平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった

久遠翠

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第4話「体育祭と幸運のハプニング」

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 秋晴れの空の下、体育祭の喧騒がグラウンドに満ちていた。
 こういうイベントは、俺のような日陰者にとって苦痛でしかない。
 面倒事を避けるため、早々に『応援係』という名ばかりの役職を確保し、平穏を享受していたはずだった。

「大変だ! リレー選手の田中が、準備運動で足を捻った!」

 クラスメートの悲鳴が、俺のささやかな平穏を打ち破った。
 体育祭の目玉種目、クラス対抗リレー。アンカーを任されていた運動部エースの田中が、まさかの戦線離脱。
 代役を探して、クラスメイトたちの視線が右往左往する。
 もちろん、俺は全力で気配を消し、壁と同化しようと試みていた。

「どうしよう、アンカーなんて誰もやりたがらないよ…!」

「こうなったら、出席番号順で…あ、神谷!」

 最悪の形で、俺に白羽の矢が立った。

「いやいやいや、俺なんて無理だって! 運動神経皆無だぞ!?」

「もう誰でもいいんだよ! とにかく走ってくれ!」

 クラスの連中に無理やり背中を押され、俺は絶望的な気分でスタートラインに立たされた。
 周囲は各クラスのエースばかり。どう考えても俺が勝てるわけがない。
 ビリ確定だ。クラスのみんな、ごめん。

(こうなったら、せめて無様に転ばないことだけを祈ろう…)

 諦めと自己嫌悪で胸がいっぱいになったその時、俺は今朝のガチャを思い出した。
 期待など全くせずに引いた、今日のガチャ。

『Bランク:神速のランニングシューズ』

 足元に目をやると、いつも履いているくたびれたスニーカーが、いつの間にかシャープなデザインの、いかにも速そうなランニングシューズに変わっていた。
 いや、見た目だけかもしれない。Bランクだし、気休め程度だろう。

 各クラスのランナーが次々とバトンを繋ぎ、いよいよ俺の番が来た。
 三位でバトンを受け取る。トップとは絶望的な差が開いている。

「神谷ー! 頼むー!」

 クラスメイトの声援が痛い。俺は「どうにでもなれ」と半ばヤケクソで走り出した。

 その瞬間、世界が変わった。

 足が勝手に動く。
 地面を蹴るたびに、まるでバネが仕込まれているかのような推進力が生まれ、身体がぐんぐんと前に押し出される。
 周りの景色が、猛烈なスピードで後ろに流れていく。

「え、ちょ、速っ!?」

「なんだあれ!? 神谷だろ!?」

 観客席からの驚きの声が聞こえる。
 やる気なさそうにスタートした俺が、まるで短距離専門の選手のようなフォームで、前を走るランナーとの差をみるみるうちに縮めていく。

 第二コーナーを曲がる頃には二人目を抜き去り、残るはトップを走る陸上部のエースただ一人。
 あいつも驚いた顔で、必死に腕を振っている。だが俺の足は止まらない。

(うおおおおお、止まれえええ! こんなに目立ちたくないんだって!)

 俺の意思とは裏腹に、『神速のランニングシューズ』は最高のパフォーマンスを発揮し続ける。
 そして、ゴール手前数メートルでついにトップを捉え、僅差で追い抜き、一位でゴールテープを切ってしまった。

 グラウンドが割れんばかりの歓声とどよめきに包まれる。
 俺のクラスは狂喜乱舞のお祭り騒ぎだ。
 クラスメイトたちに担ぎ上げられ、胴上げされながら、俺は頭を抱えていた。

(終わった…完全に、俺の空気人生が終わった…)

 朦朧とする意識の中、ふと、トラックの向こう側でこちらをじっと見つめる視線に気づいた。
 月島凛だ。

 彼女は驚きもせず、ただ静かに、何かを確信したような目で俺を見ていた。
 その唇が微かに動く。読唇術は使えないが、何となく分かってしまった。

『――あの時の、尋常じゃない身体能力…やはり、彼が…?』

 そんな声が聞こえた気がした。
 彼女の勘違いスパイラルは、もう誰にも止められないところまで加速してしまっていた。
 俺は胴上げされながら、青い空を見上げて静かに涙した。
 俺の平凡よ、さようなら。
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