三ヶ月だけの恋人

perari

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「……で、そこで本当に承諾したのかよ?」
北川は信じられないという顔で声を荒げ、まるでバカを見るような目つきで仁野を睨んだ。
「お前、頭おかしいだろ仁野。相手は男だぞ? なんで恋人なんかやるんだよ?」
「仕方ねぇだろ。」
仁野は肉をひと口、箸でつまんで答える。
「頭割っちまったんだ。要求ひとつだけって言われて、断れるか?」
「断れるだろ! 要求の内容見ろよ!」
北川の声はさらに大きくなり、口調も険しくなる。
「男同士なんて……気持ち悪いだろ!」
「うるせぇ、飯食うのか食わねぇのか!」
仁野は箸を皿に叩きつけ、声を荒げた。顔色も険しい。
「ごちゃごちゃ言うな、耳障りだ。」
その剣幕に、北川はびびって口を閉ざす。
――どうにも納得いかねぇ。
仁野は筋金入りのストレートだと思ってたのに。なんでよりによって、男と付き合うなんて……。
体育大は男だらけ。背も体格もでかい連中ばかりで、同性愛なんて一番嫌う空気がある。
ナヨナヨした奴らに見られるだけで、まるで触られたみたいで気持ち悪い。
プールサイドにそういう奴らが現れると、練習終わりに仲間と一緒に待ち伏せして、殴って追い出すのが常だった。
昔も一人、厚かましいのがいて……殴られながらもマニキュア塗った手で太ももに触ってきやがった。北川はそのせいで三回風呂に入り直し、皮膚が擦りむけるまで体を洗ったほどだ。
仁野はそういうリンチには関わらなかった。
むしろ軽蔑してる節もあったが、それでも彼がそういう連中を嫌っているのは確かだった。
男からLINEを聞かれたりしても、いつも冷たい顔で「失せろ」と一言。突き飛ばして終わり。
だからこそ、北川は混乱していた。
――そう思っていると、視界の端に一人の男が歩いてくるのが見えた。
北川は思わず肩を強ばらせ、肘で仁野をつついて小声で言う。
「おい……松田だ。」
仁野が顔を上げると、ちょうど松田が近づいてくるところだった。
傷跡を隠すためか、帽子と黒いマスクで顔を覆い、見えるのは目元だけ。
濃紺のTシャツにハーフパンツ。細く長い脚をスニーカーに通し、その姿は女子学生の視線を集めていた。
「……で、何の用だ?」
仁野は胸元の文字に目をやる。学会か何かの英語が並んでいて、よく理解できなかった。
「別に大したことじゃないんだ。」
松田は視線を逸らし、机の端を指先で弄りながら小さな声で言う。
「一緒にご飯……してもいい?」
仁野は眉をひそめ、不機嫌そうな顔をしながらも頷いた。
「……座れよ。」
その瞬間、松田の瞳にわずかな喜びが宿る。
仁野にとっても珍しい光景だった。
告白された時も、断った時も、酒瓶をぶつけられた時も、感情を見せたことがないような顔だったのに。
松田は目を細め、腕に抱えた本を仁野の正面の席に置き、食堂のカウンターへと向かった。
「……はぁ?」
北川は呆れたように息を吐く。
「お前、本当に一緒に食うつもりかよ?」
仁野は不機嫌そうに答えた。
「俺だって好きでやってるわけじゃねぇ。」
「……マジで信じられねぇな。」
北川は苦笑し、ぼそりと「すげぇな、お前」と言い残して席を立つ。
「男と飯なんか食ったら、病気でもうつされるぞ。」

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