5 / 17
第4話「体育祭と幸運のハプニング」
しおりを挟む
秋晴れの空の下、体育祭の喧騒がグラウンドに満ちていた。
こういうイベントは、俺のような日陰者にとって苦痛でしかない。
面倒事を避けるため、早々に『応援係』という名ばかりの役職を確保し、平穏を享受していたはずだった。
「大変だ! リレー選手の田中が、準備運動で足を捻った!」
クラスメートの悲鳴が、俺のささやかな平穏を打ち破った。
体育祭の目玉種目、クラス対抗リレー。アンカーを任されていた運動部エースの田中が、まさかの戦線離脱。
代役を探して、クラスメイトたちの視線が右往左往する。
もちろん、俺は全力で気配を消し、壁と同化しようと試みていた。
「どうしよう、アンカーなんて誰もやりたがらないよ…!」
「こうなったら、出席番号順で…あ、神谷!」
最悪の形で、俺に白羽の矢が立った。
「いやいやいや、俺なんて無理だって! 運動神経皆無だぞ!?」
「もう誰でもいいんだよ! とにかく走ってくれ!」
クラスの連中に無理やり背中を押され、俺は絶望的な気分でスタートラインに立たされた。
周囲は各クラスのエースばかり。どう考えても俺が勝てるわけがない。
ビリ確定だ。クラスのみんな、ごめん。
(こうなったら、せめて無様に転ばないことだけを祈ろう…)
諦めと自己嫌悪で胸がいっぱいになったその時、俺は今朝のガチャを思い出した。
期待など全くせずに引いた、今日のガチャ。
『Bランク:神速のランニングシューズ』
足元に目をやると、いつも履いているくたびれたスニーカーが、いつの間にかシャープなデザインの、いかにも速そうなランニングシューズに変わっていた。
いや、見た目だけかもしれない。Bランクだし、気休め程度だろう。
各クラスのランナーが次々とバトンを繋ぎ、いよいよ俺の番が来た。
三位でバトンを受け取る。トップとは絶望的な差が開いている。
「神谷ー! 頼むー!」
クラスメイトの声援が痛い。俺は「どうにでもなれ」と半ばヤケクソで走り出した。
その瞬間、世界が変わった。
足が勝手に動く。
地面を蹴るたびに、まるでバネが仕込まれているかのような推進力が生まれ、身体がぐんぐんと前に押し出される。
周りの景色が、猛烈なスピードで後ろに流れていく。
「え、ちょ、速っ!?」
「なんだあれ!? 神谷だろ!?」
観客席からの驚きの声が聞こえる。
やる気なさそうにスタートした俺が、まるで短距離専門の選手のようなフォームで、前を走るランナーとの差をみるみるうちに縮めていく。
第二コーナーを曲がる頃には二人目を抜き去り、残るはトップを走る陸上部のエースただ一人。
あいつも驚いた顔で、必死に腕を振っている。だが俺の足は止まらない。
(うおおおおお、止まれえええ! こんなに目立ちたくないんだって!)
