愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

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23 兄からの報告

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 ロン様が病院に入院してしまったため、離婚ができないかと思われたけれど、特例が認められて無事に離婚が成立した。

 話をしたこともない人から、ロン様がそこまで悔やんでいるのだから許してあげたほうが良いのではという意見もあった。
 でも、許してしまえば元の木阿弥になりそうなので、たとえ一部の人から冷たいと言われても、私は離婚の道を選んだ。

 問題はこれからだった。

 ミオ様のお言葉に甘えても良いのか、未だに迷っていた。

 公爵令嬢の侍女になることは、大変名誉なことだ。
 でも、世間は私がミオ様の侍女になることを良く思わない人もいるでしょう。

 世の中、今回のように上手くいくとは限らない。
 何が起きても対処できるような心構えをしておかなければならない。
 ミシェルたちも動き出しているようだし、先手を打つべきか、罠に掛けるべきか。

 エイト公爵邸の客室で、これからのことに頭を悩ませていると、フェリックス様が訪ねてきた。

「シェリルはこれからどうするつもりだ」

 ソファに腰掛けるなり、フェリックス様にそう尋ねられた。
 まさに、そのことを考えていたと話すと、フェリックス様は眉根を寄せる。

「元旦那は別として、ミシェルは大人しく諦めるようなタイプじゃないだろ」
「それはわかっています。フェリックス様のことがありますから、何らかの形で関わることになるでしょう」
「……それから、リグマ伯爵夫妻がミシェルと接触したらしいぞ」
「知っています。デイクスにはミシェルの動きを監視するように伝えているので、そちらからも報告がきました」
「何の話をしていたのかはわかったのかよ」

 砕けた口調になったフェリックス様に苦笑してから頷く。

「ええ。お兄様から連絡があったんです」
「……ミシェルがエルンベル家に行ったという報告はあったが、それと関係があるということか」
「はい。お兄様が言うには、両親はわたしの養子縁組を解除することを考えているそうです」
「……俺と結婚させないためか」
「ミシェルやリグマ伯爵夫妻はそういう意図でしょう。私とフェリックス様と結婚するかなんて、まだ決まったわけではないですのに」

 小さく息を吐いてから言うと、フェリックス様は整った顔を歪める。

「お前、まだ逃げられると思ってんのか」
「どういう意味ですか」
「離婚したんだろ」
「……はい」

 彼の何を言おうとしているかはわかった。
 だから頷いて、フェリックス様から視線を逸らす。

 これはまずい。
 いや、まずいわけではない。
 でも、状況的には良くない。
 大体、離婚してすぐにフェリックス様とどうこうなったりしたら、周りの心象は良くない。

「俺のことが嫌いになったわけじゃないんだろ」
「フェリックス様」
「フェリックスでいい。そう呼んでたろ。昔のように話せ。ロータスがシェリルがシド公爵って他人行儀なのが悲しいって泣き真似してたぞ」
「泣き真似なんですね」
「公爵がそんな簡単に泣けるか」

 フェリックス様が目を細めて言った。

「そんなくだらないことでは泣けませんよね」

 苦笑してから、昔と同じような言葉遣いで話しをする。

「フェリックス、気持ちはありがたいけど、今の私はそれどころじゃないわ。それに養子縁組を解消されたら、私はただの平民よ。あなたとの未来なんてない」
「はっきり言うな」
「優しさじゃないの」

 眉根を寄せて言うと、フェリックスは笑う。

「やっとシェリルらしくなってきたな」
「結婚して痛い目に遭ったからよ。夫人になったんだから、しっかりした女性を目指そうと思ってたの。だけど、今は別れてしまったしヤケになっているところもあるわ」

 そこまで言って、誤解されるような発言かもしれないと思って、慌てて補足する。

「ロン様に未練があるとかじゃないから誤解しないで」
「わかってるよ。で、さっきシェリルが言ってた件なんだが」
「どの話?」
「養子縁組を解消されたら……ってやつだよ」
「それがどうしたの?」
「色々な理由で妹がほしいと言ってる奴がいるんだが」

 悪い笑みを浮かべるフェリックスを見て、その相手が誰だかわかった。

「私を利用するつもりなのね」
「路頭に迷わせるより良いだろ」
「とりあえず話だけ聞かせてほしいんだけど」
「……わかった。なら、2日後には向かうと連絡するぞ」
「待って! そんなに簡単に約束できるような相手じゃないでしょう」
「大丈夫だ」

 フェリックスは口元を緩めてそう言うと「また改めて連絡しに来る」と言って部屋を出ていった。



次の話はミシェル視点です。
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