断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚

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「……シルキーはただの猫のはずよ。それに、これは聖なる結界だわ。つまり聖なる力を持つものだけが張れる結界。」

「聖なる……結界?」

 ユリアさんはゆっくりと頷いた。

 聖なる結界は王族に近い者だけが使える魔術だ。

「王族の方が助けてくださったの……?」

 私はユリアさんに問いかける。だけど、ユリアさんは首を横に振った。

「違うわ。聖なる結界は本当は王の妃になる者だけが使える魔術。王の器に相応しい人物が心から愛した女性だけが使える魔術よ。」

「それでは……王妃様がいらっしゃっているのですか?」

 ユリアさんの説明に私は問いかける。

 まさか、王妃様がかけつけてきてくださるとは思わなかったのだ。確かにこの保護猫施設は王妃様が作られた施設だ。だが、危険を承知で王妃様が助けに来てくれるとは思わない。

「いいえ。あの方は王宮にいるわ。あの方は実力主義者よ。このくらいのことは「自分でどうにかしてみせなさい。」と言うわね。」

「では……誰が……?」

 私はチラリとアンナライラ様が閉じ込められている白い結界に視線を向ける。

 王様の妃になる人物が使える魔術。

 もしかして、アンナライラ様が自分自身に結界を張ったの?なぜ?なんのために?

 次代の王となるのは、現時点ではユースフェリア王子殿下だ。そのユースフェリア殿下が愛しているのは、アンナライラ様だ。

 だから、ユリアさんの説明からするとアンナライラ様が聖なる魔術を発動したとすれば説明がつく。

 ただ、問題はなぜこのタイミングで。ということだ。

 シルキー様を守るように、アンナライラ様を閉じ込めた聖なる結界。

 それをアンナライラ様が作ったとすると矛盾が生じる。

「聖なる力は私のものよ……。私だけが使える魔術よっ!!」

 聖なる結界の中からアンナライラ様が大声をあげて訴える。

 やはりアンナライラ様は聖なる魔術を使えたらしい。でも、不思議なタイミングで使用するものだ。これではまるで魔術が暴走しているかのようだ。

「いいえ。あなたは聖なる魔術は使えないわ。だって、あなたはさきほど黒い魔力をマリアちゃんに飛ばしたじゃないの。聖なる魔力と闇の魔力は正反対の力。同じ人物に聖なる魔力と闇の魔力の両方が使えるはずはないのよ。あなたは闇に落ちたのでしょう?」

「そんなことないわっ!聖なる力は私だけの力っ!!私は聖なる力でこの国の女王になるのよっ!!誰もが傅く女王に私はなるのっ!!あのボンクラ王子じゃないわ!私がこの国の頂点に立つのよっ!!」

 アンナライラ様は声たかだかに叫ぶ。

「ぷっ……ボンクラって……。」

 ユリアさんがアンナライラ様の言葉に吹き出す。不謹慎ながら私も思わず笑いそうになってしまった。

 というか、アンナライラ様はユースフェリア殿下のことが好きだったのではないだろうか。それをボンクラなどと……。

「アンナライラ様はユースフェリア殿下がお好きだったのではないですか?」

 私は純粋に浮かんできた疑問をアンナライラ様に尋ねる。

「はっ!私があんなボンクラを好きになるわけないじゃないっ!私はそれよりシルキーの方が好みなのよ。あのボンクラは私が王族に近づくための単なる道具だわっ。シルキーさえ手に入れてばいいのよ。」

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