三ヶ月だけの恋人

perari

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松田は抱きしめる時間は長くなかった。ほんの数秒で仁野から離れ、少し後ろに下がって社交距離を保った。それは別れのハグであり、仁野に不快な思いをさせたくなかったのだ。仁野は自ら与えてくれるものをありがたく受け取るだけで十分だった。
仁野は扉を開け、軽く頷いた。「じゃあ、またな。」
松田も目を逸らさず、同じく「またな」と返した。
仁野は手術室へ向かう。消毒液の匂いが鼻を突き、さっき松田の髪から漂ってきた、ほんのりした清らかな香りは一瞬で消えてしまった。その思いもまた、長くは続かなかった。
来月、市の大会がある。学校からは三人しか出場できないため、まず校内選抜で上位三位に入る必要がある。仁野は日頃から成績が安定していたが、気を抜くわけにはいかず、二週間ずっとプールに入り詰め、特訓を重ねた。結果、見事一位で予選を通過した。
校内選抜の決勝には、観客が絶えない。水泳部は学内でも「イケメン揃い」と有名で、決勝の日には会場が人で埋め尽くされた。女性が多く、仁野が入場した途端、騒ぎになり、スマホで写真や動画を撮る者も少なくなかった。
正直、仁野は少し煩わしかった。自分の容姿が目立つのはわかっているが、この競技そのものを尊重してほしいと願っていた。顔やスタイルばかり注目されるのは、本意ではなかったのだ。彼は表情を変えず、バッグを手に無言で場内に進んだ。
試合終了後、歓声が上がる。水底から浮上した仁野は顔を拭きながら、計時係の眼鏡の女の子に訊いた。「どうだった?」
彼女は笑顔で答えた。「おめでとう、一位です。」
仁野は安堵の息をついた。
監督が近づき、「よくやった。この期間しっかり練習して、市の大会ではもっとタイムを縮めよう」と言う。
仁野は軽く頷く。
帰り際、勇気のある女子十数人が写真を撮ろうと残った。仁野は冷たい表情だったが、面子を潰すつもりはなく、順番に隣に立たせ、カメラに向かって何度も見せる笑顔を見届けた。
北川は一緒に食事に行くつもりで後ろを歩きながら、からかう。「最後に一緒に写真を撮った子、知ってるのか?経営学部一年の福山って子だ。」
仁野は足を止めずに答える。「一年の子まで知ってるのか。」
北川は笑う。「可愛いだろ。新入生報道の時に、もう告白の嵐だった。素顔でポニーテールでも、隣の人を圧倒してた。」
仁野はただ「ふん」と返す。
北川はさらに続ける。「ふんって、さっきの写真の時、顔赤かったぞ。ほんとに興味ないのか?」
仁野は気分が優れず、北川の話を聞いてますます苛立った。口を開きかけて、ふと視線を上げると、体育館向かいの木の下に誰かが立っていた。帆布のバッグを背負い、こちらを見ている。
仁野は足を止め、出口に向けて言いかけた言葉を止めた。代わりに言う。「俺は、独りじゃない。」
北川は一瞬固まった。視線を追うと、全身に鳥肌が立つ。「あいつだって!?あの小娘ちゃんが?それ、相手になんてカウントするんだよ!」
仁野は木の下へ歩きながら、北川を睨み、冷たく言う。「口、きれいにしろ。あいつはお前に借りがあるわけじゃない。」
北川は一言叱られ、何が起きたのか理解できず、「くそっ」と言って食堂へ向かった。

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