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22 リュカの判断
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「何してるんだよ」
「ごめんなさい。言い争う声が聞こえてきたから、落ち着くのを待ってたの」
「とにかく中に入れよ」
リュカに促されて、恐る恐る執務室の中に足を踏み入れた。
すると、レイクウッドが話しかけてくる。
「リリー様、申し訳ございませんが協力していただけませんか」
「協力?」
私が聞き返すと、レイクウッドは眉尻を下げて懇願してくる。
「妹はいつ死んでしまうかわからないんです。夢を見させてやってもらえませんか」
サービスといってスニッチが教えてくれたのは、レイクウッドの妹が重い病気にかかっていて、このままでは長くは生きられない、ということだった。
「夢を見させるというのは具体的にどんなことなの?」
「僕の妹とリュカを結婚させてあげられるように尽力していただきたいんです」
「無理よ。あなたの気持ちはわからないでもないわ。だけど、あなたが妹さんのために出来ることは、リュカと結婚させることだけなの? 他にもあるでしょう」
厳しい口調で言うと、レイクウッドは悲しげな表情を怒りの表情に変えて叫ぶ。
「そんな訳ないでしょう! 結婚は妹にとって、やりたいことの1つなだけです。それに、リュカの元に嫁げば薬がどんなに高額でも出してもらえるじゃないですか! 薬があれば妹は治るんだ! だから、リュカの妻になれれば!」
必死の形相でレイクウッドが叫んだ。
レイクウッドの妹がかかっている病気は、特効薬が売られてはいるものの、国交を結んでいない国が作ったものだった。
他国を介して手に入れようとすると、税金がかかるため現地価格に比べて莫大な費用がかかる。
引っ越しができれば良いのだろうけれど、国交がないから無理だろうし、妹さんの体力が持たないでしょう。
「リュカ」
「ああ」
私は手に持っていたものをリュカに差し出した。
リュカはそれを受け取ると、そのままレイクウッドに差し出した。
「やるよ。これで、妹が助かるだろう」
「……なんだよ?」
「薬だよ」
「薬?」
「ある人物がくれたんだ。たぶん、裏ルートから手に入れて、現地価格と同等の値段で買ったんだろう」
レイクウッドは困惑しながらも、リュカから小さな麻袋を受け取り、震える手で中身を確認した。
麻袋の中には小瓶が二つ入っていて、その瓶の中には白い錠剤がたくさん入っていた。
封が切られていない小瓶には、他国の文字が書かれている。
王太子妃教育で他の国の言語を勉強していたおかげで文字が読めたので助かった。
瓶にはレイクウッドが欲しかった薬の名前が書かれている。
レイクウッドも文字が読めるようで、目に涙を浮かべてリュカに話しかける。
「ど、どうしてこれを持っているんだ」
「ある人物からもらったって言ったろ」
リュカが答えると、レイクウッドはその場に座り込んだ。
そして、大事そうに薬の入った麻袋を胸に抱えた。
そんな彼を見下ろして、リュカが口を開く。
「薬の飲み方については、お前のほうが詳しいだろう。妹のために調べただろうから」
「ああ。ありがとうリュカ」
レイクウッドは涙を頬に流して、リュカに礼を言った。
「いや。俺も貰い物だから、成分を調べてもらったほうがいいかもしれない」
「いや、大丈夫だ。リュカを信じるよ」
「信じなくていい。人からもらったものだから、保証はできないんだ。何かあったら困る」
お医者様の調べでは、毒ではないということは確かだということだった。
でも、絶対にこの薬だとは言い切れない。
「特効薬は健康な人間が飲んでも害があるわけではないらしいから、毒じゃないかだけ、俺が先に飲んで調べるようにするよ」
「それが偽物だったらどうするんだ」
「その時はその時だよ」
レイクウッドは涙を袖で拭って微笑したあと、真剣な表情で話を続ける。
「これからのことだけど、僕はもう、ここにはいられないよな」
