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23 忘れていたこと
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「リュカ」
握っていた手を離し、その手を伸ばしてリュカの頬に触れた。
すると、リュカが不思議そうな顔をする。
「どうした?」
「あなたが泣き出しそうだから。別に泣いてもいいのよ。大事な友達だったんでしょう?」
「……ありがとう」
コツンとリュカが自分の額を私の額に当てて目を閉じた。
私も目を閉じていたほうがリュカは泣きやすいかしら。
そんなことを考えながら、リュカを見つめる。
閉じていたリュカの目が開いて、心臓の鼓動が速くなる。
目が合って、そのままの状態で固まっていた時だった。
「ちょっとリュカ、リリーがどこにいるか知らない? 一緒に夕食を食べたいんだ……け……と」
エマ様がノックはしたけれど、中からの返事は待たずに執務室に入ってきた。
そして、私たちを見て動きを止めた。
私たちも、ゆっくりとエマ様のほうに顔を向ける。
「えっ!? きゃー、うそ!? 邪魔してしまったのね!? ちょ、ちょっと待ってね。本当にごめんなさい! あ、でも、まだ大丈夫よ。今、扉を閉めるからね。はい、やり直し!」
そう言って、エマ様は部屋の外に出て扉を閉めた。
……と思ったけれど、少しだけ隙間をあけて覗こうとしていた。
「母上、見えてますよ」
「ご、ごめんね。あの、本当に行くから続きをしてちょうだい」
「「しません!」」
私とリュカの声が重なった。
「この調子だと孫の顔を見るのもそう遅くはないかもしれないわね。急かしているわけじゃないのよ。しばらくは二人の生活を楽しみたいと思うならそうしてね! やっぱり、二人で過ごす時間も大切よね。あなたたちはまだまだ若いし!」
あの後、私たちは立ち去ろうとしたエマ様を引き止めて、夕食を共にすることになった。
あんな誤解されてもおかしくない場面をエマ様に見られるなんて恥ずかしくてしょうがない。
思い出しただけで頬が熱くなるのを感じる。
さっきのことばかり考えていたせいで、何を食べても味がほとんどわからなかった。
エマ様が私を食事に誘った理由は、ただお話がしたいだけだったので、話が先程のものから変わると、落ち着いた気持ちで話をすることができた。
エマ様との食事と話を終えたあと、リュカとも別れて、メイドと共に部屋に向かって歩いていた私は、ふと、トロット公爵令嬢との約束を思い出した。
ちゃんと情報はもらえたことだし、約束は守らないといけないわよね。
トロット公爵令嬢をリュカと会わせてあげないといけないわ。
*****
次の日の夕方、王太子妃教育を終えた私は、リュカの執務室に向かった。
扉をノックすると、レイクウッドではない側近の男性が返事をしてくれたので、自分の名を名乗ると、扉を開けて中に入れてくれた。
「リュカ、少しだけいいかしら?」
書類を見ていたリュカは、私が執務室の中に入ると、慌てて書類を机の上に置いて立ち上がって出迎えてくれた。
「どうしたんだ? 何かあったのか」
「あ、いえ、えっと、その」
側近に聞かれるのはあまり良くないと思ったので目を向けると、何度か顔を合わせている彼は、私と目が合った瞬間に口を開く。
「リュカ殿下、本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「悪いな。また明日も頼む」
リュカが頷くと、側近は一礼してから執務室を出て行った。
「ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまって」
「かまわない。それよりも何かあったのか?」
「トロット公爵令嬢のことなんだけど、私が彼女にリュカと会わせる約束を勝手にしてしまったでしょう」
「向こうが勝手に決めていったんだろ。気にしなくて良い」
リュカが俯いていた私の頭を優しく撫でてくれたので、ホッとして顔を上げる。
「そのことで、日にちはいつにしようか決めないといけないと思ったの。私が国に帰る日も近付いてきているし、早めに彼女にお手紙を送ろうと思うのよ」
「そうだな。リリーの予定に合わせるけど」
「トロット公爵令嬢にはレイクウッドの件でお世話になってしまったし、先に片付けた方が良いでしょうから、7日後くらいなら失礼に当たらないかしら」
「俺が言うのもなんだけど、向こうは少しでも早く会いたいんじゃないのか?」
「そういえばそうね」
頷いてから、レイクウッドの妹さんのことで気になっていたことを思い出して、リュカに聞いてみる。
「そういえばスニッチは最初から、私たちにあの薬を渡すつもりで持ってきていたのかしら」
「妹の病気を知っていたから、俺たちに売りつけるつもりだったんじゃないか?」
「じゃあ、どうして、お金を請求せずに私たちにくれたの?」
「……恩を売りたかったのかもな」
「恩を売りたい?」
「もしくは、ありえない話かもしれないが、最初からザライスの妹を助けるつもりだったか」
