悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚

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本編

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あれは私が15才の頃だったわ。

庭を散歩していたら見つけたのよ。

可愛い茶トラの猫を。

花壇の隅にちょこんと座って、花壇を飛んでいる白い蝶をジッと見つめていたの。

どこから迷い込んだのかわからないけど、初めて猫という動物を見た時の衝撃は忘れないわ。

まあるい瞳を限界まで開いて、ジッと蝶を見つめる茶トラの猫。

体格的には成猫と思われる。

好奇心を刺激されてか、長い尻尾がピンッと上向いている。

トラ柄の尻尾の先っぽ白くなっているのが良く目立つ。

ちなみに、靴下を履いたように足先も白くなっていた。

「可愛いわ。可愛い可愛いと言われている私よりこの猫は可愛いわ。あら、私ってもしかしてそんなに可愛くないのかしら?だって、この猫の方が可愛いもの。」

私は人知れず独り言を吐いた。

この屋敷に住み込みで働いている使用人たちは私をみると可愛い可愛いと言ってくれる。私の両親もしかり。

だから、私も自分のことはこの世の天使のごとく可愛いのだと思っていた。

だけれども、違った。

上には上がいるということを思い知らされた。

艶々に光っている茶色の毛並み。

真新しい雪のように真っ白な足先。

触ったらどんなに素晴らしい感触がするだろうか。

そっと自分の自慢のベビーブロンドの髪に触れた。

さらりとした手触りは侍女が丁寧に香油を塗ってくれているからこそ得られるものだ。

それがどうだろう。

目の前にいる可愛らしい猫は、きっと香油なんて塗られてはいないだろう。

それなのにも関わらず艶々と光る毛並みはきっと私の髪の毛よりも手触りがいいのだろう。

さわりたい。

さわってその感触を確かめたい。

そして、モフってモフってそのふかふかな毛並みに顔を埋めたい。

それは、どんなに気持ちのいいことだろうか。

想像するだけで、思わず生唾を飲んでしまった。

思わず手が可愛らしい猫に向かって伸びてしまう。

ただ、まだ距離があるので猫は蝶に夢中で私には気づいていないようだ。

そろりそろりと足音を忍ばせて猫の元に向かう。

猫に触れるほど近づいても猫は蝶に夢中でまだ私には気づかない。

これは、猫を触るチャンスだろうか。

うん。チャンスだろう。

またとないチャンスだ。

是非ともモフらなければ。

そう思って猫に向かって手を伸ばして、ついに触れるぞ!という瞬間に猫がこちらを振り向いた。

まんまるな猫の瞳と私の瞳がバチッと重なり合った。

その瞬間、私の頭の中に電撃が走った。

そうして、たくさんの情報の波が私に押し寄せる。

そう、私が過ごした過去の記憶がいっきに押し寄せてきたのだ。

私はその情報量の多さに脳が処理をしきれず思わず意識を遠のかせたのだった。

ああ・・・。せっかく猫に触れる機会だったのに。

モフモフ・・・。

 

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