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7 諦めきれない婚約者
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「君がアイリス嬢を大事に出来るとは思えないし、僕の花嫁になってほしいというのは、彼女への罰なんだ。アイリス嬢がよっぽど婚約を破棄したくないというなら別だけど、君にどうこう言われる筋合いはない」
マオニール公爵閣下はそこで言葉を区切ったあと、笑顔でロバートに尋ねる。
「それとも、僕と喧嘩でもするつもりかな?」
「い、いえ! そんなつもりは全くありません!」
ロバートは一度そこで言葉を区切り、私を見てから続ける。
「ですが、お願いです! 俺とアイリスはうまくやっているんです! 二人の仲を引き裂かないで下さい!」
「そ、そうよ! そうだわ! あの、マオニール公爵閣下! お姉さまにはロバートがいますわ! ですから、私がお姉さまの代わりに閣下の元に嫁ぎます!」
ロバートの言葉のあとに、ココルが瞳をキラキラさせて言った。
閣下は、ココルに目を向けると、ばっさり切り捨てる。
「君が嫁に来るなんてお断りだ」
「そ、そんな……、どうしてですか」
「君の性格が良いようには思えないから」
「私よりもお姉様の性格が良いと仰るんですか!?」
ココルは叫んだあと、悔しそうな顔をして私を見た。
ココルはどうして自分が閣下の妻になれると思えたのかしら?
謎だわ。
「ああ、もう! ココルの事はどうでもいい! ノマド男爵! いいんですか!? このままではアイリスがマオニール公爵閣下のところにいってしまいます!」
「ロバート、お前は黙っていろ!」
お父様はロバートを一喝すると、揉み手をしながら閣下に近付く。
「私の娘であるアイリスがマオニール公爵家に嫁ぐのであれば、もちろん、結納金はいただけるのでしょうか」
「罰なんだから、本来ならばないと言いたいが、今すぐ、デヴァイス卿とアイリス嬢との婚約を破棄するというのなら、出してもかまわないよ。手切れ金代わりとしてね」
閣下が私の肩に両手を置いて微笑むと、お父様は満面の笑みを浮かべて首を何度も縦に振る。
「空気の読めない娘なんぞで良ければぜひ! ロバート、悪いが君はココルの婚約者になってくれ!」
「そんな! ひどすぎませんか!? 今日の悪戯はアイリスの俺への愛を確かめるためだという話だったじゃないですか!」
――確かめ方なんて、他にもあったし、この場でする必要なんてなかったでしょう。
私が口に出す前に、上機嫌なお父様は言う。
「ロバート! もう黙りなさい! いや、そうだ! 君はアイリスに裏切られたんだから慰謝料を請求したらどうだ?」
「そういう問題じゃないでしょう!」
ロバートが悲痛な声で叫んだ。
お父さまは娘の事より、お金の方が大事みたい。
ココルも自分の事しか考えてないし、お母様は何か言いたげに、私のほうをチラチラと見ている。
でも、それは私が心配だからじゃない。
家計管理は自分の仕事なのに、すべて私に押し付けていたから、それを今更やれと言われても困るだけなんでしょう。
「君の家族を悪く言うのは申し訳ないけど、よくこんな家族と長年暮らせてきたものだな」
「一緒に暮らすしかなかったんです。結婚以外に親の同意なして自立できるのが18歳からですので」
私達の住んでいる国、ミセイティックは15歳から婚姻や飲酒が可能ではあるけれど、18歳までは未成年として扱われるため、親の許可が必要になるものが多い。
だから、働きたくても親の許可がいるし、一人暮らしをしようとして家の賃貸契約を結ぼうとしても親の許可が必要になる。
だから、家を出たくても出れなかった。
「そうか」
閣下は私の言葉に小さく頷いてから、耳元で優しく囁いてくれる。
「今までよく頑張ったね」
「……っ」
不覚にも涙が出そうになって、何とかこらえる。
家族の前では絶対に泣きたくなかった。
ただ、気持ちをわかってくださった、お礼だけは伝えておく。
