ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ

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3  入れてあげる必要はないでしょう

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「兄はどうしてこんなに酷い内容の手紙を残していったのでしょうか」
「馬鹿で性格が悪いからではないでしょうか」
「……そうですね。そうとしか考えられないですよね」

 ランドリュー様は大きな体をぶるぶると震わせて俯いた。

 何かに似ていると思ったら、昔飼っていた大型犬に震え方がそっくりだわ!

 人間が犬みたいな震え方をしているのもどうかと思うけれど、人を犬扱いしてしまうわたくしも失礼ね。

「申し訳ございません」
「……何がでしょうか」

 わたくしが突然謝ったからか、ランドリュー様は不思議そうな顔をした。

「いえ。わたくし、想像力が豊かなものでして、頭の中で色々と考えてしまうんです」
「そうなんですね。僕に何か感じたものがあったのでしょうか」
 
 曇りのない綺麗な瞳で見てくるものだから、言葉に詰まる。

 昔飼っていた大型犬に似ているとは言えないわ。
 あの子はとても賢くて優しい良い子だった。

 わたくしからすれば褒めているつもりでも、犬と一緒にするなんてランドリュー様がどう思うかはわからないわ。

 今は話題を変えることにしましょう。

「ところで、ケサス様からランドリュー様宛にも手紙が残されていたようですが、どのようなことが書かれていたのでしょうか。差し支えない範囲でかまいませんので教えていただけますと、大変助かりますわ」
「あ、はい。かまいませんよ。あ、兄からの手紙を僕も今持っていますので、よろしければ読んでみてください」

 受け取って目を通してみると、ケサス様からランドリュー様への手紙の内容は、昔から密かに恋仲だった子爵令嬢の結婚が迫っており、二人で駆け落ちするということ。
 家督は弟のランドリュー様に譲るということ。
 わたくしとの婚約を破棄するので、わたくしが訪ねてきたら追い返せと書かれていた。

 わたくしに宛てた手紙よりかは、はまだマシではある。

 でも、追い返せという内容には腹が立つわ。
 こんなことなら、昨日、こちらが追い返してやるべきだったわね。

 それにしても、ランドリュー様にしてみれば、いきなり兄が出ていっただけでなく、家督を継げなんて言われたら困惑するわよね。

「ランドリュー様、ケサス様はいきなり、家督を継げと言っているのですか。それとも前々から何か言っていたのでしょうか」
「いきなりなんです。ですから、手紙を読んだ時には驚きました」

 頷いたランドリュー様は大きなため息を吐いて続ける。

「それから、ファリン嬢との婚約を破棄すると、そこには書かれていますが、それでも良いでしょうか」
「婚約破棄は素直に受け止めますが、問題がありますの」
 
 家に帰ってくるなと言われたから、このままだとピンチだわ。
 ケサス様はお父様と打ち合わせでもしていたのかしら。

 わたくしを追い出す口実を作るために、ここに呼び出したのだとしたら、その案にのる実家も最低だわ。

 実家には本当に呪いでもかけてやろうかしら。

 今のわたくしの感情なら、とても効果の強い呪いを生み出せそうな気がする。
 でも、人の不幸を願うと、自分に返ってくると聞いたこともあるし、自分でやり返したほうが良いのかしら。

 考えている間に、ランドリュー様が話し始める。

「兄上のことですから、すぐに音を上げて帰ってくると思いますがどうしますか? 婚約破棄を受け入れて家に戻るのであれば、慰謝料の話をしたいと思うのですが」
「申し訳ございません。わたくし、家から追い出されまして、帰る家がないのです」
「えっ!?」

 ランドリュー様が大きな目をより見開いて声を上げた。

 それは驚くわよね。 
 とりあえず、朝の出来事も含め、話を聞いてもらいましょうか。

 ここでも出ていけといわれるのなら、慰謝料は今すぐもらわないと生きていけないわ。

「……実はわたくしとわたくしの家族はとても仲が悪いのです」

 ランドリュー様にモフルー家の事情を話すと、今にも泣き出しそうな顔になった。

「そんなことを言う人がいるんですね」
「性格の良くない人ばかり集まりましたの。わたくしも含めてですが」
「……ファリン嬢も性格が悪いのですか?」

 ぷるぷると震えるランドリュー様を見ていると、伯爵家が心配になってきた。

 飼ってた犬も、病院だと言うと震えていたのよね。
 ……そういえば、継母たちが来てから、あの子の体調が悪くなったんだわ。

 ――まさか、そんなことはないわよね。

「ファリン嬢、どうかしましたか?」
「失礼しました。自分に嫌なことをしてくる相手にはやり返しますが、特に嫌がらせなどされなければ無害ですわ」
「無害」
「はい。無害です。……たぶん」
「……たぶん?」
「失礼しました。きっと」
「……きっと?」

 わたくしとランドリュー様はしばしの間、見つめ合い、先に目を逸らしたのはランドリュー様だった。

「で、では、あの、良かったら、この家に住んでください。兄さんが帰ってきたら、また考えましょう」
「自分から出ていったのですから、屋敷に入れてあげる必要はないでしょう」
「え?」

 ランドリュー様は信じられないものを見るような目で、わたくしを見つめた。

「だって、そうでしょう。恋人と逃げた上に、ランドリュー様に家督を押し付けたのですわよね」
「そ、そうなんです! 僕は伯爵になれる器じゃないのに! 押し付けるなんて酷くないですか!」

 頭を抱えたランドリュー様を慰める。

「酷いどころか最低な兄ですわね。ですが、ランドリュー様、誰しも家督を継ぐ時は不安になるものではないでしょうか」
「物心ついた時から気構えができている人は違うと思います」
「ケサス様は昔からいい加減な方でしたし、ランドリュー様だって覚悟をしていたのではないのですか?」
「まさか、家督を放棄するほど馬鹿だとは思っていなかったんです! ですから、気構えなんて一切なかったんです!」

 ランドリュー様は自棄になったかのように、お酒……ではなく紅茶をあおった。

 
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