両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚

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 皇太子妃候補の教育を黙々とこなしていたある日、初めて皇太子殿下がオールフォーワン侯爵家にいらした。
 私が16歳、オフィーリアが13歳の時のことだった。
 私の16歳の誕生日パーティーにと、皇太子殿下がかけつけてくれたのだ。
 
「ようこそお越しくださいました。ジュドー殿下。」

「ああ。エレノア嬢。16歳の誕生日おめでとう。」

 王宮の馬車で現れたジュドー殿下は、白を基調とした豪華な金の飾り付けがされている馬車から降りると、手慣れた手つきで私に真っ白なバラの花束を差し出した。
 
「ありがとうございます。」

 私は、ジュドー殿下から贈られたバラの花束を大切そうに受け取り、バラの花の香りを楽しむ。
 
「気に入ってくれたかい?今年は、君の年の数にしたんだよ。」

「ええ。とても良い香りです。部屋に飾り大切にさせていただきますわ。」

「そうか。気に入ってくれたようで嬉しいよ。」

 ジュドー殿下は三か月後にお誕生日を迎えられる。
 正式に婚約者を定める18歳の誕生日だ。
 つまり、三か月後ジュドー皇太子殿下の婚約者が正式に決定するのだ。
 今まで好きなことをすべて我慢して皇太子妃教育にすべてを捧げてきた私にとってそれは重大な出来事になる。今までの努力の結果が実を結ぶか、それとも泡に消えるか。
 それは私の大きな変換点となるだろう。
 それは私だけでなく、3人いるジュドー殿下の皇太子妃候補たちも同じだろう。
 
「お初におめにかかります。ジュドー様。」

 ジュドー殿下と差しさわりのない会話をしていると、オフィーリアが私たちの間に割って入ってきた。
 
「こちらは?」

 ジュドー殿下はにこやかな表情のまま、私に尋ねる。
 
「私の妹のオフィーリアでございます。今年13歳になりましたの。」

「オフィーリアと申します。よろしくお願いいたします。」

 オフィーリアは深々とジュドー殿下にお辞儀をした。
 まだ少し硬さはあるけれど、最近習い始めた礼儀作法を披露する様子はとてもほほえましいものだ。

「ああ。よろしく頼む。君は姉妹なのにエレノア嬢とはずいぶん雰囲気が違うね。エレノア嬢は静かな月のように辺りを映し出す光だとすれば、君は誰もが羨む太陽のようだ。」

「まあ。ジュドー様ったら。」

 オフィーリアはジュドー殿下の言葉に太陽のように輝くように笑った。
 ジュドー殿下も太陽のような人だ。
 誰に対しても明るく接するようすは、太陽が人々を温かく見守っていてくれるようにも思える。傍にいるだけで、ジュドー殿下の熱に誰もが焦がれるのだ。
 それに、ジュドー殿下もオフィーリアも同じ輝くような金髪をしている。ジュドー殿下とオフィーリアが並ぶと、私とオフィーリアが姉妹というよりも、ジュドー殿下とオフィーリアが兄妹だという方があっているかもしれない。
 二人が並び立つ様は、とても眩しく見えた。





☆☆☆☆☆




「お姉さま。ジュドー様ってとても素敵ね。ジュドー様の婚約者になれるお姉さまがうらやましいわ。」

 ジュドー殿下が帰宅した後、私の部屋に入ってきたオフィーリアが開口一番にそう言った。
 オフィーリアはまるで熱病にかかったかのように、頬を蒸気させ目を潤ませている。私を見ているようで、どこか遠くをみているようなオフィーリアの視線は、オフィーリアがジュドー殿下に恋をしたのだと私に悟らせた。
 
「……私はまだジュドー殿下の婚約者ではないわ。あくまで婚約者候補なのよ。」

「いいえ。三人の候補者の中だったら絶対お姉さまが一番よ。もう決まっているわ。家柄も容姿もお姉さまが三人の中で一番良いもの。」

「そう。ありがとう。」

 オフィーリアは声に力を込めてそう言った。
 私以外の候補者はオフィーリアと同い年で、交流もある。
 オフィーリアは他の候補者とも面識があるので説得力は高いと思う。
 オフィーリアにジュドー殿下の妃として相応しいと言われているようで嬉しくてくすぐったくなる。
 でも……と私は思い至る。年齢的にはオフィーリアが皇太子妃候補となってもおかしくはないのだ。年齢的にも家柄的にも。
 オフィーリアが候補に選ばれなかった理由はただ一つ。オールフォーワン侯爵家にはオフィーリアが産まれるよりも先に私が産まれたからだ。一つの家から二人の候補者を出すことは、まずない。
 私がいなければ、オフィーリアは皇太子妃候補になることができたのだ。
 そう思い至って私は表情を曇らせる。

「ふふっ。私もお父様とお母様におねだりしてみようかしら。お姉さま、いいかしら?」

 無邪気にそう問いかけてくるオフィーリアは、私の答えを待つよりも早く私の部屋から足早に去っていった。うきうきとした足取りだったので、きっとお父様とお母様の元におねだりに行ったのだろう。
 お父様とお母様はオフィーリアのおねだりをきかなかったことはない。
 もしかすると、今回も……と、私は憂鬱なため息を一つついた。


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