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12 契約成立
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契約書を手に取ってみると、閣下からの希望が、すでに書かれていたので目を通してみる。
内容的には先日のパーティーの時に提示された条件と変わりなかったので、それに対して了承の意を伝えると、閣下が聞いてくる。
「じゃあ、次は君の番だ。アイリスが契約書に記入してほしいと思う条件は何かな?」
「まずは衣食住の保証です。あと、必要な日用品以外にも、本などを買ったりする、お小遣い的なものをいただけると助かります。もちろん、その分は働くつもりです」
「別に働かなくていいよ」
そう伝えると、閣下は首を横に振り、白い紙に綺麗な字で、衣食住はマオニール公爵家が保証し、月に必要な額の小遣いも支給する。
と書いてくれた。
「あとは?」
閣下が促してくれたので、少し考えてから答える。
「そうですね。病気になった時にお医者様に診てもらえると助かるのですが……」
「それはわざわざ書かなくても良くないか? 当たり前の事だろう?」
「そうなのですが、悪戯ではなかったので、先日、お話をしなかったことがありまして」
一度、言葉を区切ったあと、心を落ち着けてから続ける。
「私の両親は、診察代がもったいないと言って、私が寝込んだ時には、寝たら治ると言ってお医者様に診せてくれませんでした」
幼い頃だったから、余計にショックを受けた。
あの時のことを思い出して眉をひそめて続ける。
「使用人が看病してくれたので、その時はなんとかなりましたが、両親は病気がうつったら悪戯が出来なくなると言って、私の顔を見に来ることもありませんでした」
「ひどいな。自分の娘に対する仕打ちじゃない」
閣下は私を気の毒そうな目で見つめてきた。
「今は気にしておりませんから、マオニール公爵閣下も気になさらないでください」
「わかった。話したくないことを無理に話せとは言わないよ」
私の気持ちに気付いてくださったようで、閣下は首を縦に振ってくれた。
その気持ちに感謝する。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。それと、他にはないのかな?」
「今すぐには思い浮かばなかったりすることもあると思いますし、状況も変わっていくと思います。ですので、後から条件を足したり、変更できるようにしていただけると有り難いのですが……」
「かまわないよ」
「我儘ばかり言ってしまい、申し訳ございません」
座ったまま頭を下げると、閣下が言う。
「頭を上げてくれ。君の希望していることは僕だって理解できるから気にしなくていい。あと、契約変更はできるけど、お互いの同意なしでは変更できないという条件をつけるのはどうかな?」
「承知いたしました」
その後は、お互いに譲れるものや譲れないもの、触れられたくない話など、色々な話をした。
「今のところはこれくらいかな?」
「そうですね。あ、あと、わざわざ、お伝えしなくても良いかとは思いますが、寝室は別でよろしいですよね?」
「もちろん。一応、それも書いておこうか。ただ、お客様の家に泊まることがあったりした時には、やむを得ず同じ部屋に泊まることを許してもらえるかな? その場合は、僕はソファーで寝るから」
「それはいけません! その場合は私がソファーで寝ます!」
首を何度も横に振ると、閣下は苦笑する。
「女性をソファーで寝かせるわけにはいかないだろう」
「いいえ! 公爵閣下をソファーで眠らせるわけにはいきません!」
「その時の君は公爵夫人だろ?」
「それはそれです! お飾りなのですから、人前以外では、男爵令嬢扱いでかまいません!」
「それも駄目だよ。ふとした時に日頃のクセが出てしまう可能性があるから」
「あまり、へりくだりすぎても駄目だということですね……」
――私、ちゃんと任務をこなせるかしら。
心配になって、契約書を見直していると、閣下は微笑む。
「心配しなくても大丈夫だよ。すぐに慣れると思う。僕もフォローする」
「そう思うことにします。ありがとうございます」
あの家族と過ごしてこれたんだもの。
多少の苦労なら乗り越えられるはず。
ポジティブに考えることにした。
「とりあえず、ここまでで、お互いにサインをしようか」
「はい。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
閣下は私を見て頷くと、契約書に自分の名前を記入してくれたので、私も彼の名前の下に自分の名前を記入した。
ちょうどその時、夕食の準備が出来たと知らせが入ったので、一緒にダイニングルームに向かうことになった。
一緒に歩きながら、ふと、気になったことを閣下に聞いてみる。
「あの、マオニール公爵閣下、質問をしてもよろしいですか?」
「いいよ」
「お見合いが駄目になってしまった公爵令嬢はどうされているのでしょうか?」
私の質問を聞いた閣下は困った顔をした。
聞いてはいけなかったのかしら?
