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第十四章 彼と結ばれた
①
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ドアを開けると泣いている私を見て、東條さんが問いかけた。
「どうなさいましたか」
「寂しくて、悲しくて、助けて」
そんな私のただ事ではない様子に、東條さんは思わず私を抱きしめた。
この時私の精神状態は大きく崩れていた。
抱きしめてくれた東條さんを彼だと思い「蓮、蓮」と叫び、東條さんの胸に顔を埋めた。
東條さんはしばらく私を抱きしめたままでいてくれた。私はやっと我に帰り、東條さんに縋っている事実に気づいた。
「ごめんなさい、私……」
「大丈夫です、自分の方こそ理性を失いました、社長に手を出すなと言われていたのに、自分は首ですね」
「蓮さんには言わないでください、心配しますので」
「かしこまりました」
「もう戻ってください、あまり永い時間だと蓮さんが変に思います」
「奥様を一人残して帰れません」
その時東條さんのスマホが鳴った。
「はい東條です」
『美希の様子はどうだ』
「大丈夫です」
『じゃあ戻ってこい』
「今はまだ戻れません」
『何故だ』
「お答え出来ません」
『美希に変わってくれ』
「はい、お疲れ様です」
『大丈夫か』
「大丈夫です、ご心配には及びません」
『今日は泊りだ』
「はい、わかりました」
彼からの電話は切れた。
「大丈夫ですよ、もう戻ってください」
私は東條さんに告げた。
その時ドアが開き、彼が入って来た。
「美希」
「蓮さん、どうしたんですか」
「東條、説明しろ」
「自分がここに着いた時、奥様は泣いて取り乱していました、自分はそんな奥様をそのままの状態には出来ず抱きしめました」
「美希、何があった、俺に言ってくれ、何故俺じゃなく東條に抱きしめて貰ったんだ」
「社長、それは違います」
「お前に聞いてない、美希に聞いてるんだ」
「寂しくて、悲しくて、なんかわからなくなって東條さんを蓮さんと間違えたんです」
「何故寂しく、悲しくなったんだ、俺が忙しいからか」
「それもあります、でもそれだけじゃなく、週刊誌のモデルの方に嫉妬しました、すごく嫌だったんです」
「俺は美希に説明したよな、二人で食事に行ったんじゃないと」
「わかっています、でもなんか嫌だったんです」
涙が溢れて止まらない、彼はそんな私を抱きしめてくれた。
「東條、俺は今日は社には戻らない、明日から定時で帰る、休みも取る、了解してくれ」
「かしこまりました」
「それから、東條、俺の言いつけ守らなかっただろ、美希に手を出すなと言ったはずだ、覚悟はいいか」
「はい、辞表書きます」
「辞める必要はない、俺が困る、仕事でミスしたわけでは無いからな」
「では何を覚悟すればよろしいのでしょうか」
「一発殴らせろ」
えっ?ちょっと待って、私が悪いのに東條さんが殴られるなんて……
そう心の中で思ったが、二人の間に入れる雰囲気ではなかった。
「歯を食いしばれ、いくぞ」
私は咄嗟に自分の顔を手で隠した。
ドンと鈍い音がして、「痛え」と彼の声が響いた。
彼は壁を殴ったのだ。
「社長、大丈夫ですか」
「大丈夫じゃねえよ、まっ俺が頼んだのが悪いからな」
「申し訳ありませんでした、自分は社に戻ります」
「東條さん、ご迷惑かけてすみませんでした」
「大丈夫です、奥様のお役に立てれば嬉しいですから、では失礼いたします」
東條さんは社に戻った。
私の方から彼に抱きついた、そして二人はキスをした。
彼は私を抱きかかえ、ベッドへ運んだ。
首筋に彼の熱い息がかかる、思わず声が漏れた。
「俺を受け入れろ、美希、お前を愛してる」
その夜彼と結ばれた。
「美希、俺はすげ?満足したぞ、ずっと朝までこうしていたい、もうお前を離さない、わかったか」
「はい」
「よし、いい子だ」
彼は私の頭をポンポンしてくれた。
程なくして、彼の父親が天に召された。
急な病気の悪化により、この世を去った。
商店街の方々にも、葬儀に参列して貰い、滞りなく無事に葬儀は済んだ。
「親父さんは幸子さんの元に旅立ったんだな」
商店街の八百屋のご主人がポツリと呟いた。
「仲が良かったからな」
「色々とお世話になりました」
「それはこっちのセリフだよ、親父さんの葬儀にまで呼んで貰って、ありがとうな」