「ありがとうございます」
「どういたしまして? あ、そうだ、アイリス嬢、君の婚約者の彼は、デヴァイス男爵家だよね?」
「はい。ロバート・デヴァイス男爵令息です」
「わかった。ありがとう」
閣下は私に微笑んだあと、くだらない言い合いを続けている、お父様とロバートに話しかける。
「僕とアイリス嬢との結婚を、ノマド男爵は認めてくれるんだね?」
「も、もちろんです!」
「で、デヴァイス卿はそれを認めないと?」
「当たり前じゃないですか! 俺は彼女を愛していたんです!」
「はい?」
ロバートの愛してた宣言には、驚いてしまい、思わず声が出てしまった。
ロバートはそんな私を見て言う。
「アイリス、結婚する時にちゃんと伝えようと思ってたんだ。俺はずっと前から君を愛しているんだよ!」
「ふざけないで。愛している人間に対して、よくもあんな嘘がつけたものね」
「だから、言っているだろ!? 君の気持ちを確かめたかったんだ!」
「ならわかったでしょう! 私はあなたの気持ちにはこたえられない! 私の家族と一緒になってあんな訳のわからない事をしなければ、こんな事にならなかったのに、自分のまいた種じゃないの。気持ちの確かめ方なんて、もっと他にあったでしょう!?」
感情的になり、ロバートを睨みつけると、彼は情けない顔をして口を閉ざした。
「僕や周囲にいた人間は君がアイリス嬢に婚約破棄を宣言した場面を見た。そして、アイリス嬢も婚約破棄をされたと認識し、彼女の父親もそれを認め、僕との結婚を促してくれている。もちろん、アイリス嬢の僕に対する不敬への罰という意味合いもあるから、アイリス嬢を僕の妻にする」
閣下は冷たい笑みを浮かべて続ける。
「デヴァイスくん、君は俺を敵にまわしたいのか?」
何かのスイッチが入ったかのように、閣下の一人称が僕から、俺に変わった。
「も……、申し訳ございませんでした」
さすがに公爵家に喧嘩を売る勇気はなかったようで、ロバートは小さな声で謝り、深々と頭を下げた。
「アイリス嬢、君は彼を許してあげる? 君が許すというなら僕も許そう」
「婚約破棄を認めてくれるというのなら許します」
「だそうだよ、デヴァイス卿?」
「――っ! あ、あの、アイリスと二人で話をさせていただけませんか?」
ロバートは震える声で閣下に尋ねたあと、私に視線を移した。
――どうしてロバートはすんなり私の婚約破棄を受け入れてくれないの?
私を愛してただなんて、どうせ、今のこの雰囲気に酔っているだけでしょう。
もしかして、他の貴族には婚約者に捨てられた、もしくは婚約者を奪われた可哀想な男性として見てもらいたいということ?
「……思い通りになんかさせないわ」
誰にも聞こえないように小さく呟いた時だった。
「嫌だよ。どうして、そんな事をさせてあげないといけないんだ? 彼女は僕の婚約者になると決まったんだ。他の男と二人で話をさせるつもりはない」
私よりも頭一つ分背の高い、閣下の顔を見上げると、呆れた表情でロバートを見ていた。
マオニール公爵閣下はそこで言葉を区切ったあと、笑顔でロバートに尋ねる。
「それとも、僕と喧嘩でもするつもりかな?」
「い、いえ! そんなつもりは全くありません!」
ロバートは一度そこで言葉を区切り、私を見てから続ける。
「ですが、お願いです! 俺とアイリスはうまくやっているんです! 二人の仲を引き裂かないで下さい!」
「そ、そうよ! そうだわ! あの、マオニール公爵閣下! お姉さまにはロバートがいますわ! ですから、私がお姉さまの代わりに閣下の元に嫁ぎます!」
ロバートの言葉のあとに、ココルが瞳をキラキラさせて言った。
閣下は、ココルに目を向けると、ばっさり切り捨てる。
「君が嫁に来るなんてお断りだ」
「そ、そんな……、どうしてですか」
「君の性格が良いようには思えないから」
「私よりもお姉様の性格が良いと仰るんですか!?」
ココルは叫んだあと、悔しそうな顔をして私を見た。
ココルはどうして自分が閣下の妻になれると思えたのかしら?
