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39 悪あがきをする者たち①
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部屋の中が静かになると、心配してくれたジェリク様が中に入ってきました。
ショックを受けていたお姉様でしたが、ジェリク様の姿に反応し「ジェリク様! ああ! こんな姿の私を見ないで!」と泣きながら机に額をつけました。
こんな絶望的な状態でも、ジェリク様に見られる自分を気にするなんて、本当にお姉様はジェリク様のことが好きなのですね。
そんなにも好きなのに、どうしてジェリク様のために努力するのではなく、嘘をついて自分の評判を良くしようとしたのでしょうか。
ジェリク様と共に部屋を出ると、入れ替わりに女性が中に入っていき、改めて取り調べを始めたようでした。
「父から義姉の件が片付いたら、王城に来るように言われているんだが、シアリンは疲れただろう? この件は俺のほうから両陛下に報告しておこうか?」
「ありがとうございます。ですが、可能であれば自分の口からお伝えしたいです」
「それは可能だと思うが……」
ジェリク様は心配そうな顔で私を見つめています。お姉様の命がどうなるかわからないということで気遣ってくれているのでしょう。
そして、私も血の繋がりがあるため、無傷でいられるかどうかもわかりません。
「ジェリク様、もし、ご迷惑をかけるようでしたら遠慮なく私と離婚してくださいませ」
「それは絶対にありえない」
ジェリク様は眉尻を下げ、私の両手を優しく握って続けます。
「今までずっと気持ちを押し殺して、君の幸せを願いながら諦めようとしていた。でも、君は俺の妻になってくれた。それなのに、どうして離婚しなければならないんだ?」
「で、ですが、世間を混乱させるような嘘をついた姉を持つ私が妻では、公爵家の名に傷がつくかもしれません」
「傷がついたと言う人間もいるかもしれないが、俺も両親もそんなことは思わない」
ジェリク様は柔らかな表情で私を見つめています。
どうして、ジェリク様はこんなに私に優しくしてくれるのでしょう。
「イチゴを助けたのも、誰かの役に立ちたい。誰かを助けたい。そんな自己満足の精神からです。そんな私でも良いのですか?」
「……どうしてそんなことを聞くんだ?」
「私はジェリク様に優しくしてもらえるような人間ではありません。ただ、予知夢を見ることができる珍しい人間というだけです」
「君にとって俺の思いは突然過ぎて信じられないよな」
悲しそうな顔をするジェリク様の手を握り返して否定します。
「疑っているわけではないのです。ただ、父親譲りの性格の私は、自分で気づかないだけで最低な人間かもしれないと思ったんです」
私は私だと思い続けてきました。
ですが、今回の件で思いました。父も母も姉も普通ではありません。そんな人たちの家族の私も同じような人間なのではと、今回の件で不安になってしまったのです。
「君は最低な人間なんかじゃない。君が予知夢を見られるようになったのは、遺伝ということもあるかもしれないが、環境が酷すぎる君に対して神様が気の毒に思ったからだと思う。性格の悪い人間に、神様側そんな大事な力を与えるわけがない」
「……そうですね」
私が家族のように最低な人間なら、神様は私を助けてくれたりしませんよね。
負のオーラに引っ張られそうになってしまいました。これでは駄目ですね!
「ありがとうございます。ジェリク様の妻として恥ずかしくないよう、これからも精進してまいります」
「こちらこそありがとう」
手と手を取って見つめ合っていた私たちでしたが「ご、ごほん」という咳払いの音が聞こえ、慌てて手を離しました。
顔を向けると、お義父様の側近である若い男性が立っていて、目のやり場に困ると言わんばかりに視線を彷徨わせています。
「失礼しました。お義父様からの連絡ですか?」
笑顔を作って話しかけると、側近は申し訳なさそうに頭を下げます。
「お邪魔をしてしまい申し訳ございません」
「いえ、そんなお気になさらず!」
「邪魔をするくらいなんだから、よっぽどの理由なんだろう?」
私とは違い、ジェリク様が不機嫌そうに尋ねると、側近は深刻な表情になって頷きました。
「閣下からの伝言です。ラーナ嬢の件が片付いたら、王城に来るように伝えていたけれど、家で待つようにとのことです」
「……何かあったのか?」
「会議がかなり長引いているんです」
王妃陛下の案に反対する人なんているのでしょうか。
「どういうことだ?」
同じように思ったジェリク様が尋ねると、側近は重い表情で答えます。
「国王陛下はサブル殿下も被害者なので、罰を与えるべきではないとおっしゃっているそうです。それに対して、王妃陛下たちはそんな甘いことを言ってはいけないと揉めているらしく……」
いくら騙されたとはいえ、サブル殿下の立場ならもっと疑うべきだったはずです。
ここにいても仕方がないため、とりあえず、トレジット公爵邸に戻ろうと、馬車に乗り込もうとした時でした。
