ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
6 / 14

4  駆除しなければならない

しおりを挟む
 ランドリュー様は悪い人ではなさそうだけど、メンタル面が心配だわ。
 もっと、自分に自信を持てるようにならないと伯爵は務まらない。
 この様子じゃ領民だって不安になってしまうわ。

「お兄様が馬鹿だと気付けて良かったではありませんか。あなたが伯爵となり、より良い伯爵領に変えていけば良いのです」
「……そんなものでしょうか」
「そんなものですわ」

 頷くと、ランドリュー様も素直に頷く。

「そうだと思うことにします」
「最初から諦めていてはいけませんわ」
「頑張ります!」
 
 ランドリュー様は右手に拳を作って宣言したのはいいものの、すぐにしょぼんと肩を落とす。

「書類仕事は今まで僕がやっていたので良いんですが、社交場にはいつも兄に出席してもらっていたんです。僕にはパートナーがいませんし、これからどうしたら良いのか」
「よろしければ、わたくしが行きましょうか」
「良いんですか?」
「ええ。ただ、ケサス様の婚約者ではなくなったわたくしが張り切って出ても良いのかというところが問題ではありますが」

 ランドリュー様は少し考えてから提案してくる。

「では、兄との婚約は破棄されたのですし、僕と婚約するというのはどうでしょうか」
「ランドリュー様と?」
「は、はい。あの、迷惑でしょうか」
「いいえ。願ってもないことですが、本当によろしいんですの?」
「はい。ファリン嬢と話をしていると、なぜか勇気と自信が湧いてくるんです!」

 拳を握りしめて訴えてくるランドリュー様に苦笑すると、また、しゅんと肩を落とす。

「興奮してしまって申し訳ございません」
「いいえ。わたくしとしましては、ランドリュー様の性格はとても好ましいものですわ。ですが、伯爵という立場を考えますと心配です。婚約者として口を出すこともあるかと思いますが、それはお許しいただけますか?」
「それはもちろんです。あ、でも、その、お前みたいな役立たずは死ねとか、そういう言葉は控えてもらえると助かります」
「ケサス様がそんなことを言っていたんですか?」

 尋ねると、ランドリュー様は無言で頷いた。
 ケサス様に罵詈雑言を浴びせられて、自分に自信がなくなったパターンというところかしら。
 それにしても、誰かに向かって死ねだなんて口に出して言ってはいけないことよ。

 ……ああ、でも、大切な人の仇とかなら言っても良いのかしら。

「兄からはずっと、その態度や図体が鬱陶しいと言われ続けてきました」
「言われ続けたから、自分に自信がなくなってしまったのですね」
「……学園に通っていた時はここまで酷くなかったんですが、卒業してからはほとんど兄と一緒にいましたので、そのせいかもしれません」
「原因はケサス様ですわね」

 まったく、迷惑な人だわ。

「どうしましょうか。ファリン嬢が良いのであれば、婚約破棄の書類と新たな婚約の書類を用意しますが」
「よろしいんですの?」
「かまいませんよ」
「あの、わたくしが相手でという意味なのですが」
「はい! お兄様よりも僕の話を聞いてくれる若い女性はファリン嬢しかいないと思います」
「世の中の女性はそんなに馬鹿ばかりではありませんわよ」

 今まで、ケサス様とランドリュー様との間にどんなことが起きていたのかはわからない。

 でも、ランドリュー様は根が良い人でしょうから、自信をつければ多くの人から支持されるでしょう。

 ランドリュー様が立派な伯爵になっている姿をケサス様に見せてさしあげましょう!

「これは失礼いたしました。僕の今までの婚約者がそうでしたので」
「ということは、今回の駆け落ち相手もランドリュー様と関係があったのですか?」
「彼女は僕が子供の頃の婚約者です。僕と婚約を解消したあと、違う人の婚約者になっていました。結局は兄が奪ったようですが」

 そこまで言うと、ランドリュー様が眉尻を下げた。

「どうかしましたか?」
「……子爵令嬢の婚約者から慰謝料を払えと言われるかもしれません」
「……可能性はありますわね。ところで子爵令嬢のお相手はどなたですの? と、いいますか、子爵令嬢がどなたかもわたくしは知らないのですが」
「失礼しました。手紙には子爵令嬢としか書いてありませんでしたね」
「ランドリュー様は知ることができたのですか?」
「……実は、ファリン嬢が来る前にシイオ子爵夫妻がやって来たんです」

 シイオ子爵家といえば、一人娘がとても美人だということで有名だわ。

 たしか、わたくしよりも一つ年上の20歳だったかしら。

「なんとおっしゃっていたのですか?」
「二人を捜し出して家に連れ戻すと言っていました」
「捜し出すのはかまいませんが、子爵令嬢だけにしましょう」
「え? あ、それはどういう?」
「いえ、何でもございません」

 危なかった。
 ケサス様のような置物が家にあっても邪魔なだけなので捜す必要はない、と言いそうになってしまったわ。

「ファリン嬢もお疲れですよね。失礼しました。まずは部屋に案内させましょう。休憩後にゆっくり話しませんか。話したいことがたくさんありますから」
「お心遣いに感謝いたします」

 メイドにわたくしの部屋に案内してもらって一人になると、やらなければならないことを考えた。

 ケサス様が子爵家の人たちに見つかって、家に帰りたいと言い出しても、絶対に入れてやるものですか。

 ランドリュー様に悪影響を与える害虫は駆除しなければならない。
 ちょうど、ミノスラード伯爵家の庭園は手入れされていないから荒れ放題で、木々の中に入れば視界が悪い。
 侵入できないように、罠を作るのも素敵ね。

 その日の夜、作成してもらった書類にサインをして、わたくしはケサス様からの婚約破棄を受け入れ、正式にランドリュー様の婚約者となった。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

私よりも姉を好きになった婚約者

神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」 「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」 「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」 「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」 このバカップルは何を言っているの?

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

「お姉様の味方なんて誰もいないのよ」とよく言われますが、どうやらそうでもなさそうです

越智屋ノマ
恋愛
王太子ダンテに盛大な誕生日の席で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢イヴ。 彼の隣には、妹ラーラの姿――。 幼い頃から家族に疎まれながらも、王太子妃となるべく努力してきたイヴにとって、それは想定外の屈辱だった。 だがその瞬間、国王クラディウスが立ち上がる。 「ならば仕方あるまい。婚約破棄を認めよう。そして――」 その一声が、ダンテのすべてをひっくり返す。 ※ふんわり設定。ハッピーエンドです。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

「出て行け!」と言われたのですから、本当に出て行ってあげます!

睡蓮
恋愛
アレス第一王子はイザベラとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してイザベラが言葉を返したところ、アレスは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。イザベラがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでアレスはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にイザベラは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるアレスであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。

処理中です...