王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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秘密基地の王太子妃

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テオドールは鍛錬で心地よい汗を流し、心身ともに爽快となりフリードリヒの待つ執務室へ戻る所、前方に辺りを見渡しながら何やら案じている王太子妃クラリスを見つけた。

クラリスの挙動不審は明らかでテオドールは眉をひそめた。

…王太子妃とはいえ、先日までは他国の王女…何をしてるのだ?

クラリスはテオドールに気付く事なく使用人が使う整備されていないバラ園の奥の道をこれまた似つかわしくない装いで入って行く。

…つうか、目立ちすぎだろ?一応お忍びのつもりか?フィリップスから伝え聞いた王太子妃像とは掛け離れ、もはや脳なしか?

テオドールは面倒くさそうに、それでも致し方なくクラリスの後を追った。

クラリスは宮殿の裏まで来ると、またも辺りを警戒しながら足早に進んでいくと、柵の前で立ち止まり口笛を吹いた。

『ピューピラ~ピューピラ♬』

…小鳥でも飛んでくっか?

テオドールは半分呆れながら空を見上げると柵の前まで2匹の犬がやってきた。クラリスは懐から何やら取り出すと柵から手を出し犬に話しかけながら与えていた。

…餌付けか?つうかアホくさっ

テオドールは緊張が消えると一気に疲れが襲ってきた。

『妃殿下、こんな所で何を?』

テオドールが不意に声を掛けるとクラリスはテオドールさえも驚くほど飛び上がると目を見開きテオドールを見た。

『…貴方こそ何を?』

やっとの思いで絞り出した声にテオドールは不思議そうにクラリスを見る。

…何をそんなに驚く?

クラリスは頭を逡巡させながらもテオドールに笑顔を向けると

『だって一応、王太子妃となったのよ?こんな所で犬と遊んでる所を見られるなんて思ってもみなかったから。』

…それはこっちのセリフな?つうか犬と何してんだよ。

『妃殿下、戻りましょう。』

テオドールはこのまま放おっておくわけにもいかずクラリスを促すと

『ここまで来たついでに、ちょっと寄り道しない?』

…ここまできたついでにって、もはや今こそが俺にとっては寄り道な?

テオドールが睨みつけるとクラリスは

『嫌なら貴方は戻っていいのよ?』

…。

テオドールは不服ながらクラリスの後をトボトボと追った。

…やれやれ勘弁してくれよ。

広い王宮の裏には木が生茂る森がある。その森をクラリスは慣れたように進んで行くと、小さな小屋が見えてきた。

…あれは…確か。

テオドールは古い記憶を辿りながらクラリスの後を付いていく。やがてクラリスはその小屋の前まで来るとクルリと振り返りテオドールに無邪気な笑顔を向けた。

…!

この小屋は幼き頃、今は亡き先代の国王がどこやらの姫に恩義を受けた暁に秘密基地として贈ったと言われる小屋である。まるでおとぎ話に出てくるような小さな小屋で幼いテオドールらは興味津々であったがこの小屋には入る事は許されては居なかった。

その小屋の鍵は、幼いどこぞやらの姫のみが持つものであったのだ。その鍵を今目の前でクラリスが開けようとしているのだ。

…まさか?

『テオドール、さぁ貴方もどうぞ?』

小さな小屋だ。若い男女がこの狭い密室云々よりも、この時のテオドールは幼き頃に覚えた憧れの秘密基地への入口を入らずにはいられなかった。

テオドールは恐る恐る小屋へ足を踏み入れた。 そこはまるで、おとぎ話の世界がそのまま飛び出したような空間だった。

「どう? おとぎ話の中みたいでしょう?」

クラリスは窓を開け、柔らかな風を通すと、小さなテーブルへテオドールを促す。

「貴方は……」

テオドールは言葉が続かず、口をぱくぱくさせるだけ。

クラリスはくすりと笑って言った。

「むかしむかしの話よ。幼い頃、よくランズ王国に来ていたの。非公式でね? 細かいことは割愛するけど、ここは先代国王から賜った場所なの」

……割愛しすぎだろ。全然わからん。

混乱する頭を整理する暇もなく、ふと後ろに広がる大量の刺繍ハンカチに目が止まった。

「……あれは?」

クラリスは少し考えたのち、非常にシンプルに答えた。

「ハンカチよ?」

「それは分かります。見たところ全部、真新しいですね。妃殿下はいつもここで?」

「ま、まあね。ほら、暇してるでしょ。暇つぶしよ、暇つぶし」

テオドールは床いっぱいに並んだハンカチを不思議そうに眺め、せっせと並べ直すクラリスの後ろ姿をただ見つめるしかなかった。

テオドールは、小さな椅子に座り続けてすでにかなりの時間が経っていた。

……ってか、まだ終わらないの?

クラリスは無心で糸を刺し続けている。背中に刺さるテオドールの怪訝な視線にも一切気づいていない。

……もう“ハンカチ屋”でも開いたほうがよくない?

テオドールが一枚のハンカチを手に取ると、ちょうどクラリスが区切りを迎えたのか、ぱたんと手を止めた。

「はぁ~……疲れたわ。今日はこのくらいにしておくかしら」

首をこきこき鳴らし、大きく伸びをする。

小屋を出た頃には、森はすでに夕闇に染まり始めていた。テオドールは額を押さえながら周囲を警戒し、クラリスを連れて森を抜ける。

「そんなに困り果てた顔しなくて大丈夫よ」

お気楽極まりないクラリスとは裏腹に、テオドールの眉間には深いしわが刻まれていた。

……フリードに何て言おう?
“執務室を数時間空けて、おとぎの国で妃殿下と仲良くしてました”って言えるわけねぇだろ……

テオドールの心の声を読んだかのように、クラリスはケラケラと笑う。

「お前の嫁と逢引してたって言っとけばいいじゃない?」

「っ……!!」

テオドールはひっくり返りそうになるほど仰け反った。
クラリスはその反応を楽しそうに眺めながら、スキップ混じりに、ひとり先へと王宮へ戻っていく。

……ったく、勘弁してくれ。
ってか人が変わりすぎじゃね? あんなだったか……?

大きくひとつ息を吐き、
テオドールはようやくフリードリヒの待つ執務室へ戻って行ったのであった。
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