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1 義母の目的
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レノウ伯爵家の次女である私、ミアリナは、ビレディ侯爵家の嫡男である夫、トータムとは恋愛結婚だった。
トータムは、中肉中背の温和そうな顔立ち。赤茶がかった黄色の長い髪を後ろに一つにまとめており、見た目と同じく穏やかな性格だ。
ストレートの腰まであるシルバーブロンドの髪に赤色の瞳を持つ、ひょろりとした体型の私は大人しそうな顔立ちだと言われる。
その容姿のせいか、学生時代は一部の高位貴族にいる性格の悪い人たちから、いじめを受けていた。
トータムとは、お互いに婚約者がいない学生時代に出会い、彼が支えてくれたおかげで、辛い学園生活を乗り越えることができた。
十九歳になった現在は、結婚生活二十日目を迎えるところだ。
恥ずかしながら、私たちは初夜を迎えていない。というのも、義父は昔から病に伏せっており、特にここ最近は病状が悪化して、いつ亡くなってもおかしくない状況だと言われていた。
いつ何時ということを考えると、夜にそういう行為をしようという気にならなかったし、今は義父のことを優先しようと、二人で話し合った結果だった。
義父はとても優しい人で、私が顔を見に行くととても喜んでくれた。結婚してからは看病をしたり、一緒にいる時間を増やした。
ある日、義父に相談されたのは、甲斐甲斐しく働く中年のメイドのことだった。
下の世話以外は全て彼女がやってくれているそうで、たとえ夜中であっても義父が呼べば、嫌な顔一つせず駆けつけてくれるメイドに、義父は心を許していた。
このままでは、自分の遺産はトータムだけのものになり、ここまでしてくれているメイドに何も残せないと考えた義父は遺言書を残すのではなく、彼女と結婚することを望んだ。
見た目は気の強そうな美人だが、私に対する当たりも良いし、何より義父が望んでいるのだからと、特に反対はしなかった。
できれば、少しでも心残りのない人生を送ってほしかったからだ。
でも、それがいけなかった。トータムが反対しなかったとはいえ、もっと、彼女の素性を調べるべきだったと今となっては思う。
義父の希望通り、子爵家の元令嬢だったメイドのウララさんと義父は十日前に入籍し、仲睦まじい姿を見せてくれていた。
彼女は一度結婚しており、元夫との間に一人娘、フララさんがいた。結婚を機に、彼女もこの屋敷で暮らすようになり、義父とも上手くいっていると思っていた。
幸せなことが続いているから、義父の体調も良くなるのではと希望的観測を抱いていた頃、義父が急死した。
夜中に苦しみ始めて意識を失い、そのまま亡くなったのだ。
私は自分の両親とは仲が良くなかった。そんなこともあって、本当の父親のように思い慕っていた義父の死は、覚悟をしていたとはいえ辛いもので、この心の痛みは私だけでなく、義母たちも同じだと思っていた。
「置いておいても夫を思い出して悲しくなるだけですから、夫の部屋にある売れるものは全て売ってしまいましょう」
義父の葬式の前日にその話を聞いた時は、形見になるもの以外を売るのだと思い込んでいた。
義父は二年前に亡くなったトータムの実母のブローチを私に託すと遺言書に記入してくれていたから、そのブローチは私のものであって、義母のものではない。
言わなくても大丈夫だろうと思いつつも、私は義母にそのことをきちんと伝えておいた。
義母が頷いたことや、形見分けは葬式が終わり、落ち着いた頃にしようと言われたため、私はお葬式の準備に集中した。
そして一段落ついた時には、義母によってブローチは売り払われていた。
どうしてそんなことをしたのか問い詰めようと義母を探すと、彼女は義父の寝室にいた。
「ブローチは私がいただくものですから、売らないでほしいと言っていたはずです!」
「高く買い取ると言ってくれたんだもの。売らなくちゃ損でしょう?」
「そういう問題ではありません! 大体、形見分けは落ち着いてからにしようと言っていたではないですか」
「ああ、そういえばそうだったわねぇ」
ダークパープルのウェーブのかかった長い髪を撫でつけながら、義母は悪びれる様子もなく続ける。
