【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ

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44 気が合うとは思えません!

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「おお! やっぱり明るいところで見ても悪くない」

 顔を合わせるなり、アルストロ殿下の開口一番の台詞がそれだった。
 昨日の今日とはいえ、普通はもっと違う言葉から入るもんじゃないんだろうか。

 私達が招かれた場所は、昨日、アルストロ殿下と出会ったガゼボだった。
 昨日とは違って、ふかふかそうなソファやテーブルの上には、美味しそうなお菓子やティーポッドなどが置いてある。
 
 お菓子には騙されない。
 騙されてしまったせいで、今、こんな事になっているんだから。
 あの時、騙されていなかったら、今日はユウヤくん達と一緒に出かけていて、ここに来なくても済んだかもしれない。
 そう思うと、昨日の自分を殴りたい。

 二人がけのソファがテーブルをはさんで向かい合うように置かれていて、片方のソファにアルストロ殿下ともう一人男性が座っていた。
 アルストロ殿下を成長させたらこんな風になるんだろうな、と思わせる顔立ちで、見た目だけだと、アスラン王太子殿下の暗殺未遂のような、あんな間抜けな事をしでかすようには見えない。
 アルストロ殿下のお兄さんという事は、次期国王になる人だから、王太子殿下、になるのか。
 うーん、ここ最近、偉い人に会いすぎて感覚が麻痺してきた。

 私とリアは二人に挨拶をすると、向かいの空いているソファに座るように促されたので、表情にはもちろん出さないけれども、渋々座る。

「二人共、変わった格好をしているんだな」

 王太子殿下であるアンジャベル殿下が、笑顔で話しかけてきた。
 
 変わった格好って、普通に平民の格好ですよ。
 と、私は心の中で答えたのだけど、リアははっきりと口に出す。

「平民はほとんどの女性がこのような格好ですが?」

 左隣に座っている、リアの方を横目で見ると、顔は笑っているけど、怒りをおさえたような笑い方だった。
 でも、リアとの付き合いが短い目の前の二人には、それがわかるはずもない。

「みずぼらしい格好をしているんだな」
「みすぼらしい、ですか」

 リアが膝の上に置いている手を握りしめた。
 怒るのを我慢している。
 普通に言い返したいところだけど、この二人、気分を害そうものなら、どんな無茶なことを言い出すかわからない。
 ここは平常心平常心。
 テーブルの下に隠すようにして、私はリアの手を取って握ると、意味を汲み取ってくれたのか、こっちを向いて頷いてくれた。

「私はこの格好が気に入ってるんです」
「私もです。この服でも高価な方なんですよ? 私は平民出身ですから、もっとみすぼらしい格好をしてました」

 リアの後、私は自分の胸に手を当てて二人に笑いかけて続ける。

「こんな立派な生地をつかった服ではありませんでしたから」
「貧しい思いをしていたんだな」

 王太子殿下が可哀想なものを見る目で私を見てくる。
 
 いやいや。
 この人、城下に出たことないんだろうか。
 出てないとしたって、馬車の中から外を見ることだってあるだろうに。

「貧しかったかどうかはわかりませんが、それでも幸せでした」
「今は幸せじゃないと?」
「それはそうでしょう。私は静かに愛する人と結ばれたいだけなのに、邪魔をしようとする方がいらっしゃるんですから」
 
