にしてくれています! それなのに…!」
「ノーラル様はそう見せかけているだけです! お兄様! 誰かを好きになる気持ちはわかります! ですが、お兄様は公爵令息なんです! しかも、相手は血が繋がらないとはいえ、お母様です! このままじゃ、お兄様は後を継げません!」

 鍵を開けてもらったけれど、外には出ずに叫んだ。

 なぜなら、お兄様は気付いていない様だけれど、後ろに誰かが付いてきていたから。

 きっとお父様だと思った。

 だから、お父様に現実を見てもらおうと思った。

 お父様にとっても、お兄様はお母様の血を引く大事な子供で簡単に見捨てられなかった。

 お兄様が後を継ぐ頃には、お兄様もノーラル様を忘れて、婚約者と結婚するのだと、私も思っていた。

 婚約者候補はお兄様のノーラル様へのマザコンぶりに引いてしまって、お兄様には婚約者が出来ていないけれど…。 

 いつか、目を覚ますと信じていたけれど、これで、お兄様は終わりだ。

 お父様はノーラル様と離婚される覚悟はしていた。
 だけど、私をいじめていたという証言は私しかしておらず、社交場では一部で私がノーラル様を受け入れられなくて嘘をついていると思われていた。

 今回、ノーラル様は決定的なミスを犯した。
 今までなら、彼女はいじめに関与している証拠を残さなかった。

 だけど、今回はお兄様に遠回しにお願いしているし、ルピノの為であっても、私にここまでしている、お兄様を止めなかったなんておかしい。

 ……ここで、お父様が、ノーラル様と離婚理由がわかった。

 このままでは、ノーラル様にこの家が乗っ取られてしまうからだわ…。

「後継ぎは私しかいません。私が後を継げないなんて事はありえません」

 頭の中で考えを巡らせていると、お兄様は言った。
 そして、言い返そうとした時、誰かが先に、お兄様の言葉に反応した。

「そんな事はないと思うよ」

 お父様の声ではなかった。
 後から付いてきていた足音はお父様のものではなかったみたいだった。

「ど、どうして、あなたがここに!? ノーラルがお相手しているはずじゃ…? それに、いくら、あなたでも勝手にこの屋敷を歩き回るなんて…!」
「ここの当主に許可は取っているよ。もう少しで帰ってくる」

 聞き覚えのある声に、心臓の鼓動が耳の近くにあるみたいに大きく聞こえ始めた。

 正直、期待していなかったわけじゃない。

 だけど、まさかという気持ちが強かった。

「トーリ、彼をおさえていてくれないか? できるだろ?」
「本来なら騎士がする仕事ですよ」
「でも、今、付いてきてくれているのはトーリだけじゃないか。それとも、僕が義理の兄になるかもしれない公爵令息を押さえつけてもいいのかな?」
「……承知しました」

 アズアルド殿下と誰かの話す声が聞こえた。

 お兄様は突然の出来事に言葉を発する事が出来ずにかたまってしまっている。

「ルリ」

 薄暗い鉄格子の向こうに現れたのは、白色の軍服姿の男性だった。

 その声を聞いて…、その顔を見て、誰だかわからないはずがなかった。

 最後に会った時よりも、凛々しくなった同級生。

「アズ……」

 涙がこぼれそうになるのを必死にこらえて、彼の名を呼んだ。


 
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