「そんなに興奮しないで落ち着きなさいな。たかがブローチよ。似たようなものを買ったらいいんじゃないの?」
「形見ですよ? 似たものでは意味がないんです!」
強い口調で訴えると、義母は品定めでもするかのように、私の頭から爪先に視線を動かしていく。
学生時代に私をいじめていた人たちと同じ、人を蔑んでいる時の視線だと感じて、嫌悪感が湧いた。
昔の私は、何も言えずに俯いていた。
このままではいけない。
自分を変えたいと思った私は、結婚が決まった時に言わなければならないことは、はっきりと言える自分になると、トータムに誓った。
今がその時だ。
「何度も言いますが、あのブローチは私のものです。それを間違えたのではなく、わかっていて売ったのです。悪いと思う気持ちはないのですか?」
「ああ、これだから貧乏人は嫌なのよ」
義母はため息を吐いてそう言うと、後ろに控えていた自分の侍女に声をかける。
「ブローチを売った分の現金をちょうだい」
「用意してまいります」
「……だそうよ。少し待ちなさい」
侍女が出ていった扉を見つめながら言う義母に、私は声を荒らげる。
「お金で解決できるものではありません!」
「じゃあ諦めたら?」
義母は鼻で笑いながら、私を見つめた。
こんなことなら、先にブローチだけ受け取っておけば良かった?
……いや、あの時の悲しみに暮れた状態では、そんなことはできなかった。
このままでは埒が明かないと考え、義母に問いかける。
「どこの買い取り業者に出したのですか」
「名前は忘れたわ。自分で調べたら?」
義母は鼻で笑うと、部屋から出ていった。
豪華な調度品が置かれていた広い部屋は、驚くほどに物がなくなっていた。
義父が自分一人では大きすぎると苦笑していたキングサイズのベッドも本棚も、書き物机も小物類もなくなった。
部屋の中に残されているのは、外から見えないようにするためのカーテンだけ。
昼間だというのに、薄暗い部屋の中で立ち尽くしていた私は、ここで呆然としているだけでは意味がないと、気持ちを切り替えることにした。
「まずはブローチを取り戻さないと」
良い人だったはずの義母は、この日から私の前では本性を見せるようになった。
そして、彼女が献身的に義父の面倒を見ていたのは、遺産が目的だったことと、自分の娘を私の夫に近づけるためだったと知ることになる。
トータムは、中肉中背の温和そうな顔立ち。赤茶がかった黄色の長い髪を後ろに一つにまとめており、見た目と同じく穏やかな性格だ。
ストレートの腰まであるシルバーブロンドの髪に赤色の瞳を持つ、ひょろりとした体型の私は大人しそうな顔立ちだと言われる。
その容姿のせいか、学生時代は一部の高位貴族にいる性格の悪い人たちから、いじめを受けていた。
トータムとは、お互いに婚約者がいない学生時代に出会い、彼が支えてくれたおかげで、辛い学園生活を乗り越えることができた。
十九歳になった現在は、結婚生活二十日目を迎えるところだ。
恥ずかしながら、私たちは初夜を迎えていない。というのも、義父は昔から病に伏せっており、特にここ最近は病状が悪化して、いつ亡くなってもおかしくない状況だと言われていた。
いつ何時ということを考えると、夜にそういう行為をしようという気にならなかったし、今は義父のことを優先しようと、二人で話し合った結果だった。
義父はとても優しい人で、私が顔を見に行くととても喜んでくれた。結婚してからは看病をしたり、一緒にいる時間を増やした。
ある日、義父に相談されたのは、甲斐甲斐しく働く中年のメイドのことだった。
下の世話以外は全て彼女がやってくれているそうで、たとえ夜中であっても義父が呼べば、嫌な顔一つせず駆けつけてくれるメイドに、義父は心を許していた。
このままでは、自分の遺産はトータムだけのものになり、ここまでしてくれているメイドに何も残せないと考えた義父は遺言書を残すのではなく、彼女と結婚することを望んだ。
見た目は気の強そうな美人だが、私に対する当たりも良いし、何より義父が望んでいるのだからと、特に反対はしなかった。
できれば、少しでも心残りのない人生を送ってほしかったからだ。
でも、それがいけなかった。トータムが反対しなかったとはいえ、もっと、彼女の素性を調べるべきだったと今となっては思う。