「どうもこうもないというか、まだ、僕を諦めていないという噂だよ。でも、噂は噂だし、今更何も言ってこないと思う。気になるなら調べるけど」
「……出来れば、お願いできますでしょうか」
公爵令嬢だというなら、社交場で顔を合わせそうだし、どんな人か知っておくべきなのは当たり前のことだわ。
マナーなどに関しても勉強しないと、失礼な態度を取ってはいけないし。
それに、公爵令嬢か閣下のことを今はどう思っているか、知っておいたほうがいいと思った。
内容的には先日のパーティーの時に提示された条件と変わりなかったので、それに対して了承の意を伝えると、閣下が聞いてくる。
「じゃあ、次は君の番だ。アイリスが契約書に記入してほしいと思う条件は何かな?」
「まずは衣食住の保証です。あと、必要な日用品以外にも、本などを買ったりする、お小遣い的なものをいただけると助かります。もちろん、その分は働くつもりです」
「別に働かなくていいよ」
そう伝えると、閣下は首を横に振り、白い紙に綺麗な字で、衣食住はマオニール公爵家が保証し、月に必要な額の小遣いも支給する。
と書いてくれた。
「あとは?」
閣下が促してくれたので、少し考えてから答える。
「そうですね。病気になった時にお医者様に診てもらえると助かるのですが……」
「それはわざわざ書かなくても良くないか? 当たり前の事だろう?」
「そうなのですが、悪戯ではなかったので、先日、お話をしなかったことがありまして」
一度、言葉を区切ったあと、心を落ち着けてから続ける。
「私の両親は、診察代がもったいないと言って、私が寝込んだ時には、寝たら治ると言ってお医者様に診せてくれませんでした」
幼い頃だったから、余計にショックを受けた。
あの時のことを思い出して眉をひそめて続ける。
「使用人が看病してくれたので、その時はなんとかなりましたが、両親は病気がうつったら悪戯が出来なくなると言って、私の顔を見に来ることもありませんでした」
「ひどいな。自分の娘に対する仕打ちじゃない」
閣下は私を気の毒そうな目で見つめてきた。
「今は気にしておりませんから、マオニール公爵閣下も気になさらないでください」
「わかった。話したくないことを無理に話せとは言わないよ」
私の気持ちに気付いてくださったようで、閣下は首を縦に振ってくれた。
その気持ちに感謝する。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。それと、他にはないのかな?」
「今すぐには思い浮かばなかったりすることもあると思いますし、状況も変わっていくと思います。ですので、後から条件を足したり、変更できるようにしていただけると有り難いのですが……」
「かまわないよ」
「我儘ばかり言ってしまい、申し訳ございません」
座ったまま頭を下げると、閣下が言う。
「頭を上げてくれ。君の希望していることは僕だって理解できるから気にしなくていい。あと、契約変更はできるけど、お互いの同意なしでは変更できないという条件をつけるのはどうかな?」
「承知いたしました」
その後は、お互いに譲れるものや譲れないもの、触れられたくない話など、色々な話をした。
「今のところはこれくらいかな?」
「そうですね。あ、あと、わざわざ、お伝えしなくても良いかとは思いますが、寝室は別でよろしいですよね?」
「もちろん。一応、それも書いておこうか。ただ、お客様の家に泊まることがあったりした時には、やむを得ず同じ部屋に泊まることを許してもらえるかな? その場合は、僕はソファーで寝るから」
「それはいけません! その場合は私がソファーで寝ます!」
首を何度も横に振ると、閣下は苦笑する。
「女性をソファーで寝かせるわけにはいかないだろう」
「いいえ! 公爵閣下をソファーで眠らせるわけにはいきません!」
「その時の君は公爵夫人だろ?」
「それはそれです! お飾りなのですから、人前以外では、男爵令嬢扱いでかまいません!」
「それも駄目だよ。ふとした時に日頃のクセが出てしまう可能性があるから」
「あまり、へりくだりすぎても駄目だということですね……」
――私、ちゃんと任務をこなせるかしら。
心配になって、契約書を見直していると、閣下は微笑む。
「心配しなくても大丈夫だよ。すぐに慣れると思う。僕もフォローする」
「そう思うことにします。ありがとうございます」
あの家族と過ごしてこれたんだもの。
多少の苦労なら乗り越えられるはず。
ポジティブに考えることにした。
「とりあえず、ここまでで、お互いにサインをしようか」
「はい。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
閣下は私を見て頷くと、契約書に自分の名前を記入してくれたので、私も彼の名前の下に自分の名前を記入した。
ちょうどその時、夕食の準備が出来たと知らせが入ったので、一緒にダイニングルームに向かうことになった。
一緒に歩きながら、ふと、気になったことを閣下に聞いてみる。
「あの、マオニール公爵閣下、質問をしてもよろしいですか?」
「いいよ」
「お見合いが駄目になってしまった公爵令嬢はどうされているのでしょうか?」
私の質問を聞いた閣下は困った顔をした。
聞いてはいけなかったのかしら?
「どうもこうもないというか、まだ、僕を諦めていないという噂だよ。でも、噂は噂だし、今更何も言ってこないと思う。気になるなら調べるけど」
「……出来れば、お願いできますでしょうか」
公爵令嬢だというなら、社交場で顔を合わせそうだし、どんな人か知っておくべきなのは当たり前のことだわ。
マナーなどに関しても勉強しないと、失礼な態度を取ってはいけないし。
それに、公爵令嬢か閣下のことを今はどう思っているか、知っておいたほうがいいと思った。
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