【完結】どうぞ他をあたってください

風見ゆうみ

文字の大きさ
33 / 44

33  新しい生活と夫の後悔 ①

しおりを挟む
※途中でトータム視点になります。



 まだ暗いうちに宿に着くと、ラフリード様が待ち合いのフロアのソファに座っていた。驚いた私は、彼に駆け寄って話しかける。

「ラフリード様もこちらの宿に泊まっておられたのですか?」
「ああ。アリムもファルナも泊まってるよ」

 眼鏡姿のラフリード様は、笑顔で続ける。

「お疲れ様。無事に逃げられたようで良かったな」

 ここに泊まるという話はしていたので、宿をここにしてくれたのかもしれない。

「……もしかしなくても、待ってくださっていたのですか?」
「ああ。ファルナたちも待とうとしていたが、夜更かしは肌に良くないから寝ろと言って部屋に戻らせた」
「なんだか保護者みたいですね」

 微笑したあとに頭を下げる。

「気にかけていただき、本当にありがとうございます」
「母にも言われているし、自分でやろうと決めたことだ。あなたが礼を言う必要はないよ」
「そうだとしても、気持ちはありがたいので」
「そうか」

 ラフリード様は頷くと、立ち上がって尋ねてくる。

「これからどうするんだ?」
「……そうですね。一応、住む場所の目星はつけています。平民として暮らしていくわけですし、私の顔を知らない人たちが多い場所に行こうと思っています」

 平民の多くは領主の顔は知っていても、他の領主となると、写真が出回っていない限りは知っている人は少ない。夫人となれば余計にだ。

 元貴族だとわかれば、お金を持っていると思われて身の危険もあるが、そうでない限りは、慎ましい生活をしていけば目立たないはずだ。

「そうか。なら、ディーラス公爵領かジゼル公爵領に来ればいい。あなたとファルナは友人だし、うちの母が君を気にしている。それから預かっていたお金のことだが、小切手で渡そうか」
「ありがとうございます。ご迷惑でなければ、もう少し持っておいていただけますか? 手元に置いておくのが不安なんです」
「それはそうだな」

 話をしていると、私がやって来たと誰かから聞いたようで、アリム様がやって来た。
 二人と話をしたあと、案内された客室に向かい、ひとまず眠ろうと寝支度を整えているとファルナ様がやってきた。

 今日泊まることにした宿には事情を説明してあるし、トータムが探しに来てもこの宿に泊まっているとは守秘義務があるから絶対に言わない。最悪の場合は裏口から逃がしてもらう約束もしている。しかも、ラフリード様たちもこの宿にいる。
 そんな安心感もあり、ファルナ様と今後の話をしているうちに、限界を迎えた私は知らぬ間に眠っていて、気がついた時には同じように眠ってしまったファルナ様と共に朝を迎えていた。


◆◇◆◇◆◇
(トータム視点)


 どうせすぐに音を上げて戻って来る。
 そう思った僕は、ミアリナを追いかけなかった。三日持てば良いだろう。
 やっぱりよりを戻してほしいとお願いしてくるはずだ。貴族の女性が一人で生きていけるわけがない。

 ミアリナが出ていった朝、寝不足の目をこすりながらダイニングルームに向かうと、フララが話しかけてきた
 
「お兄様、おはようございます! 昨日は突然出ていくんで驚きました!」
「あ……、ああ。ごめん。心配かけたね」
「心配なんてしてません! 怒っているんです! ところで、ミアリナ様が出ていったとお聞きしたんですけど?」
「そうだよ。旅行に出かけたみたいだ」
「……なぁんだ。出ていったわけじゃないんですね」
「え?」

 フララの声のトーンが低くなった気がして聞き返すと、僕の様子に気がついたフララは笑う。

「何でもないわ、お兄様」

 フララが僕の腕に自分の腕を絡め、頬を寄せてきた。

 彼女が妹ではないのか、改めて調べなくては。
 もしそうなら、ミアリナと離婚してフララと結婚すれば良い。嬉しいはずなのに、なぜか頭の中で警鐘が鳴っている。

「……お兄様、どうかしました?」

 不思議そうに僕を見上げるフララに笑顔を作って謝る。

「いや。昨日は本当にごめんね」
「本当ですよぉ!」

 僕の人生は順調なはずだ。最近はワガママだが、聞き分けの良い妻。可愛くて愛する妹が側にいてくれる。
 妻ではなく妹を抱きたいと思うのは、妻に性的魅力がないだけで、僕のせいではない。

 ……あれ。
 僕はどうしてミアリナと結婚したんだ?
 そう思うと、急に胸が苦しくなった。

 ミアリナのことが頭に浮かび、眠れない日々を過ごして3日が経った頃、僕は王妃陛下から呼び出しを受けるのだった。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」 「嫌ですけど」 何かしら、今の台詞は。 思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。 ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻R-15は保険です。

アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

幸せな政略結婚のススメ【本編完結】

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

処理中です...