三ヶ月だけの恋人

perari

文字の大きさ
14 / 50

014

しおりを挟む
午後のレストランはそれほど混んでおらず、並ぶこともなく、二人はすぐに食事を終えた。地下鉄に乗って一緒に学校へ戻り、仁野は松田を寮まで送る途中で訊ねた。「16日、空いてる?」
松田はその日が仁野の市大会の日だと知っていた。「空いてます。」
仁野は「うん」と小さく頷き、言った。「試合は二日間あるから、16日か17日、時間があれば見に来られる?」
松田の気分は少し良くなり、頷いた。「わかった。」
寮の下に着くと、松田は顔を上げて仁野を見た。「今日はありがとう。」
仁野は眉を上げた。「何をありがとう?」
松田は手を繋いだことを恥ずかしくて言えず、ただ黙って視線を逸らした。
仁野はしばらく彼を見つめ、突然笑った。松田をからかうのは面白いと思ったのだ。相手は何のリアクションもなく、「ごめん」と「ありがとう」だけで、手を繋いだことをあたかも命を救われたかのように感じている。
仁野は両手をズボンのポケットに入れたまま、少し腰をかがめ、松田の耳元で囁いた。「先輩、実は君も結構きれいだね。」
直立すると、松田の顔や耳は急に赤くなり、体はぴんと張り、頭を下げて何も言えなくなった。肌は白く透明で、赤みがはっきりとわかる。仁野の視点からは、鎖骨付近の首もピンク色に染まって見えた。仁野は笑いながら軽く彼を押した。「さあ、休みに帰ろう。」
松田は適当に頷き、逃げるようにその場を去った。
その後の二週間、松田は仁野に自分から連絡を取ることはなかった。仁野は訓練で忙しく、毎日疲れて枕に倒れ込むとすぐに眠り、試合以外のことを考える余裕もなかった。
ある日の昼、北川と仁野が食堂に向かう途中、北川の従妹・松本と、もう一人見知らぬ女子が掲示板の前で何か話しているのに出会った。
北川は彼女たちに気づき、そっと松本の横に行って、わざと驚かせた。「おい!」
松本は本当に驚き、誰だと気づくと笑いながら文句を言った。「なにしてんの?」
言い終えると、隣に仁野が立っているのに気づいた。幼いころから北川と仲が良く、従兄弟のこともよく知っていた。ましてや仁野は、多くの女子が知り合いたがる人気者だった。松本は頷いた。「仁野。」
仁野もバッグを手に、軽く頷いた。
北川が訊ねた。「何を見てるの?」
松本は再び掲示板に視線を戻し、「イケメンを見てるの」と答えた。
北川はこの掲示板の用途を知っていた。学校の幹線道路にあり、教室棟、寮、食堂へ行くほとんどの人が通る場所で、校内の部活動や大会の告知、優秀な学生の表彰などに使われる。そこにイケメンが載るはずはないと笑いながら見た。「え、仁野が載ってるのか?」
松本は白い目を向けた。「違うのよ。」
北川はさらにからかおうと思ったが、掲示板の写真を見ると少し呆然とし、つい隣の仁野に目を向けた。
仁野もその写真を見ていた。松田は白いシャツにスラックス、右手にトロフィー、左手に賞状を持っている。こういうイベントは学生会の新メディア部門が高解像度で撮影するので、松田の美しい顔立ちはより際立ち、表情は落ち着き、目つきは少し冷たく、誇らしさや喜びは見せていなかった。掲示板では彼のために半分ほどのスペースを割き、紹介文も添えられていた。仁野はさっと見ただけで、並んだ賞の中に低いものはなかったことに気づいた。
松本が言った。「これはうちの医学部の先輩、かっこいいでしょ?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小石の恋

キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。 助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。 なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。 果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

【完結】好きじゃないけど、付き合ってみる?

海野雫
BL
大学3年の直人(なおと)は、恋愛経験ゼロ。人付き合いは苦手ではないが、誰かを「好きになる」感情がよくわからない。付き合ってる友人たちを見ても、自分には縁のない話だと思っていた。 ある日、部活の後輩である健(けん)が「一緒にルームシェアしませんか?」と持ちかけてくる。引っ越しを考えていた直人は、悪くない条件にOKを出し、ふたりの同居生活が始まる。 快適すぎる日々。健は料理も掃除もできて、適度に距離を保ってくれる最高のルームメイト。
しかしある夜、健がポツリと呟く。 「……元カレ、まだ忘れられないんです」
「ねえ先輩。付き合ってみませんか?――“好きじゃなくてもいいから”」 からかわれていると思いながらも、冗談めかして了承してしまう直人。
それが、まさかの擬似恋人生活の始まりだった。 恋人ごっこなのに手をつないだり、映画を観に行ったり、肩を貸したり。
最初はただの遊びだったのに、直人はだんだん健が笑うと嬉しくて、泣くと苦しいと感じるようになっていく。 一方、健は「直人に本気になってはいけない」と自分に言い聞かせていたが、直人の優しさや真面目さに、次第に惹かれ始める。 擬似恋人から始まった関係は、本物の「好き」に変わるのか? 本気になったとき、ふたりはどう答えを出すのか――。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

未完成な僕たちの鼓動の色

水飴さらさ
BL
由人は、気が弱い恥ずかしがり屋の162cmの高校3年生。 今日も大人しく控えめに生きていく。 同じクラスになった学校でも人気者の久場くんはそんな由人に毎日「おはよう」と、挨拶をしてくれる。 嬉しいのに恥ずかしくて、挨拶も返せない由人に久場くんはいつも優しい。 由人にとって久場くんは遠く憧れの存在。 体育の時間、足を痛めた由人がほっとけない久場くん。 保健室で2人きりになり…… だいぶんじれじれが続きます。 キスや、体に触れる描写が含まれる甘いエピソードには※をつけてます。 素敵な作品が数多くある中、由人と久場くんのお話を読んで頂いてありがとうございます。 少しでも皆さんを癒すことができれば幸いです。 2025.0808

曖昧な関係

木嶋うめ香
BL
笹川蛍(ささがわけい)はリモートワーク勤務の会社員。 高校からの友達である中村拓(なかむらたく)と一緒に暮らしている。 会社支給のパソコンの交換のため久し振りに会社に出ていた蛍は、コンビニで明日の朝食用の食材と一緒に買ったコーヒーとドーナツを車の中で食べながら、拓と暮らす部屋ではドーナツなんて食べたことなかったなと気がついた。 Xのルクイユ・アートフェスティバル(@RecueilArtFest)様の素敵企画『ルクイユのおいしいごはんBL』に参加中です。

処理中です...