「シアリン様! どうか御慈悲をお願いいたします!」
テール男爵令息含むお姉様の悪友たちが、泣きながら駆け寄ってこようとしましたが、護衛騎士に止められたのでした。
ショックを受けていたお姉様でしたが、ジェリク様の姿に反応し「ジェリク様! ああ! こんな姿の私を見ないで!」と泣きながら机に額をつけました。
こんな絶望的な状態でも、ジェリク様に見られる自分を気にするなんて、本当にお姉様はジェリク様のことが好きなのですね。
そんなにも好きなのに、どうしてジェリク様のために努力するのではなく、嘘をついて自分の評判を良くしようとしたのでしょうか。
ジェリク様と共に部屋を出ると、入れ替わりに女性が中に入っていき、改めて取り調べを始めたようでした。
「父から義姉の件が片付いたら、王城に来るように言われているんだが、シアリンは疲れただろう? この件は俺のほうから両陛下に報告しておこうか?」
「ありがとうございます。ですが、可能であれば自分の口からお伝えしたいです」
「それは可能だと思うが……」
ジェリク様は心配そうな顔で私を見つめています。お姉様の命がどうなるかわからないということで気遣ってくれているのでしょう。
そして、私も血の繋がりがあるため、無傷でいられるかどうかもわかりません。
「ジェリク様、もし、ご迷惑をかけるようでしたら遠慮なく私と離婚してくださいませ」
「それは絶対にありえない」
ジェリク様は眉尻を下げ、私の両手を優しく握って続けます。
「今までずっと気持ちを押し殺して、君の幸せを願いながら諦めようとしていた。でも、君は俺の妻になってくれた。それなのに、どうして離婚しなければならないんだ?」
「で、ですが、世間を混乱させるような嘘をついた姉を持つ私が妻では、公爵家の名に傷がつくかもしれません」
「傷がついたと言う人間もいるかもしれないが、俺も両親もそんなことは思わない」
ジェリク様は柔らかな表情で私を見つめています。
どうして、ジェリク様はこんなに私に優しくしてくれるのでしょう。
「イチゴを助けたのも、誰かの役に立ちたい。誰かを助けたい。そんな自己満足の精神からです。そんな私でも良いのですか?」
「……どうしてそんなことを聞くんだ?」
「私はジェリク様に優しくしてもらえるような人間ではありません。ただ、予知夢を見ることができる珍しい人間というだけです」
「君にとって俺の思いは突然過ぎて信じられないよな」
悲しそうな顔をするジェリク様の手を握り返して否定します。
「疑っているわけではないのです。ただ、父親譲りの性格の私は、自分で気づかないだけで最低な人間かもしれないと思ったんです」
私は私だと思い続けてきました。
ですが、今回の件で思いました。父も母も姉も普通ではありません。そんな人たちの家族の私も同じような人間なのではと、今回の件で不安になってしまったのです。
「君は最低な人間なんかじゃない。君が予知夢を見られるようになったのは、遺伝ということもあるかもしれないが、環境が酷すぎる君に対して神様が気の毒に思ったからだと思う。性格の悪い人間に、神様側そんな大事な力を与えるわけがない」
「……そうですね」
私が家族のように最低な人間なら、神様は私を助けてくれたりしませんよね。
負のオーラに引っ張られそうになってしまいました。これでは駄目ですね!
「ありがとうございます。ジェリク様の妻として恥ずかしくないよう、これからも精進してまいります」
「こちらこそありがとう」
手と手を取って見つめ合っていた私たちでしたが「ご、ごほん」という咳払いの音が聞こえ、慌てて手を離しました。
顔を向けると、お義父様の側近である若い男性が立っていて、目のやり場に困ると言わんばかりに視線を彷徨わせています。
「失礼しました。お義父様からの連絡ですか?」
笑顔を作って話しかけると、側近は申し訳なさそうに頭を下げます。
「お邪魔をしてしまい申し訳ございません」
「いえ、そんなお気になさらず!」
「邪魔をするくらいなんだから、よっぽどの理由なんだろう?」
私とは違い、ジェリク様が不機嫌そうに尋ねると、側近は深刻な表情になって頷きました。
「閣下からの伝言です。ラーナ嬢の件が片付いたら、王城に来るように伝えていたけれど、家で待つようにとのことです」
「……何かあったのか?」
「会議がかなり長引いているんです」
王妃陛下の案に反対する人なんているのでしょうか。
「どういうことだ?」
同じように思ったジェリク様が尋ねると、側近は重い表情で答えます。
「国王陛下はサブル殿下も被害者なので、罰を与えるべきではないとおっしゃっているそうです。それに対して、王妃陛下たちはそんな甘いことを言ってはいけないと揉めているらしく……」
いくら騙されたとはいえ、サブル殿下の立場ならもっと疑うべきだったはずです。
ここにいても仕方がないため、とりあえず、トレジット公爵邸に戻ろうと、馬車に乗り込もうとした時でした。
「シアリン様! どうか御慈悲をお願いいたします!」
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