義父の希望通り、子爵家の元令嬢だったメイドのウララさんと義父は十日前に入籍し、仲睦まじい姿を見せてくれていた。
彼女は一度結婚しており、元夫との間に一人娘、フララさんがいた。結婚を機に、彼女もこの屋敷で暮らすようになり、義父とも上手くいっていると思っていた。
幸せなことが続いているから、義父の体調も良くなるのではと希望的観測を抱いていた頃、義父が急死した。
夜中に苦しみ始めて意識を失い、そのまま亡くなったのだ。
私は自分の両親とは仲が良くなかった。そんなこともあって、本当の父親のように思い慕っていた義父の死は、覚悟をしていたとはいえ辛いもので、この心の痛みは私だけでなく、義母たちも同じだと思っていた。
「置いておいても夫を思い出して悲しくなるだけですから、夫の部屋にある売れるものは全て売ってしまいましょう」
義父の葬式の前日にその話を聞いた時は、形見になるもの以外を売るのだと思い込んでいた。
義父は二年前に亡くなったトータムの実母のブローチを私に託すと遺言書に記入してくれていたから、そのブローチは私のものであって、義母のものではない。
言わなくても大丈夫だろうと思いつつも、私は義母にそのことをきちんと伝えておいた。
義母が頷いたことや、形見分けは葬式が終わり、落ち着いた頃にしようと言われたため、私はお葬式の準備に集中した。
そして一段落ついた時には、義母によってブローチは売り払われていた。
どうしてそんなことをしたのか問い詰めようと義母を探すと、彼女は義父の寝室にいた。
「ブローチは私がいただくものですから、売らないでほしいと言っていたはずです!」
「高く買い取ると言ってくれたんだもの。売らなくちゃ損でしょう?」
「そういう問題ではありません! 大体、形見分けは落ち着いてからにしようと言っていたではないですか」
「ああ、そういえばそうだったわねぇ」
ダークパープルのウェーブのかかった長い髪を撫でつけながら、義母は悪びれる様子もなく続ける。
「そんなに興奮しないで落ち着きなさいな。たかがブローチよ。似たようなものを買ったらいいんじゃないの?」
「形見ですよ? 似たものでは意味がないんです!」
強い口調で訴えると、義母は品定めでもするかのように、私の頭から爪先に視線を動かしていく。
学生時代に私をいじめていた人たちと同じ、人を蔑んでいる時の視線だと感じて、嫌悪感が湧いた。
昔の私は、何も言えずに俯いていた。
このままではいけない。
自分を変えたいと思った私は、結婚が決まった時に言わなければならないことは、はっきりと言える自分になると、トータムに誓った。
今がその時だ。
「何度も言いますが、あのブローチは私のものです。それを間違えたのではなく、わかっていて売ったのです。悪いと思う気持ちはないのですか?」
「ああ、これだから貧乏人は嫌なのよ」
義母はため息を吐いてそう言うと、後ろに控えていた自分の侍女に声をかける。
「ブローチを売った分の現金をちょうだい」
「用意してまいります」
「……だそうよ。少し待ちなさい」
侍女が出ていった扉を見つめながら言う義母に、私は声を荒らげる。
「お金で解決できるものではありません!」
「じゃあ諦めたら?」
義母は鼻で笑いながら、私を見つめた。
こんなことなら、先にブローチだけ受け取っておけば良かった?
……いや、あの時の悲しみに暮れた状態では、そんなことはできなかった。
このままでは埒が明かないと考え、義母に問いかける。
「どこの買い取り業者に出したのですか」
「名前は忘れたわ。自分で調べたら?」
義母は鼻で笑うと、部屋から出ていった。
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義父が自分一人では大きすぎると苦笑していたキングサイズのベッドも本棚も、書き物机も小物類もなくなった。
部屋の中に残されているのは、外から見えないようにするためのカーテンだけ。
昼間だというのに、薄暗い部屋の中で立ち尽くしていた私は、ここで呆然としているだけでは意味がないと、気持ちを切り替えることにした。
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