ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ

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6  何か言ってほしいわ

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 メイドに着替えを手伝ってもらったあとに、窓から外を見ると、執事が門に向かって走っていく姿が見えた。
 そのまま眺めていると、執事は森のようになっている庭にケサス様を誘導していた。

 段取りとしては、執事が中庭にある開けた場所にケサス様を連れて行き、その場で待ってもらうようにお願いし、執事だけ先に屋敷に戻る。
 執事は罠がどこにあるか知っているから、無事に庭から出ることができるはずだ。
 
 もし、ケサス様が待ちきれず動き出した時には――

 考えながら窓の外を見ていたからか、メイドが心配そうに話しかけてくる。

「あの、ファリン様、体調が優れないのでしょうか」
「どうしてそう思うの?」
「いえ、あの、いつもと表情が違う気がしまして」
「心配してくれてありがとう。ケサス様が戻ってくるだろうとわかってはいたんだけど、その時になると、やっぱり不快に思ってしまうのよね」

 普通ならば、この屋敷に帰って来ることは人として恥ずかしく思ってできないはずだわ。

 ケサス様は人じゃないのかしら。

 身支度を終えたので、メイドたちと一緒に部屋を出ると、廊下にはランドリュー様が立っていた。

「どうかされましたか?」
「あ……、いえ。兄の所に行くなら一緒に行こうかと思いまして」

 答えたランドリュー様が、ぱちぱちと目を瞬かせているので尋ねる。

「何か問題でもありましたか?」
「いえ。そのドレスはとてもお似合いなんですが、喪に服す時のドレスに似ているなと思ったんです」
「まあ! 気づいてくださりありがとうございます。まさに、そのドレスですわ!」
「え?」
「ケサス様に失礼のないように、着る服を選びましたのよ」

 お葬式など、喪に服す時には黒色で装飾のないドレスを着るのが、この国では一般的だ。
 万が一の時に備えて、今はわざとそのドレスに着替えておいた。

 自分を捨てた男性に対して、優しい対応だと思っているのだけど違うのかしら。

「兄に失礼のないようにという意味がわかりません。といいますか、とどめを刺す気満々じゃないですか」

 手にナックルダスターを装着している、わたくしを見て、困惑しているランドリュー様に笑顔で答える。

「もしかしたら、罠が思った以上の効果を発揮する可能性もありますでしょう? 逆にまったく効果を発していないようでしたら、わたくし自ら出ようと思っているんです」
「……最初から……す気ですね」

 ランドリュー様は物騒な言葉を、わざと濁して言った。

「そんなことはありませんわ! 使用人が間違って罠にかかってしまっては大変ですもの! その辺の加減はしております」
 
 ちなみに小動物では罠が作動しないように工夫している。

「いえ。その手に付けているものを見て言っているんですよ。どれだけ殴るつもりかわかりませんが、もし、兄が……んだりしたらどうするんですか。地中に埋めるとかですか?」

 罠がどんなものか知っているランドリュー様は眉尻を下げて聞いてきた。

 他人が聞いたら驚く発言をしていることに、本人は気づいていないみたいね。
 慣れって怖いものだわ。

 ……彼をこんな風にしたのはわたくしなのだけど。

 真っ白な人って黒く染まりやすいとわかっていたのにやってしまったわ。
 それにこの人、気が弱い割には決断が早いのよね。

 その時、庭のほうから「うわああぁっ!」という叫び声が聞こえてきた。

 どうやら、待ちきれなくて動いたようだわ。

「おい! ……んだ! おいぃぃっ!」

 ケサス様が何やら喚いている。
 ということは生きているということね。

「ランドリュー様、とにかく見に行きましょうか」
「そうですね。でも、どうします? 怪我をしていたら面倒をみないといけないのではないですか?」
「動くなと言ったのに動くほうが悪いのです。簡単な手当てだけして放りだしましょう。二度とこの家に来たくないと思わせてからですが」
「わかりました」

 いや、そこは何か言ってほしいわ。

 ランドリュー様が頷いたことを確認して歩き出した。

 
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