8 / 85
危険な街角、囚われの王太子妃
しおりを挟む
クラリスが馬車へ乗り込み、扉が閉まるのを待っていると──
閉まるより早く、その隙間からテオドールが滑り込むように乗り込んできた。
「っ……!」
驚愕と嫌悪が同時に浮かぶクラリス。
対するテオドールも、隠す気ゼロの嫌悪を顔に貼りつけながら向かいの席に腰を下ろした。
「ちょっと! 何をしれっと乗り込んできているのよ!」
……いや、それはこっちの台詞なんだが?
「待って。フィリップスならまだ分かるわよ?
あなたは“殿下の側近”でしょう。読んで字の如く、殿下の側にいなさい!」
「妃殿下。あなたが“公務”でお出かけになるのならフィリップスが同行したでしょう。
しかし、これは“プライベート”でのお出かけですよね?」
「だからって、あなたが来る必要はないでしょう?
護衛なら、ほら……三羽ガラスの一人にいたじゃない。あのガタイのいい……なんて名前だったかしら? もう一人!」
「……三羽ガラス?」
テオドールは眉をひそめ、少し考えてからため息を吐く。
「まさかランドールのことですか?
彼は我が国が誇る騎士団を束ねる“騎士団長”です。
普段は国のために前線で動くべき人材ですよ」
「何? つまり“私を守るには役不足”ってこと?」
「いかにも」
……。
返す言葉を失うクラリス。
そして最初から最後まで不機嫌なテオドール。
そんな二人を乗せ、馬車は無情にも走り出した。
*
「ねえ。なんであなたが機嫌悪いのよ?」
「別に」
……むっかつく男ね。
「言っておくけど、私はこう見えて護身術に長けているの。
だから足手まといにだけはならないようにね?」
テオドールは沈黙したまま、視線ひとつ向けない。
……無視? いい度胸してるわね。
クラリスは諦めて窓の外の景色を眺めながら、ほどなくしてウトウトと眠りに落ちていった。
*
どれほど時間が経っただろう。
重いまぶたをゆっくり持ち上げると──真正面から刺さる視線がある。
「な、何よ?」
テオドールが鬼のような形相で睨んでいた。
「とっくに到着しております。
あまりにも幸せそうに熟睡されていたので起こすのをためらいましたが」
……熟睡って! いや起こしなさいよ!
クラリスも負けじと睨み返す。
テオドールはため息ひとつ落とすと、先に馬車を降りクラリスへ手を差し出した。
……。
クラリスは渋々その手を取って馬車から降り立つ。
彼女は慣れた足取りで歩き出し、テオドールはその五メートル後方を一定の距離を保ってついていく。
長く歩き、スラム街の入口にたどり着くと、クラリスは一切ためらわず門をくぐった。
その瞬間だった。
テオドールが裏路地へ足を踏み入れるより早く──
空から、影から、幾つもの黒ずくめの男たちが一斉に襲いかかる。
「──っ!」
クラリスが悲鳴を上げる間もなく、口元に布が押し当てられた。
強烈な薬品の匂い。身体から力が抜ける。
何か言おうとした唇が震えるが、声にはならなかった。
次の瞬間、クラリスの意識は闇に沈んだ。
閉まるより早く、その隙間からテオドールが滑り込むように乗り込んできた。
「っ……!」
驚愕と嫌悪が同時に浮かぶクラリス。
対するテオドールも、隠す気ゼロの嫌悪を顔に貼りつけながら向かいの席に腰を下ろした。
「ちょっと! 何をしれっと乗り込んできているのよ!」
……いや、それはこっちの台詞なんだが?
「待って。フィリップスならまだ分かるわよ?
あなたは“殿下の側近”でしょう。読んで字の如く、殿下の側にいなさい!」
「妃殿下。あなたが“公務”でお出かけになるのならフィリップスが同行したでしょう。
しかし、これは“プライベート”でのお出かけですよね?」
「だからって、あなたが来る必要はないでしょう?
護衛なら、ほら……三羽ガラスの一人にいたじゃない。あのガタイのいい……なんて名前だったかしら? もう一人!」
「……三羽ガラス?」
テオドールは眉をひそめ、少し考えてからため息を吐く。
「まさかランドールのことですか?
彼は我が国が誇る騎士団を束ねる“騎士団長”です。
普段は国のために前線で動くべき人材ですよ」
「何? つまり“私を守るには役不足”ってこと?」
「いかにも」
……。
返す言葉を失うクラリス。
そして最初から最後まで不機嫌なテオドール。
そんな二人を乗せ、馬車は無情にも走り出した。
*
「ねえ。なんであなたが機嫌悪いのよ?」
「別に」
……むっかつく男ね。
「言っておくけど、私はこう見えて護身術に長けているの。
だから足手まといにだけはならないようにね?」
テオドールは沈黙したまま、視線ひとつ向けない。
……無視? いい度胸してるわね。
クラリスは諦めて窓の外の景色を眺めながら、ほどなくしてウトウトと眠りに落ちていった。
*
どれほど時間が経っただろう。
重いまぶたをゆっくり持ち上げると──真正面から刺さる視線がある。
「な、何よ?」
テオドールが鬼のような形相で睨んでいた。
「とっくに到着しております。
あまりにも幸せそうに熟睡されていたので起こすのをためらいましたが」
……熟睡って! いや起こしなさいよ!
クラリスも負けじと睨み返す。
テオドールはため息ひとつ落とすと、先に馬車を降りクラリスへ手を差し出した。
……。
クラリスは渋々その手を取って馬車から降り立つ。
彼女は慣れた足取りで歩き出し、テオドールはその五メートル後方を一定の距離を保ってついていく。
長く歩き、スラム街の入口にたどり着くと、クラリスは一切ためらわず門をくぐった。
その瞬間だった。
テオドールが裏路地へ足を踏み入れるより早く──
空から、影から、幾つもの黒ずくめの男たちが一斉に襲いかかる。
「──っ!」
クラリスが悲鳴を上げる間もなく、口元に布が押し当てられた。
強烈な薬品の匂い。身体から力が抜ける。
何か言おうとした唇が震えるが、声にはならなかった。
次の瞬間、クラリスの意識は闇に沈んだ。
0
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
シナモンと葡萄酒と白銀の魔杖
柳葉うら
恋愛
リーツェル王国の王都の片隅に、夜の間だけ現れるカフェがある。
名前はカフェ銀月亭。店主のエーファは元・氷晶の賢者こと王国最高峰の魔法使い。彼女が早過ぎる引退後に開いた、一風変わった店だ。
エーファは看板フェンリルのシリウスと一緒に店をきりもりするかたわら、大切な「お嬢様」を国外追放した忌々しい王太子に復讐するべく暗躍している。
ある日、エーファと年が近く顔見知りの騎士団長のランベルト・フォン・ロシュフォールが店を訪れた。
エーファの行動を訝しんだランベルトは、見張りのために毎日来るようになる。それに気づいたエーファだが、ランベルトから情報を引き出すためにわざと彼に近づき――腹の探り合いが始まった。
警戒し合っていた二人が、交流を重ねていく間に恋に落ちてしまうお話です。
エーファがカフェで出すスパイスが効いたお菓子やホットワイン、そして頼もしいモフモフ相棒の活躍もお楽しみください。
※アドベントカレンダーとして毎日更新する予定ですので応援いただけますと嬉しいです
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる