ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
12 / 14

10 紹介いたしますわ

しおりを挟む
 シルバートレイにランちゃんと名付けたことを知ったランドリュー様は、驚きはしたものの、嫌がらずに認めてくれた。
  
「悪い意味で使われるわけじゃないですし、喜んでおきます」
「もちろんですわ。愛着を持つためにランドリュー様のお名前をお借りしたのです」
「それなら良かったです」

 ランドリュー様はわたくしよりも年上だし、この家の当主であるのだから、そろそろ敬語をやめてもらったほうが良いかもしれないわ。

「ランドリュー様、これからはわたくしに敬語を使わないように努力してくださいませ」
「これが癖なんですよ」
「わかっていますわ。でも、人前では良いことではありません」
「……わかった。気を付けま、気をつける」

 努力する前からできないと決めつけてしまうのは良くない。
 前向きに考えてくれることは良いことだわ。

「そういえば、ケサス様はどうしているんですか?」
「ファリンの家に住んでます……るよ」
「住んでまするよ、になってますわよ」
「難しい!」

 ランドリュー様が頭を抱えるので、さすがに可哀想になってきた。

「屋敷内ではいつも通りでかまいませんわ」
「ありがとうございます。慣れるようにします」
 
 こほんと咳払いをしてから、ランドリュー様はわたくしの質問に答える。

「兄さんはファリンの家に厄介になっているようです」
「わたくしの実家は性格が悪いだけでなく、賢くない人たちが集まる場所になってしまいましたのね」

 ため息を吐いた時、執事がやって来て、ランドリュー様に来客を知らせた。

 相手はシイオ子爵令嬢だった。

 女性と二人で会うのは嫌だとランドリュー様が言うので、わたくしも一緒に行くことにした。

 応接室に入ると、シイオ子爵令嬢はカーテシーをした。

 わたくしとランドリュー様は軽く一礼だけして、彼女の向かい側のソファに座った。
 
 必要はないと思いつつも、シルバートレイを持っていたからか、それを見たシイオ子爵令嬢は笑みを引きつらせる。

「あの、どうして、そんな物騒なものを持っていらっしゃるのですか?」
「何かあった時に必要かと思いまして。わたくしのことは気になさらず、お話になって」
「わ、わかりました」

 シイオ子爵令嬢はシルバートレイを気にしつつも、自分の主張をし始める。

「私はケサス様が幸せにしてくれるというので一緒に逃げたんです。それなのに、ケサス様は幸せにしてくれませんでした」
「それは申し訳ございません」

 謝るランドリュー様を肘で突く。

「一緒に逃げたのは本人の意思でしょう。ランドリュー様が謝る必要はありませんわ」
「そ、それはそうかもしれませんね」

 ランドリュー様は頷き、シイオ子爵令嬢に話の続きを促す。

「失礼しました。で、あなたは何が言いたいのでしょうか」
「ケサス様との駆け落ちしたせいで、私には縁談の話が全く来なくなりました。その分の慰謝料をいただきたいのです」
「では、私にも慰謝料をいただけますでしょうか」
「……はい?」

 話に割って入ると、噂通りの美女であるシイオ子爵令嬢は大きな目でわたくしを見つめた。
 わたくしは微笑んで理由を説明する。

「今は違いますが、当時、わたくしとケサス様は婚約者だったのです。そのケサス様と駆け落ちしたあなたは、わたくしからすれば婚約者を奪った女性です。ですので、慰謝料をいただきたいのですが」
「そ、そんな」

 こんなことを言われるだなんて思っていなかったのか、シイオ子爵令嬢は口をパクパクさせた。

「支払うお金がないようでしたら、あなたがランドリュー様に求めている慰謝料から差し引かせていただきますので、今日はもうお帰りになったほうが良いですわね」
「こ、困ります! このままでは私はどこにも嫁にいけません!」
「そんなことをわたくしに言われても困りますわ」

 これ見よがしに大きなため息を吐いてみせた時、とても良い案が思い浮かんだ。

「よろしければ、一人、紹介できそうな人物がいますわ」
「だ、誰か良い人がいるんですか?」

 身を乗り出して聞いてくるシイオ子爵令嬢に、わたくしは笑顔で頷いて答える。

「わたくしの兄を紹介いたしますわ。最近、破局したばかりですの」
「モフルー伯爵令息をですか!?」

 シイオ子爵令嬢は目を輝かせた。
 自分の家は子爵家だから、伯爵家に嫁ぐことは魅力的なんでしょう。
 モフルー家の財政状況を知らなければ、そう思ってもおかしくはない。

 お兄様のほうは子爵家だろうが何だろうが、お金を持っていそうな相手なら、喜んで婚約者になることでしょう。
 それに、表向き、彼女はわたくしからケサス様を奪った相手ですものね。
 シイオ子爵家は元婚約者に慰謝料を払っているから、財政が苦しいのは同じだから、二人が結婚しても状況はあまり変わらないでしょう。

「どうされますか」
「紹介していただきたいです!」
「承知しました」

 にこりと微笑んだわたくしをランドリュー様が呆れた顔をして見つめている。
 
 シイオ子爵令嬢に世間の厳しさを教えてあげようとしているわたくしは、優しいと思ったのだけれど違ったみたいね。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

私よりも姉を好きになった婚約者

神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」 「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」 「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」 「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」 このバカップルは何を言っているの?

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

「お姉様の味方なんて誰もいないのよ」とよく言われますが、どうやらそうでもなさそうです

越智屋ノマ
恋愛
王太子ダンテに盛大な誕生日の席で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢イヴ。 彼の隣には、妹ラーラの姿――。 幼い頃から家族に疎まれながらも、王太子妃となるべく努力してきたイヴにとって、それは想定外の屈辱だった。 だがその瞬間、国王クラディウスが立ち上がる。 「ならば仕方あるまい。婚約破棄を認めよう。そして――」 その一声が、ダンテのすべてをひっくり返す。 ※ふんわり設定。ハッピーエンドです。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

処理中です...