「そうだな。俺をはめようとしたんだ。もう、俺の側近ではいられなくなる。本来ならもっと重い処罰になるだろうが、今回は俺が許す。その代わり、お前は妹に付いていてやれ。別にお前が今の仕事に就いていなければ、金がなくなって没落する訳でもないだろ」
「そうだけど、リュカ、一人で大丈夫なのか? お前を失脚させようと狙ってる人物がいるのは確かなんだぞ」
レイクウッドの言葉にリュカは少しだけ動揺を見せた。
「リュカ」
リュカは一人なんかじゃない。
そう思って、リュカの右手を両手で掴んだ。
リュカが驚いた顔をして私を見つめる。
「大丈夫よ、リュカ。あなたは1人じゃないでしょう?」
「そうだな」
「何度言ったらわかるのよ。あなたがいなくなったら私が一人ぼっちになっちゃうのよ! そんなの困るじゃない! いい加減にしてよ!」
「悪い悪い」
リュカは私の手を握り返して謝ってから、レイクウッドのほうに顔を向ける。
「大丈夫だ。この通り、俺は一人じゃないから」
「……なら良かった」
私たちを見てレイクウッドは頷くと、薬の入った麻袋を大事に抱えて立ち上がり、リュカに尋ねる。
「退職の書類は明日でいいですね?」
「かまわない」
「ありがとうございます。では、今日は失礼させてもらいます」
立ち去ろうとしたレイクウッドは、私の前で足を止めた。
そして、深々と頭を下げる。
「本当に申し訳ございませんでした」
レイクウッドは頭を上げると、私とリュカにもう一度頭を下げてから執務室を出て行った。
これで良かったのかしら。
時間を巻き戻す前のことを思うと、甘い処分のような気がする。
だけど、今回はリュカは巻き込まれていない。
罪のない妹さんのことを思うと、私はリュカの判断を支持しようと思った。
※
現在、母親がICUにおります。
そのため、今回のリュカの発言に思うところはあるかと思いますが、攻撃的な書き方で死を思わせるものについての感想はご遠慮願います。(○ねや○せなど)
ここを読まれていない方もいらっしゃるかと思いますが、非承認させていただく可能性があります。
個人的なお願いで申し訳ございません。
「ごめんなさい。言い争う声が聞こえてきたから、落ち着くのを待ってたの」
「とにかく中に入れよ」
リュカに促されて、恐る恐る執務室の中に足を踏み入れた。
すると、レイクウッドが話しかけてくる。
「リリー様、申し訳ございませんが協力していただけませんか」
「協力?」
私が聞き返すと、レイクウッドは眉尻を下げて懇願してくる。
「妹はいつ死んでしまうかわからないんです。夢を見させてやってもらえませんか」
サービスといってスニッチが教えてくれたのは、レイクウッドの妹が重い病気にかかっていて、このままでは長くは生きられない、ということだった。
「夢を見させるというのは具体的にどんなことなの?」
「僕の妹とリュカを結婚させてあげられるように尽力していただきたいんです」
「無理よ。あなたの気持ちはわからないでもないわ。だけど、あなたが妹さんのために出来ることは、リュカと結婚させることだけなの? 他にもあるでしょう」
厳しい口調で言うと、レイクウッドは悲しげな表情を怒りの表情に変えて叫ぶ。
「そんな訳ないでしょう! 結婚は妹にとって、やりたいことの1つなだけです。それに、リュカの元に嫁げば薬がどんなに高額でも出してもらえるじゃないですか! 薬があれば妹は治るんだ! だから、リュカの妻になれれば!」
必死の形相でレイクウッドが叫んだ。
レイクウッドの妹がかかっている病気は、特効薬が売られてはいるものの、国交を結んでいない国が作ったものだった。
他国を介して手に入れようとすると、税金がかかるため現地価格に比べて莫大な費用がかかる。
引っ越しができれば良いのだろうけれど、国交がないから無理だろうし、妹さんの体力が持たないでしょう。
「リュカ」
「ああ」
私は手に持っていたものをリュカに差し出した。
リュカはそれを受け取ると、そのままレイクウッドに差し出した。
「やるよ。これで、妹が助かるだろう」
「……なんだよ?」
「薬だよ」