「これからも美希がお世話になると思いますので、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
「どうなさいましたか」
「寂しくて、悲しくて、助けて」
そんな私のただ事ではない様子に、東條さんは思わず私を抱きしめた。
この時私の精神状態は大きく崩れていた。
抱きしめてくれた東條さんを彼だと思い「蓮、蓮」と叫び、東條さんの胸に顔を埋めた。
東條さんはしばらく私を抱きしめたままでいてくれた。私はやっと我に帰り、東條さんに縋っている事実に気づいた。
「ごめんなさい、私……」
「大丈夫です、自分の方こそ理性を失いました、社長に手を出すなと言われていたのに、自分は首ですね」
「蓮さんには言わないでください、心配しますので」
「かしこまりました」
「もう戻ってください、あまり永い時間だと蓮さんが変に思います」
「奥様を一人残して帰れません」
その時東條さんのスマホが鳴った。
「はい東條です」
『美希の様子はどうだ』
「大丈夫です」
『じゃあ戻ってこい』
「今はまだ戻れません」
『何故だ』
「お答え出来ません」
『美希に変わってくれ』
「はい、お疲れ様です」
『大丈夫か』
「大丈夫です、ご心配には及びません」
『今日は泊りだ』
「はい、わかりました」
彼からの電話は切れた。
「大丈夫ですよ、もう戻ってください」
私は東條さんに告げた。
その時ドアが開き、彼が入って来た。
「美希」
「蓮さん、どうしたんですか」
「東條、説明しろ」
「自分がここに着いた時、奥様は泣いて取り乱していました、自分はそんな奥様をそのままの状態には出来ず抱きしめました」
「美希、何があった、俺に言ってくれ、何故俺じゃなく東條に抱きしめて貰ったんだ」
「社長、それは違います」
「お前に聞いてない、美希に聞いてるんだ」
「寂しくて、悲しくて、なんかわからなくなって東條さんを蓮さんと間違えたんです」
「何故寂しく、悲しくなったんだ、俺が忙しいからか」
「それもあります、でもそれだけじゃなく、週刊誌のモデルの方に嫉妬しました、すごく嫌だったんです」
「俺は美希に説明したよな、二人で食事に行ったんじゃないと」
「わかっています、でもなんか嫌だったんです」
涙が溢れて止まらない、彼はそんな私を抱きしめてくれた。
「東條、俺は今日は社には戻らない、明日から定時で帰る、休みも取る、了解してくれ」
「かしこまりました」
「それから、東條、俺の言いつけ守らなかっただろ、美希に手を出すなと言ったはずだ、覚悟はいいか」
「はい、辞表書きます」
「辞める必要はない、俺が困る、仕事でミスしたわけでは無いからな」
「では何を覚悟すればよろしいのでしょうか」
「一発殴らせろ」
えっ?ちょっと待って、私が悪いのに東條さんが殴られるなんて……
そう心の中で思ったが、二人の間に入れる雰囲気ではなかった。
「歯を食いしばれ、いくぞ」
私は咄嗟に自分の顔を手で隠した。
ドンと鈍い音がして、「痛え」と彼の声が響いた。
彼は壁を殴ったのだ。
「社長、大丈夫ですか」
「大丈夫じゃねえよ、まっ俺が頼んだのが悪いからな」
「申し訳ありませんでした、自分は社に戻ります」
「東條さん、ご迷惑かけてすみませんでした」
「大丈夫です、奥様のお役に立てれば嬉しいですから、では失礼いたします」
東條さんは社に戻った。
私の方から彼に抱きついた、そして二人はキスをした。
彼は私を抱きかかえ、ベッドへ運んだ。
首筋に彼の熱い息がかかる、思わず声が漏れた。
「俺を受け入れろ、美希、お前を愛してる」
その夜彼と結ばれた。
「美希、俺はすげ?満足したぞ、ずっと朝までこうしていたい、もうお前を離さない、わかったか」
「はい」
「よし、いい子だ」
彼は私の頭をポンポンしてくれた。
程なくして、彼の父親が天に召された。
急な病気の悪化により、この世を去った。
商店街の方々にも、葬儀に参列して貰い、滞りなく無事に葬儀は済んだ。
「親父さんは幸子さんの元に旅立ったんだな」
商店街の八百屋のご主人がポツリと呟いた。
「仲が良かったからな」
「色々とお世話になりました」
「それはこっちのセリフだよ、親父さんの葬儀にまで呼んで貰って、ありがとうな」
「これからも美希がお世話になると思いますので、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
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