 リアは不躾な対応をしない代わりに、遠慮をやめたのか、王太子殿下にはっきりと告げた。

 ああ、愛する人だなんて、ユウマくんに聞かせてあげたかった!
 なんにしても、リアが素直になってくれて、お姉さんは嬉しいよ。

「そ、それは僕と結ばれたい、という事か?」

 王太子殿下は照れながら、リアに聞き返した。
 リアの笑顔に苛立ちが浮かぶ。

 気持ちはわからないでもない。
 なぜ、会って間もない人間を急に愛した、と思えるようになるのか知りたい。
 
「申し訳ありませんが違います。ユウマ殿下の話です」

 リアはユウマくんの前じゃなければ素直なんだなあ、としみじみ思ったけど、呑気にしている場合ではなかった。

「あの、今日は何の御用でしたでしょうか?」

 早く帰りたいので、要件を急かしてみる。

「兄上が未来の妻を間近で見たいと仰ったのだ!」

 なぜか、弟が出しゃばってきた。
 リアの顔にはりついた笑みも、そろそろ限界がきそう。

「では、満足いただけましたようですし、失礼させていただきます」

 顔見せしたのだし十分でしょ。
 そう考えて立ち上がると、アンジャベル王太子殿下が引き止めてくる。

「そう焦らなくてもいいだろう! 僕はあの時、リア殿に運命を感じた。だからこそ求婚したんだ。そんな君を危険にさらすような目に合わせたくない」
「どういう意味ですか?」

 リアが目で私に座るよう促してから、王太子殿下に聞き返す。

「次のペア戦で、ラナン達は君たちを殺そうとするだろう」
「なっ!」

 声を上げた私の手を太ももの上で手を重ねて、ぎゅっと握ってくれたあと、リアが首を傾げる。

「どういう事でしょう?」
「ラナンはユウマ殿の事を好いているから、ライバルである君は邪魔者なんだ」
「勝てばいいだけじゃないんですか」
「君が生きてさえいれば、ユウマ殿の気持ちが手に入らないのが嫌なんだそうだ」
「ふざけた事を言ってるんですね」

 さすがのリアも怒りをおさえるのが無理なようで、言葉が荒くなった。

「悪いことは言わない。辞退した方が良い」
「嫌ですよ。辞退したら私はあなたと結婚しなければいけなくなりますし、ユーニはアルストロ殿下と結婚しなければいけないようになりますから」

 王太子殿下の進言にリアは無表情ながらも、きっぱりと答えた。

「リア」
「大丈夫よ。それにラス様もいるし」
「だ、だよね」

 リアが余裕の笑みを浮かべてくれるから、不安な気持ちが少し楽になる。

「そういえば、あの公爵家の令息は強いのか? 見た目からすると、いかにも弱そうだが。彼の事を思うなら」
「王太子殿下」

 リアは冷たい表情で言葉を止めさせると言葉を続けた。

「彼は私が守りますから」

 ん?
 リアがラス様を守る?
 え?
 ラス様って別にそんな弱くないんじゃ。

 リアに声をかけようとしたけれど、優しく握られていた手が、いきなり強く握られたので驚いて止めた。
 そして、それで気が付いた。
 リアはわざと、ラス様が弱いと思わせようとしてる。

「頼もしいな。初めて会ったあの時も、そちらの彼女を守ろうとしていたものな」

 王太子殿下は満足そうに微笑むと、そのままの笑顔で私達にお菓子をすすめてきたのだけど、さすがの私もお菓子の誘惑に負ける気にはならなかった。




 宿に戻るとラス様達は帰ってきていて、私達が城に連れて行かれた事を護衛の二人から聞いたらしく、宿の前で待っていてくれた。
 馬車から降りるなり、ユウヤくんは私の方へ駆け寄ってきた。

「大丈夫だったか?」
「うん。私は何もしてなくて、全部リアが」
「ほんとよ、ユーニがバカ正直に言い出すんじゃないかって思ったあの時は、ちょっとヒヤッとしたわ」
「ご、ごめん」

 私が肩を落とすと、リアは笑みを浮かべて「嘘よ。ごめんごめん」と頭を撫でてくれた。

「中でお話を伺っても?」

 ラス様が少し心配そうな表情で近付いてきたので、私とリアは二人で文句を言う。

「ひどいです! ラス様が私達を連れて行ってくれてれば、こんな目に合わなかったのに!」
「そうですよ! リアが言い返してくれましたけど、この格好がみずぼらしい、って言われたんですよ!」
「も、申し訳ありません」

 二人で詰め寄っていくと、ラス様は苦笑しながら後退る。

「その分、勝てる算段はついたから許してやってくれよ」
「本当に?!」

 ユウマくんの言葉に聞き返すと、ユウマくんは私には答えずに、ラス様の方を見た。

「ええ。今のままですと圧勝ですし、ちょっとは苦戦するフリをしようと思います」

 ラス様の言葉に沈んでいた気持ちが、だいぶ楽になった気がした。
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