条件付きにはなりますが、あなたの理想の妻を演じましょう

風見ゆうみ

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4  使用人たちの本音 ①

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 結局、ロファー様とミミナさんが一夜を共にすることはできなかった。

 私が条件を伝え終えて部屋に戻ろうとすると、ロファー様が行く手を阻んでこう言った。

「駄目だ! 今日は大事な日なんだ! 君は朝までここにいなければならない!」
「大事な日を自分たちでぶち壊しておいて、よくそんなことが言えますわね」
「言うことを聞くんだ!」
「嫌です」

 条件の一つにロファー様のお願いをなるべく聞くけれど、どうしても嫌な場合はそれを拒むために常識の範囲内で強硬手段に出ても良いことにしてほしいと伝えている。

 ロファー様はこの条件を呑んだのだから、拒否権を行使することにした。

「きゃあああっ! だ、誰か助けてぇっ!」

 緊迫感は出せなかったが、廊下に向かって助けを求める声を上げた。

 部屋の前から追い払われたとはいえ、当主を守る役目を担う兵士がそう離れた場所にいるはずがない。私の悲鳴を聞きつけた兵士のおかげで、私は寝室から出ることができた。

 これで初夜が失敗したことや、私とロファー様の仲が良くないことがバレはしたが、ミミナさんが寝室いたことだけは、兵士たちには見なかったことにさせた。

 私は一応、二人に気を遣ってあげたわけだけれど、まったく意味がなかった。やはり、二人の関係は使用人たちに知られていた。

 なぜ、そのことがわかったのかと言うと、メイド長が教えてくれたからだ。

 部屋に戻った私のところに、ぽっちゃり体型で温厚そうな顔立ちのメイド長がやって来た。
 話したいことがありそうだったので部屋に招き入れると、彼女は深々と頭を下げた。

「ミミナがご迷惑をおかけしたようで、誠に申し訳ございません」

 黒色の髪に白髪が混じった髪をシニヨンにしたメイド長は、無意識なのかはわからないが胃の辺りを押さえている。

 メイド長は常識人といったところかしら?

 どこまで知っているのか確認するために尋ねてみる。

「何のことで謝っているの?」
「先ほど、寝室でミミナが奥様にご迷惑をかけたことです」
「たとえ迷惑をかけられていたとしても、当主が許しているんだもの。あなたが謝ることではないわ」
「で、ですが……」
「気になるようなら、私を部外者の前以外で奥様と呼ぶのはやめてちょうだい」
「部外者と言いますのは?」

 訝しげな表情のメイド長に答える。

「ごめんなさい。言い方が悪かったわね。エアズ侯爵家に雇われている人やロファー様の前では、奥様と呼ばないでほしいの」
「……お客様の前では奥様、使用人だけの場合はフェリ様とお呼びするという形でよろしいでしょうか」
「ええ。それでお願い」

 遠慮するメイド長を無理やりソファに座らせ、私はふかふかのベッドに座って、メイド長に話しかける。

「聞かせてほしいんだけど、ロファー様とミミナさんの仲は昔からあんな感じなの?」
「恋愛感情が芽生えたのがいつかはわかりませんが、昔から一緒にいたことは確かです。一年前に前任のメイド長が解雇されていますので、少なくともその前からかと思われます」
「どういうこと? それに、メイド長はどうして解雇されたの? 前任のメイド長はミミナさんのお母様よね?」
「解雇したのはロファー様です。理由はメイド長という立場ではなく、母として二人の交際を反対したからです。表向きはエアズ家のお金を横領したことになっています」

 雇い主と自分の娘が恋仲になったら、普通は反対するわよね。親として当たり前の行動を取ったら解雇されるなんておかしいわ。

 しかも、やってない罪をでっち上げられるなんて!

「じゃあ、今働いている使用人は二人の関係を知っているけれど、解雇されたり、冤罪を着せられることが怖くて何も言えないと言ったところかしら」
「……恥ずかしながらそういうことでございます」
「何も恥ずかしいことなんてないわ。自分の立場を守ろうとするのは当たり前のことよ」
「ですが……」
「あなたたちが二人の仲をとやかく言って解雇されたことを知ったら、多くの貴族はあなたたちを雇わないわ。あんな人たちのために生活を犠牲にする必要はない」

 それにしても、ミミナさんは自分の母親が解雇されたことをどう思ったのかしら。母親よりもロファー様を選んだということ?

 あと、ミミナさんの母親が今、どうしているのか確認してみましょうか。

 その後、メイド長にロファー様たちの話を聞いてみると、使用人たちは彼らの関係を良く思っておらず、私と結婚すればロファー様の目が覚めるかもしれないと考えていたそうだ。

「ミミナさん以外の使用人は私の味方と思って良いのかしら」
「もちろんでございます」

 まだ来たばかりだから、信頼関係の『し』の字もないけれど、彼女が嘘を言ってもメリットはないでしょうし、今聞いた話については信じておくことにした。

 メイド長が夜遅くの訪問を詫びて帰っていったあと、持参していた寝間着に着替えて眠ろうとした時、扉の外で言い争う声が聞こえてきた。

「こんな時間に失礼だぞ! 明日にしなさい!」
「嫌よ! 気になって眠れないの! 明かりがついているんだから、まだ起きているはずだわ!」
「起きていたとしても、今何時だと思っているんだ! 奥様に失礼だぞ!」

 扉の前に立っている兵士と言い争っているのは、ミミナさんのようだった。

 知らないふりをして眠ろうかと思うと、今度はロファー様の声が聞こえてきた。

「気になって眠れないと言っているだろう。明日の仕事に支障をきたしては困る。ミミナの好きなようにさせろ」

 この人たち、自分たちの関係を隠す気があるのかしら。

 私が出ていくまでキャンキャン吠えそうだったので、私は勢いよく扉を開けて「おやすみなさい」と笑顔で声をかけて扉の鍵を締めた。

 あ、話しかけたら駄目だったことを忘れていたわ。気をつけなくちゃ。
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