俺の意思とは裏腹に、『神速のランニングシューズ』は最高のパフォーマンスを発揮し続ける。
そして、ゴール手前数メートルでついにトップを捉え、僅差で追い抜き、一位でゴールテープを切ってしまった。
グラウンドが割れんばかりの歓声とどよめきに包まれる。
俺のクラスは狂喜乱舞のお祭り騒ぎだ。
クラスメイトたちに担ぎ上げられ、胴上げされながら、俺は頭を抱えていた。
(終わった…完全に、俺の空気人生が終わった…)
朦朧とする意識の中、ふと、トラックの向こう側でこちらをじっと見つめる視線に気づいた。
月島凛だ。
彼女は驚きもせず、ただ静かに、何かを確信したような目で俺を見ていた。
その唇が微かに動く。読唇術は使えないが、何となく分かってしまった。
『――あの時の、尋常じゃない身体能力…やはり、彼が…?』
そんな声が聞こえた気がした。
彼女の勘違いスパイラルは、もう誰にも止められないところまで加速してしまっていた。
俺は胴上げされながら、青い空を見上げて静かに涙した。
俺の平凡よ、さようなら。
こういうイベントは、俺のような日陰者にとって苦痛でしかない。
面倒事を避けるため、早々に『応援係』という名ばかりの役職を確保し、平穏を享受していたはずだった。
「大変だ! リレー選手の田中が、準備運動で足を捻った!」
クラスメートの悲鳴が、俺のささやかな平穏を打ち破った。
体育祭の目玉種目、クラス対抗リレー。アンカーを任されていた運動部エースの田中が、まさかの戦線離脱。
代役を探して、クラスメイトたちの視線が右往左往する。
もちろん、俺は全力で気配を消し、壁と同化しようと試みていた。
「どうしよう、アンカーなんて誰もやりたがらないよ…!」
「こうなったら、出席番号順で…あ、神谷!」
最悪の形で、俺に白羽の矢が立った。
「いやいやいや、俺なんて無理だって! 運動神経皆無だぞ!?」
「もう誰でもいいんだよ! とにかく走ってくれ!」
クラスの連中に無理やり背中を押され、俺は絶望的な気分でスタートラインに立たされた。
周囲は各クラスのエースばかり。どう考えても俺が勝てるわけがない。
ビリ確定だ。クラスのみんな、ごめん。
(こうなったら、せめて無様に転ばないことだけを祈ろう…)
諦めと自己嫌悪で胸がいっぱいになったその時、俺は今朝のガチャを思い出した。
期待など全くせずに引いた、今日のガチャ。
『Bランク:神速のランニングシューズ』
足元に目をやると、いつも履いているくたびれたスニーカーが、いつの間にかシャープなデザインの、いかにも速そうなランニングシューズに変わっていた。
いや、見た目だけかもしれない。Bランクだし、気休め程度だろう。
各クラスのランナーが次々とバトンを繋ぎ、いよいよ俺の番が来た。
三位でバトンを受け取る。トップとは絶望的な差が開いている。
「神谷ー! 頼むー!」
クラスメイトの声援が痛い。俺は「どうにでもなれ」と半ばヤケクソで走り出した。
その瞬間、世界が変わった。
足が勝手に動く。
地面を蹴るたびに、まるでバネが仕込まれているかのような推進力が生まれ、身体がぐんぐんと前に押し出される。
周りの景色が、猛烈なスピードで後ろに流れていく。
「え、ちょ、速っ!?」
「なんだあれ!? 神谷だろ!?」
観客席からの驚きの声が聞こえる。
やる気なさそうにスタートした俺が、まるで短距離専門の選手のようなフォームで、前を走るランナーとの差をみるみるうちに縮めていく。
第二コーナーを曲がる頃には二人目を抜き去り、残るはトップを走る陸上部のエースただ一人。
あいつも驚いた顔で、必死に腕を振っている。だが俺の足は止まらない。
(うおおおおお、止まれえええ! こんなに目立ちたくないんだって!)
俺の意思とは裏腹に、『神速のランニングシューズ』は最高のパフォーマンスを発揮し続ける。
そして、ゴール手前数メートルでついにトップを捉え、僅差で追い抜き、一位でゴールテープを切ってしまった。
グラウンドが割れんばかりの歓声とどよめきに包まれる。
俺のクラスは狂喜乱舞のお祭り騒ぎだ。
クラスメイトたちに担ぎ上げられ、胴上げされながら、俺は頭を抱えていた。
(終わった…完全に、俺の空気人生が終わった…)
朦朧とする意識の中、ふと、トラックの向こう側でこちらをじっと見つめる視線に気づいた。
月島凛だ。
彼女は驚きもせず、ただ静かに、何かを確信したような目で俺を見ていた。
その唇が微かに動く。読唇術は使えないが、何となく分かってしまった。
『――あの時の、尋常じゃない身体能力…やはり、彼が…?』
そんな声が聞こえた気がした。
彼女の勘違いスパイラルは、もう誰にも止められないところまで加速してしまっていた。
俺は胴上げされながら、青い空を見上げて静かに涙した。
俺の平凡よ、さようなら。
184
あなたにおすすめの小説
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる