あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ

文字の大きさ
25 / 52
第4章 切らなければならない縁

しおりを挟む
 お母様の形見ならまだしも、選んでくれたシャツで泣かなくても良いような気がするわ。
 それに、そんなに大事なものなら、どうして普段着にしているのかしら。

 そんなことを思っていると、お姉様がソレーヌ様に向かって叫ぶ。

「あなたが悪いのよ! ロビースト様からすぐに離れないから!」
「え? あ、え?」

 ソレーヌ様はお姉様の言葉よりも、ロビースト様に殴られたことのほうがショックのようだった。
 自分の身に何が起こったのかわからない様子で、頬を押さえてロビースト様を見つめている。

「おい、行くぞ。俺たちには関係ない」
「そうですね」

 シード様に促されて、今度こそ屋敷を出ようとする。

「あなたたち、二人共に許せません! どうしてくれるんですか!」

 ロビースト様はお姉様の頬まで叩き、二人を叱責し始めた。

「気にしないでいいから行くぞ」

 シード様が二の足を踏んでいるわたしの腕を掴む。

「わかりました」

 迷う気持ちを振り払って歩き出すと、シード様は掴んでいた手を放してくれた。

 すると、ソレーヌ様が叫ぶ。

「シード様! 助けてください!」
「……は?」

 歩き出したわたしだったけれど、今度はシード様の足が止まった。

 これ以上ここにいて、お姉様が殴られるのは見たくない。
 そう思って、わたしだけ先に出ようと歩を進める。

「待って! セフィリア様! 私を置いていかないで!」

 ソレーヌ様はわたしの所へ駆け寄ってくると、必死に訴えてくる。

「やっぱり、わたしはシード様と結婚したくなりました! だから、ロビースト様はあなたにあげます!」
「わたしは最初からロビースト様なんていらないんです!」

 ソレーヌ様から距離を取りながら叫ぶ。
 すると、ロビースト様の怒りはなぜかわたしに向けられた。

「あなたが大人しくわたくしの妻になろうとしないからいけないんです! 公爵令嬢という肩書がなければ、ただの無価値な女のくせに!」
「あなたにとって無価値だというのなら、わたしはそのほうが嬉しいです! もう、わたしにかまわないで!」
「この!」

 ロビースト様はソレーヌ様を横に押しやり、わたしに向かってきた。
 また殴られるのかと思って身構えたと同時、わたしとロビースト様の間にシード様が割って入った。
 そして、無言でロビースト様のお腹に拳を一発叩き込んだ。

「ぐっ!」

 ロビースト様は両手でお腹をおさえ、苦悶の表情を浮かべて、カーペットの上に膝から崩れ落ちた。

「セフィリアに近づくな」

 シード様は床に寝転がって苦しんでいるロビースト様を見下ろして忠告する。

「セフィリアに何かするなら、次はこんなもんでは済まさねぇぞ」

 ロビースト様は涙目でシード様を見つめている。

 お姉様とソレーヌ様は黙って、その様子を見守っていた。
 シード様はわたしのほうに顔を向ける。

「足を止めさせて悪かった。行くぞ」
「はい」
「待って、シード様! 私も連れて行ってください!」
「連れて行くわけねぇだろ。自分で何とかしろ」

 シード様は冷たく言い放つと、今度こそ、わたしを連れて屋敷の外に出た。

「待って! やっぱり嫌です! ロビースト様の妻になんかなりたくない!」

 ソレーヌ様は追いすがってきたけれど、騎士によって止められる。

「大人しくしなさい!」
「嫌よ! こんな家に住みたくない! 助けて!」
「お前が選んだ道だろ? 俺は忠告しようとしたぞ?」
 
 待たせていた馬車に乗り込む際、シード様はソレーヌ様に言った。

「嫌! 暴力をふるわれるだなんて思っていなかったんです! 助けてください! お願いです!」

 馬車に乗り込んでしまうと、ソレーヌ様の泣き叫ぶ声だけ聞こえてきた。

 お姉様。
 今ならまだ間に合うわ。
 そう思って、開いている馬車の扉から屋敷のほうを見た。

 少し待ったけれど、お姉様は出てくる様子はなかった。
 扉が閉められて馬車が動き出す。

「さようなら、お姉様」

 口にすると、涙が一気に溢れて頬に流れた。

「泣くなよ」

 シード様が隣に座り、自分のほうにわたしの体を引き寄せてきた。
 わたしはシード様の胸に顔を埋めて泣いた。

 最近のお姉様は自分勝手なことばかり言っていた。
 それでもわたしは馬鹿だから、お姉様を信じていたかった。
 昔の優しいお姉様に戻ってくれると思っていた。

 シード様はわたしの背中を撫でながら優しく言う。

「ロビーストをこのままで終わらせるつもりはねぇから。奴を潰せば、フィーナ嬢も目を覚ますかもしれない。だけど、今はもう忘れろ。もう、彼女は姉じゃない」
「はい」

 頷いたものの、涙が止まらなくて、シード様が「しょうがねぇな。笑わせてやる」と言い出した。

 何をするのかと思ったら、シード様は歌を歌い始める。
 わたしも知っている歌のはずなんだけど、あまりにも原曲と違っていて、失礼だとわかっていながらも笑ってしまう。

 すると、シード様の声はもっと大きくなって、御者と一緒に前に乗っていたシード様の付き人らしき人が「何の罰ゲームなんですか!」と叫ぶ声が聞こえた。





どんな歌声か気になる方は下へスクロール願います。













イケメンですが、某国民的アニメのジャイ○ンです。
すごい破壊力があります。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ
恋愛
 セラフィナは、実の親と、妹によって、家から追い出されることとなった。セラフィナがまだ幼い頃、両親は病弱なカタリナのため設備環境が良い王都に移り住んだ。姉のセラフィナは元々両親とともに住んでいた田舎に使用人のマーサの二人きりで暮らすこととなった。お金のない子爵家な上にカタリナのためお金を稼がなくてはならないため、子供二人を王都で暮らすには無理があるとセラフィナだけ残されたのだ。そしてセラフィナが19歳の時、3人が家へ戻ってきた。その理由はカタリナの婚約が上手くいかず王宮にいずらくなったためだ。やっと家族で暮らせると心待ちにしていたセラフィナは帰宅した父に思いがけないことを告げられる。 「お前はジェラール・モンフォール伯爵と結婚することになった。すぐに荷物をまとめるんだ。一週間後には結婚式だ」  困惑するセラフィナに対して、冷酷にも時間は進み続け、結婚生活が始まる。

【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです

コトミ
恋愛
 もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・フォンテーヌ公爵令嬢は、エドガー・オルレアン伯爵令息と婚約している。セリーヌの父であるバラック公爵は後妻イザベルと再婚し、その娘であるローザを迎え入れた。セリーヌにとって、その義妹であるローザは、婚約者であり幼馴染のエドガーを奪おうと画策する存在となっている。 さらに、バラック公爵は病に倒れ寝たきりとなり、セリーヌは一人で公爵家の重責を担うことになった。だが、イザベルとローザは浪費癖があり、次第に公爵家の財政を危うくし、家を自分たちのものにしようと企んでいる。 セリーヌは、一族が代々つないできた誇りと領地を守るため、戦わなければならない状況に立たされていた。異世界ファンタジー魔法の要素もあるかも?

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

処理中です...