三ヶ月だけの恋人

perari

文字の大きさ
33 / 50

033

しおりを挟む
仁野に点滴を打つ若い看護師は、まだ年齢も若く、点滴をセットする間、何度もちらりと仁野を見ていた。仁野はそれに気付かないふりをし、礼儀正しくも冷淡に「ありがとうございます」とだけ言った。
看護師は少し笑って言った。「ひとりで来たのですか?もし何かあれば、いつでも呼んでくださいね。」
仁野は微笑んだだけで答えず、下を向いてスマホを見つめ、明らかに交流するつもりはなさそうだった。看護師は諦めてその場を離れた。
そのとき、仁野のスマホに松田からチョコレートケーキの写真が送られてきた。どうやらルームメイトの誕生日で、小さなケーキが分けられたらしい。
仁野は聞いた。「美味しかった?」
松田はすぐに返事した。「ちょっと甘すぎたかな。」
仁野は考え、点滴を受ける自分の手の写真を撮って送った。
松田はすぐに返信した。「どうしたの?」
その四文字から、仁野は焦っている気配を読み取れた。思わず笑みがこぼれ、頭を下げて返信した。「驚かせただけ、平気だよ。ちょっと熱があるだけ。」
松田はそれ以上の心配の言葉は送らず、ただ聞いた。「どの病院?」
仁野は一瞬戸惑った。松田が来ようとしていることに気づき、少し強めの口調で命じる。「松田、来ちゃダメ。」
松田はしばらく返事を送らず、ようやく小さなペンギンが座って泣いているスタンプを送ってきた。
仁野は少し口調を和らげ、安心させるように言った。「大丈夫、明日にはよくなるから。」
松田がそれ以上返さなかったので、仁野はスマホをしまった。
久しぶりの高熱で、頭の先から足先まで体は熱く、なのに何故か寒気を感じる。頭はぼんやり重く、喉は焼けるように痛み、呼吸も浅く重くなる。仁野は点滴を見上げ、まだしばらく時間がかかることを想像し、少し首を傾けて、冷たく硬い椅子の背に寄りかかり、意識が薄れゆく中で眠りに落ちていった。
仁野はぐっすり眠れてはいなかった。
点滴室には小さな子どもが何人もいて、夜になっても泣き止むことはなかった。仁野は夢を頻繁に見て、覚醒と夢の境を行き来していた。何の夢を見ていたのかもわからず、突然、足が空を踏むような感覚に襲われ、目を見開いた。
しばらく呼吸を整え、顔を上げると、最初の点滴はもうほとんど落ちきろうとしていた。仁野は手を挙げて合図すると、若い看護師が慌てて駆け寄り、点滴を交換してくれた。
仁野は仰向けのまま点滴の落ちる速度を眺め、少し苛立った様子で聞いた。「もう少し早くできませんか?」
看護師は首を振った。「この三本は早く落とせません。副作用が出る可能性があって、余計に辛くなります。」
仁野は眉をひそめつつも、仕方なく最低速度に設定されたまま任せた。
下を向き、スマホを見るともう八時を過ぎていた。子どもたちはほとんど落ち着き、時折の泣き声もすぐに収まる。点滴室の患者も付き添いも疲れ切った顔で、仁野の向かいに座る中年男性はすでにいびきをかいている。仁野は体温がなかなか下がらないのを感じ、こめかみが脈打つたびに神経が痛み、まるで斧で頭を割かれるようだった。
再び目を閉じて眠ろうとする。今度は少し深く眠れ、断片的な夢も見なかった。ぼんやりと眠る中、突然誰かが首に触れる感覚で目を覚まし、反射的に手を伸ばし、その手首をしっかり握った。
握りしめた手を見つめると、目の前には松田が立っていた。首枕を手に、少し落ち着かない様子で仁野を見ている。仁野は寝ぼけているのかと思い、目を閉じて再び開けた。やっと現実だと理解し、かすれた声で言った。「……松田?」
松田は緊張した表情で仁野を見下ろし、腰をかがめて謝った。「ごめん。」
仁野は微笑み、普段よりも低い声で言った。「最初の一言が謝罪か。」
松田は怒っていない様子に安心し、肩の力を抜いた。仁野は手首を離し、指で額をそっと揉む。松田は持ってきた首枕を仁野の首にかけ、手のひらを額にあてた。
仁野は少し後ろに仰け反り、松田の手のひんやりした感触を感じた。
松田は手を引っ込め、不安そうに言った。「まだ熱があるね。」
仁野は尋ねる。「どうしてここにいるってわかったの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

未完成な僕たちの鼓動の色

水飴さらさ
BL
由人は、気が弱い恥ずかしがり屋の162cmの高校3年生。 今日も大人しく控えめに生きていく。 同じクラスになった学校でも人気者の久場くんはそんな由人に毎日「おはよう」と、挨拶をしてくれる。 嬉しいのに恥ずかしくて、挨拶も返せない由人に久場くんはいつも優しい。 由人にとって久場くんは遠く憧れの存在。 体育の時間、足を痛めた由人がほっとけない久場くん。 保健室で2人きりになり…… だいぶんじれじれが続きます。 キスや、体に触れる描写が含まれる甘いエピソードには※をつけてます。 素敵な作品が数多くある中、由人と久場くんのお話を読んで頂いてありがとうございます。 少しでも皆さんを癒すことができれば幸いです。 2025.0808

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

【完結】好きじゃないけど、付き合ってみる?

海野雫
BL
大学3年の直人(なおと)は、恋愛経験ゼロ。人付き合いは苦手ではないが、誰かを「好きになる」感情がよくわからない。付き合ってる友人たちを見ても、自分には縁のない話だと思っていた。 ある日、部活の後輩である健(けん)が「一緒にルームシェアしませんか?」と持ちかけてくる。引っ越しを考えていた直人は、悪くない条件にOKを出し、ふたりの同居生活が始まる。 快適すぎる日々。健は料理も掃除もできて、適度に距離を保ってくれる最高のルームメイト。
しかしある夜、健がポツリと呟く。 「……元カレ、まだ忘れられないんです」
「ねえ先輩。付き合ってみませんか?――“好きじゃなくてもいいから”」 からかわれていると思いながらも、冗談めかして了承してしまう直人。
それが、まさかの擬似恋人生活の始まりだった。 恋人ごっこなのに手をつないだり、映画を観に行ったり、肩を貸したり。
最初はただの遊びだったのに、直人はだんだん健が笑うと嬉しくて、泣くと苦しいと感じるようになっていく。 一方、健は「直人に本気になってはいけない」と自分に言い聞かせていたが、直人の優しさや真面目さに、次第に惹かれ始める。 擬似恋人から始まった関係は、本物の「好き」に変わるのか? 本気になったとき、ふたりはどう答えを出すのか――。

神楽

立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。 ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。 彰也も近松に言っていない秘密があって……。

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

処理中です...