条件付きにはなりますが、あなたの理想の妻を演じましょう

風見ゆうみ

文字の大きさ
3 / 21

3  白い結婚 ③

しおりを挟む
「どうかなさいましたか? 二人の関係を知られたくないのでしょう? なら、私の言ったことは間違いではないはずですよ」
「そ、それはそうだが……」
「なら、私が別邸に移ることを、使用人にはどう説明するおつもりですか?」

 私の問いかけに、ミミナさんが同意するように無言で何度も頷いた。

 使用人に自分たちの関係を知られたくないのは、ロファー様だけじゃないってことね。

 ロファー様はミミナさんの顔色を窺うように見たあと、私に視線を戻して口を開く。

「君が別邸に住みたいと言ってくれるだけでいいんだ」
「私が我儘を言っているようにしたいということですか」
「そうだ」
「どうして、私があなたたちに協力しないといけないのです? 愛し合っているというのなら、使用人を敵に回してでも愛を貫いたらいかがです?」
「敵に回したくないんです! みんな、良い人だから! でも、ロファー様と別れるのも嫌なんです!」

 ミミナさんは涙目で私に訴えた。

 そんなことを言われても困るわ。

「自分たちのことしか考えていないあなたたちのために、どうして私が悪役にならないといけないのかわかりません」

 今日、何度目になるかわからないため息を吐いて、二人を見つめると、ロファー様が答える。

「それはそうかもしれないが、もう、君は私の妻なんだ! 言うことを聞いてくれ。私に別邸に住めと言うが、普段は本邸で仕事をしているんだぞ。仕事も別邸でやれと言うのか!」
「別邸に住むと言うのであれば、別邸に執務室を作れば良いかと思います。あ、本邸の執務室をリフォームしたらいかがです? その間、別邸で仕事をし、そのまま居つけば良いのではないでしょうか。あなたは私との不仲を使用人に知られることは嫌ではないのでしょう?」
「それも困る。使用人にも良い当主だと思われたい」

 あれも嫌、これも嫌。精神が子供のまま大きくなったのね。

「不仲だということはバレたくない。でも、私と別居はしたいとおっしゃっているんですわよね」 

 私はそこまで言うと、座っていた安楽椅子から立ち上がり、笑みを挑戦的なものに変えて尋ねる。

「あなたは自分の言っていることが矛盾していることに気づいていらっしゃる?」
「わかっている。でも、私とミミナの幸せのためには別居することが一番良い。だから、不仲だと思われてもいいから、私が悪いのではなく、君の我儘だということにしたい」
「本当に自分とミミナ様のことしか考えていないんですのね。そんな人間が侯爵だなんて信じられませんわ。なんなら私が侯爵の仕事をしても良いんですのよ? ロファー様はミミナ様とゆっくりしたいでしょう? 領地視察でも行かれてはいかがです?」

 爵位は継げなくても、彼の代わりに仕事をすることはできる。恋愛のために仕事を放り出すような責任感のない人間なのか、それともそこまでではないのか。

 さあ、答えてちょうだい。
 
 ロファー様は眉根を寄せて答える。

「ふざけたことを言わないでくれ。君はこの家を乗っ取ろうとしているのか!? 侯爵家の仕事は私の仕事だ! 君が手を付けても良いのは、母上がやっていた仕事くらいだ!」
「そういえば、先代の夫人がされていたお仕事は現在、誰がしておられるのですか?」
「……執事がやってくれている。だから、君は何もしなくてもいい」
「執事がやってくれている……ね」

 ミミナさんはここで働いているメイドで、幼馴染だと言っていたわよね。なら、執事も含め使用人たちは、ロファー様とミミナさんの関係を知っているはず。
 それについて、使用人たちがどう思っているかの確認をしないといけないわね。

「何か文句があるのか?」
「文句というわけでありませんけど……」

 この感じだと離婚しようとしないのも、世間体を気にしているだけよね。

「ロファー様に改めて確認させてもらいます」
「……言ってみろ」
「ロファー様はミミナさんを愛している。本音を言えばミミナさんと結婚したいけれど、平民である彼女が社交界で認められないことはわかっている。ミミナさんを傷つけたくないから、彼女との関係は屋敷内でのみの関係にしたい。かといって自分が結婚しなければ縁談の話がきて面倒。なら、都合の良い誰かと結婚してしまえ、と思い始めて王命ということを理由に私と結婚した。屋敷外では私に妻としての役目を果たしてほしい。そんなところでしょうか」

 別邸に住めは却下だ。彼らのために悪者になるつもりはないし、彼らを応援する気にもならない。

「ま、まあ、言い方は悪いがそういうところだ」

 言い方は悪いがって、どれのことかしら。結婚してしまえ?

 そんなことどうでもいいわね。

 先代の陛下は本当に性格が悪いわ。普通の令嬢なら泣き寝入りしてしまう可能性があるからと、暴れ馬みたいな私を養女にしてまで、ロファー様の婚約者を準備したのね。
 そういえば、ロファー様のご両親は二人の関係に気づいていたのかしら。まさか、関係を反対されて邪魔になったから殺したとかじゃないわよね?

 それはさすがに考え過ぎか。先代の陛下だって、相手が人殺しかそうじゃないかくらいは、ちゃんと調べてくれているでしょう。

 何でも王命にするのなら、王命で二人を別れさせれば良かったんでしょうけど、そんなことをしたら『愛し合っている二人を引き裂くなんて』ということを言い出しかねない。
 本当に純愛だったとしたら二人が死を選ぶ可能性もある。

 数年前に、公爵令嬢と子爵令息が交際を反対されて、海に身を投げたという話を聞いたことがある。陛下の頭にそのことがよぎったのでしょうね。

 たとえロファー様たちのことを考えての王命だったとしても、自分たちのことしか見えていない二人に、周りの声なんて届くはずがない。周りの心配はロファー様たちにとっては大きなお世話だ。
 そんな人たちに、私は優しくしてやれる人間でもない。
 
 、王命としてではなく、あなたの願いを聞き入れましょう。
 ロファー様を立派な侯爵にしてみせれば良いのですよね? 
 そのために、姪っ子はあなたのという肩書きを使って好きなようにやらせてもらいますわ。

「ロファー様、条件付きにはなりますが、あなたの理想の妻を演じましょう」

 にこりと微笑むと、ロファー様とミミナさんは戸惑ったような表情を見せた。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」  あなたがそうおっしゃったから。  わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。  あなたがそうおっしゃったから。  好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。  全部全部、嘘だったというの?  そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?  子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。  貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。  貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。  二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。  しかし。  結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。  だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。  それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。  三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。  それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。  元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。  もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。  いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。  貴族の結婚なんて所詮そんなもの。  家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。  けれど。  まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。  自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。  家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。  だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。  悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……  夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。  彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。

【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。 公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。 周囲にそう期待されて育って来た。 だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。 そんなある日、 殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。 決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう── 婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。 しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、 リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に…… ※先日、完結した、 『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』 に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...