私たちは顔を見合わせたあと、ここでどんなに考えても答えが出ないだろうと諦めて、トロット公爵令嬢と会う日時を決めることにした。
握っていた手を離し、その手を伸ばしてリュカの頬に触れた。
すると、リュカが不思議そうな顔をする。
「どうした?」
「あなたが泣き出しそうだから。別に泣いてもいいのよ。大事な友達だったんでしょう?」
「……ありがとう」
コツンとリュカが自分の額を私の額に当てて目を閉じた。
私も目を閉じていたほうがリュカは泣きやすいかしら。
そんなことを考えながら、リュカを見つめる。
閉じていたリュカの目が開いて、心臓の鼓動が速くなる。
目が合って、そのままの状態で固まっていた時だった。
「ちょっとリュカ、リリーがどこにいるか知らない? 一緒に夕食を食べたいんだ……け……と」
エマ様がノックはしたけれど、中からの返事は待たずに執務室に入ってきた。
そして、私たちを見て動きを止めた。
私たちも、ゆっくりとエマ様のほうに顔を向ける。
「えっ!? きゃー、うそ!? 邪魔してしまったのね!? ちょ、ちょっと待ってね。本当にごめんなさい! あ、でも、まだ大丈夫よ。今、扉を閉めるからね。はい、やり直し!」
そう言って、エマ様は部屋の外に出て扉を閉めた。
……と思ったけれど、少しだけ隙間をあけて覗こうとしていた。
「母上、見えてますよ」
「ご、ごめんね。あの、本当に行くから続きをしてちょうだい」
「「しません!」」
私とリュカの声が重なった。
「この調子だと孫の顔を見るのもそう遅くはないかもしれないわね。急かしているわけじゃないのよ。しばらくは二人の生活を楽しみたいと思うならそうしてね! やっぱり、二人で過ごす時間も大切よね。あなたたちはまだまだ若いし!」
あの後、私たちは立ち去ろうとしたエマ様を引き止めて、夕食を共にすることになった。
あんな誤解されてもおかしくない場面をエマ様に見られるなんて恥ずかしくてしょうがない。
思い出しただけで頬が熱くなるのを感じる。
さっきのことばかり考えていたせいで、何を食べても味がほとんどわからなかった。
エマ様が私を食事に誘った理由は、ただお話がしたいだけだったので、話が先程のものから変わると、落ち着いた気持ちで話をすることができた。
エマ様との食事と話を終えたあと、リュカとも別れて、メイドと共に部屋に向かって歩いていた私は、ふと、トロット公爵令嬢との約束を思い出した。
ちゃんと情報はもらえたことだし、約束は守らないといけないわよね。
トロット公爵令嬢をリュカと会わせてあげないといけないわ。
*****
次の日の夕方、王太子妃教育を終えた私は、リュカの執務室に向かった。
扉をノックすると、レイクウッドではない側近の男性が返事をしてくれたので、自分の名を名乗ると、扉を開けて中に入れてくれた。
「リュカ、少しだけいいかしら?」
書類を見ていたリュカは、私が執務室の中に入ると、慌てて書類を机の上に置いて立ち上がって出迎えてくれた。
「どうしたんだ? 何かあったのか」
「あ、いえ、えっと、その」
側近に聞かれるのはあまり良くないと思ったので目を向けると、何度か顔を合わせている彼は、私と目が合った瞬間に口を開く。
「リュカ殿下、本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「悪いな。また明日も頼む」
リュカが頷くと、側近は一礼してから執務室を出て行った。
「ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまって」
「かまわない。それよりも何かあったのか?」
「トロット公爵令嬢のことなんだけど、私が彼女にリュカと会わせる約束を勝手にしてしまったでしょう」
「向こうが勝手に決めていったんだろ。気にしなくて良い」
リュカが俯いていた私の頭を優しく撫でてくれたので、ホッとして顔を上げる。
「そのことで、日にちはいつにしようか決めないといけないと思ったの。私が国に帰る日も近付いてきているし、早めに彼女にお手紙を送ろうと思うのよ」
「そうだな。リリーの予定に合わせるけど」
「トロット公爵令嬢にはレイクウッドの件でお世話になってしまったし、先に片付けた方が良いでしょうから、7日後くらいなら失礼に当たらないかしら」
「俺が言うのもなんだけど、向こうは少しでも早く会いたいんじゃないのか?」
「そういえばそうね」
頷いてから、レイクウッドの妹さんのことで気になっていたことを思い出して、リュカに聞いてみる。
「そういえばスニッチは最初から、私たちにあの薬を渡すつもりで持ってきていたのかしら」
「妹の病気を知っていたから、俺たちに売りつけるつもりだったんじゃないか?」
「じゃあ、どうして、お金を請求せずに私たちにくれたの?」
「……恩を売りたかったのかもな」
「恩を売りたい?」
「もしくは、ありえない話かもしれないが、最初からザライスの妹を助けるつもりだったか」
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