謎だわ。
「ああ、もう! ココルの事はどうでもいい! ノマド男爵! いいんですか!? このままではアイリスがマオニール公爵閣下のところにいってしまいます!」
「ロバート、お前は黙っていろ!」
お父様はロバートを一喝すると、揉み手をしながら閣下に近付く。
「私の娘であるアイリスがマオニール公爵家に嫁ぐのであれば、もちろん、結納金はいただけるのでしょうか」
「罰なんだから、本来ならばないと言いたいが、今すぐ、デヴァイス卿とアイリス嬢との婚約を破棄するというのなら、出してもかまわないよ。手切れ金代わりとしてね」
閣下が私の肩に両手を置いて微笑むと、お父様は満面の笑みを浮かべて首を何度も縦に振る。
「空気の読めない娘なんぞで良ければぜひ! ロバート、悪いが君はココルの婚約者になってくれ!」
「そんな! ひどすぎませんか!? 今日の悪戯はアイリスの俺への愛を確かめるためだという話だったじゃないですか!」
――確かめ方なんて、他にもあったし、この場でする必要なんてなかったでしょう。
私が口に出す前に、上機嫌なお父様は言う。
「ロバート! もう黙りなさい! いや、そうだ! 君はアイリスに裏切られたんだから慰謝料を請求したらどうだ?」
「そういう問題じゃないでしょう!」
ロバートが悲痛な声で叫んだ。
お父さまは娘の事より、お金の方が大事みたい。
ココルも自分の事しか考えてないし、お母様は何か言いたげに、私のほうをチラチラと見ている。
でも、それは私が心配だからじゃない。
家計管理は自分の仕事なのに、すべて私に押し付けていたから、それを今更やれと言われても困るだけなんでしょう。
「君の家族を悪く言うのは申し訳ないけど、よくこんな家族と長年暮らせてきたものだな」
「一緒に暮らすしかなかったんです。結婚以外に親の同意なして自立できるのが18歳からですので」
私達の住んでいる国、ミセイティックは15歳から婚姻や飲酒が可能ではあるけれど、18歳までは未成年として扱われるため、親の許可が必要になるものが多い。
だから、働きたくても親の許可がいるし、一人暮らしをしようとして家の賃貸契約を結ぼうとしても親の許可が必要になる。
だから、家を出たくても出れなかった。
「そうか」
閣下は私の言葉に小さく頷いてから、耳元で優しく囁いてくれる。
「今までよく頑張ったね」
「……っ」
不覚にも涙が出そうになって、何とかこらえる。
家族の前では絶対に泣きたくなかった。
ただ、気持ちをわかってくださった、お礼だけは伝えておく。
「ありがとうございます」
「どういたしまして? あ、そうだ、アイリス嬢、君の婚約者の彼は、デヴァイス男爵家だよね?」
「はい。ロバート・デヴァイス男爵令息です」
「わかった。ありがとう」
閣下は私に微笑んだあと、くだらない言い合いを続けている、お父様とロバートに話しかける。
「僕とアイリス嬢との結婚を、ノマド男爵は認めてくれるんだね?」
「も、もちろんです!」
「で、デヴァイス卿はそれを認めないと?」
「当たり前じゃないですか! 俺は彼女を愛していたんです!」
「はい?」
ロバートの愛してた宣言には、驚いてしまい、思わず声が出てしまった。
ロバートはそんな私を見て言う。
「アイリス、結婚する時にちゃんと伝えようと思ってたんだ。俺はずっと前から君を愛しているんだよ!」
「ふざけないで。愛している人間に対して、よくもあんな嘘がつけたものね」
「だから、言っているだろ!? 君の気持ちを確かめたかったんだ!」
「ならわかったでしょう! 私はあなたの気持ちにはこたえられない! 私の家族と一緒になってあんな訳のわからない事をしなければ、こんな事にならなかったのに、自分のまいた種じゃないの。気持ちの確かめ方なんて、もっと他にあったでしょう!?」
感情的になり、ロバートを睨みつけると、彼は情けない顔をして口を閉ざした。
「僕や周囲にいた人間は君がアイリス嬢に婚約破棄を宣言した場面を見た。そして、アイリス嬢も婚約破棄をされたと認識し、彼女の父親もそれを認め、僕との結婚を促してくれている。もちろん、アイリス嬢の僕に対する不敬への罰という意味合いもあるから、アイリス嬢を僕の妻にする」
閣下は冷たい笑みを浮かべて続ける。
「デヴァイスくん、君は俺を敵にまわしたいのか?」
何かのスイッチが入ったかのように、閣下の一人称が僕から、俺に変わった。
「も……、申し訳ございませんでした」
さすがに公爵家に喧嘩を売る勇気はなかったようで、ロバートは小さな声で謝り、深々と頭を下げた。
「アイリス嬢、君は彼を許してあげる? 君が許すというなら僕も許そう」
「婚約破棄を認めてくれるというのなら許します」
「だそうだよ、デヴァイス卿?」
「――っ! あ、あの、アイリスと二人で話をさせていただけませんか?」
ロバートは震える声で閣下に尋ねたあと、私に視線を移した。
――どうしてロバートはすんなり私の婚約破棄を受け入れてくれないの?
私を愛してただなんて、どうせ、今のこの雰囲気に酔っているだけでしょう。
もしかして、他の貴族には婚約者に捨てられた、もしくは婚約者を奪われた可哀想な男性として見てもらいたいということ?
「……思い通りになんかさせないわ」
誰にも聞こえないように小さく呟いた時だった。
「嫌だよ。どうして、そんな事をさせてあげないといけないんだ? 彼女は僕の婚約者になると決まったんだ。他の男と二人で話をさせるつもりはない」
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