「薬?」
「ある人物がくれたんだ。たぶん、裏ルートから手に入れて、現地価格と同等の値段で買ったんだろう」
レイクウッドは困惑しながらも、リュカから小さな麻袋を受け取り、震える手で中身を確認した。
麻袋の中には小瓶が二つ入っていて、その瓶の中には白い錠剤がたくさん入っていた。
封が切られていない小瓶には、他国の文字が書かれている。
王太子妃教育で他の国の言語を勉強していたおかげで文字が読めたので助かった。
瓶にはレイクウッドが欲しかった薬の名前が書かれている。
レイクウッドも文字が読めるようで、目に涙を浮かべてリュカに話しかける。
「ど、どうしてこれを持っているんだ」
「ある人物からもらったって言ったろ」
リュカが答えると、レイクウッドはその場に座り込んだ。
そして、大事そうに薬の入った麻袋を胸に抱えた。
そんな彼を見下ろして、リュカが口を開く。
「薬の飲み方については、お前のほうが詳しいだろう。妹のために調べただろうから」
「ああ。ありがとうリュカ」
レイクウッドは涙を頬に流して、リュカに礼を言った。
「いや。俺も貰い物だから、成分を調べてもらったほうがいいかもしれない」
「いや、大丈夫だ。リュカを信じるよ」
「信じなくていい。人からもらったものだから、保証はできないんだ。何かあったら困る」
お医者様の調べでは、毒ではないということは確かだということだった。
でも、絶対にこの薬だとは言い切れない。
「特効薬は健康な人間が飲んでも害があるわけではないらしいから、毒じゃないかだけ、俺が先に飲んで調べるようにするよ」
「それが偽物だったらどうするんだ」
「その時はその時だよ」
レイクウッドは涙を袖で拭って微笑したあと、真剣な表情で話を続ける。
「これからのことだけど、僕はもう、ここにはいられないよな」
「そうだな。俺をはめようとしたんだ。もう、俺の側近ではいられなくなる。本来ならもっと重い処罰になるだろうが、今回は俺が許す。その代わり、お前は妹に付いていてやれ。別にお前が今の仕事に就いていなければ、金がなくなって没落する訳でもないだろ」
「そうだけど、リュカ、一人で大丈夫なのか? お前を失脚させようと狙ってる人物がいるのは確かなんだぞ」
レイクウッドの言葉にリュカは少しだけ動揺を見せた。
「リュカ」
リュカは一人なんかじゃない。
そう思って、リュカの右手を両手で掴んだ。
リュカが驚いた顔をして私を見つめる。
「大丈夫よ、リュカ。あなたは1人じゃないでしょう?」
「そうだな」
「何度言ったらわかるのよ。あなたがいなくなったら私が一人ぼっちになっちゃうのよ! そんなの困るじゃない! いい加減にしてよ!」
「悪い悪い」
リュカは私の手を握り返して謝ってから、レイクウッドのほうに顔を向ける。
「大丈夫だ。この通り、俺は一人じゃないから」
「……なら良かった」
私たちを見てレイクウッドは頷くと、薬の入った麻袋を大事に抱えて立ち上がり、リュカに尋ねる。
「退職の書類は明日でいいですね?」
「かまわない」
「ありがとうございます。では、今日は失礼させてもらいます」
立ち去ろうとしたレイクウッドは、私の前で足を止めた。
そして、深々と頭を下げる。
「本当に申し訳ございませんでした」
レイクウッドは頭を上げると、私とリュカにもう一度頭を下げてから執務室を出て行った。
これで良かったのかしら。
時間を巻き戻す前のことを思うと、甘い処分のような気がする。
だけど、今回はリュカは巻き込まれていない。
罪のない妹さんのことを思うと、私はリュカの判断を支持しようと思った。
※
現在、母親がICUにおります。
そのため、今回のリュカの発言に思うところはあるかと思いますが、攻撃的な書き方で死を思わせるものについての感想はご遠慮願います。(○ねや○せなど)
ここを読まれていない方もいらっしゃるかと思いますが、非承認させていただく可能性があります。
個人的なお願いで申し訳ございません。
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