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第4章:幼少期・友愛編
第69話:【子の心親知らず】
しおりを挟む心地よい風が吹く穏やかな昼下がり。暑すぎず寒すぎない気温は、まさに絶好のお茶会日和だ。
目の前には、見渡す限り鮮やかな花々が咲き誇る美しい王城の庭園が広がっている。
───…そう。私はユーフォリア様と共に、あの日以来ぶりにブバルディア王国の王城へと訪れていた。
なんと…私まで含めた二人でお茶会に招待されたのだ。
自分の立場的に参加を遠慮したのだけれどユーフォリア様の大丈夫というニコニコの笑顔に押し切られ、そして極めつけは私に王城の庭園を案内したいという理由で約束時間より早く転移魔法で王城へと辿り着いてしまった。
しかし、そこはさすがというもので、予定時間よりも早く到着されてしまったことへの焦りや困惑の感情をおくびにも出さずに王城の使用人さん方は私たちを歓迎してくれた。
陛下が直ぐにお迎えに向かうという内容の伝言があったのだけれどユーフォリア様が早くに押しかけたのはこちらだし二人で庭園をゆっくり見るからと出迎えを断り、お茶会の会場である庭園での現地集合となったのだ。
「いや~実に見事な庭園だね、ルピナス」
「はい、ユーフォリア様」
感嘆のため息を漏らしながら隣に立つユーフォリア様を見上げる。すると、目を細めて嬉しそうにこちらを見下ろしながら笑ってくれた。
庭園の感想を語り合っていると近くで控えてくれている王城の使用人さん方からは、どことなく嬉しそうな雰囲気が漂っている。恐らくユーフォリア様に褒めてもらえたことが嬉しかったのだろう。
……その気持ち、すっごく分かる。
ユーフォリア様って、長命だから褒める言葉や着眼点が人間の私たちより豊富だし、褒める時の声のトーンも穏やかで優しくて、褒められる度に心がぽわぽわして嬉しくなっちゃうんだよね…
少し顔が熱くなったことに気がついて慌てて頭を振る。ユーフォリア様は少し不思議そうに私を見ていた。
…ちなみにラランとリリィはここにいない。
使用人として連れてこようと考えていたのだが、王城へユーフォリア様が率いる使用人として訪れるということに内心プレッシャーを感じていたのか、高熱を出して倒れてしまったのだ。
私の支度が終わった瞬間に倒れたので、そこは二人のプロ根性というか使用人としての意地というものを感じた。…でも本当に心配なので、私の支度よりも自身の体調を優先して欲しい。
ヤグルマギク教会の治癒師曰く、ただのストレスによる発熱ということで無理に治癒魔法で回復させず安静に寝かせておく処置になったのだけれど。
ルピナス様のお茶会の様子を拝見したかった…!と二人とも号泣していた。
シスタースイレンがスリープ魔法で強制終了させて無理矢理、寝かせていたけど…
以前、第二王子殿下の為にここへ来た時は無我夢中だったし、ヤグルマギク教会から帰る時はユーフォリア様の転移魔法で馬ごと飛んだからなぁ…
私も合わせて、あまり三人とも前回は"王城"を意識していなかった。今回のお茶会については意識しちゃって緊張したのだろう。
シスタースイレンが、まだまだ軟弱だわね、と苦笑していた。
そんな私はどうなのか、というと。
緊張半分、歓喜半分といった感じだった。
何故なら、もう貴族でない私が王城に来られる機会など最初で最後だと思うからだ。
(───…ユーフォリア様からは気軽なお茶会に陛下たちから招待されたと聞いているけれど、恐らくはブバルディア王国と帰還されたユーフォリア様の繋がりをより強固にすることを密かな目的としたお茶会なんじゃないかな。私も招待されたのは王国至宝のエルフ様の運命となったから。じゃなければ、こんな麻薬売買の主犯だったショーテイジ家の長子の生まれで現在は平民の私が王城へ足を踏み入れるなんて…本来なら到底、許されることじゃない)
私へのお茶会の招待は初回の今回だけで今後はユーフォリア様のみの招待となるんじゃないかな。
自分の血縁が大罪を犯していたと思うと胸が重苦しくなって、やはり高貴な王城という、この場に居るのには相応しくないのではないかと不安が募る。
「…ルピナス。なんとなく顔色が悪い気がするけど大丈夫?」
「あっいえ、ラランとリリィのことを思い出して心配になって…そのせいかと思います。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「ううん、謝らないで。ラランとリリィには何かお土産を買って帰ろうか」
「…はい!」
ユーフォリア様を心配させるなんて私としたことが…いけない、いけない。
ユーフォリア様は私の感情の機微に不思議と鋭いから気をつけないと。
ラランとリリィのお土産を買いに行くということだし、街にも行けそうだから楽しみだな。
……そうだ。なんだかんだ考えても来てしまったものは来てしまったのだし、そもそも招待していただいているのだ。
せっかくブバルディア王国の王城にいるんだから落ち込むのに時間を割くよりも隅々まで観察することに時間を割かないと!
───だって。私としては、前世でプレイしていた乙女ゲームの世界かつ物語の舞台となっていた場所に来ているワケで。
(もう二度と訪れる機会のない"ブバルディア王国の王城"という名のアイハナの聖地!アイハナファンである私が聖地巡礼を全力で挑まなくて、どうする…!)
久方ぶりにオタク心が燃えに萌え騒いでいる。
この庭園も主人公との仲を深めるキャラストーリーに出てくることがあったので足を踏み入れた時から密かにワクワクしていた。
…そういえば、主人公の息抜きに散歩へ連れ出して、庭園の薔薇の棘に触れて血を流した主人公に、ダリアが跪きながらハンカチを渡すシーンとかあったな!
あのシーンのスチル、花の描き込みや二人の表情が良くて鮮明に覚えてる。当時ネットでは、さすが王子様だって言われてたっけ。
ダリア以外の攻略対象たちも、この庭園に訪れていたりしたな…
まるで、遠い昔の出来事のようだ。
まあ、前世なのだから遠い昔のことで間違いないのだけれど。
乙女ゲームを思い出す私をよそに庭園には上質そうなテーブルと椅子が用意され、机上にはお茶会用の紅茶や軽食が並べられている。
食器はブバルディア王国で人気の高い陶器メーカーのものが使われていて、王城の料理人が腕によりをかけて作ったであろう料理やお菓子がより美しく映えて見えた。
(カップとか割らないように気をつけないと…)
内心で冷や汗をかいていると、複数人がこちらへ向かって歩いてくるのが確認できた。
「来たようだね…」
ユーフォリア様のつぶやきに気を引き締めながら、距離があるのをいいことにお茶会の参加者をジッと目視で把握する。ユーフォリア様が当日までのお楽しみだと言って、どなたが参加するかなどを教えてくださらなかったからだ。
以前、第二王子殿下の件で突撃した際に玉座の間で初めて謁見したブバルディア王国の王を務めるコレオプシス・ブバルディア様。並びに第一王子のタンジー様と最近なぜかヤグルマギク教会でお会いする機会のある第二王子のダリア様が微笑を湛えている。…第二王子殿下は微笑に留められていないが。
やはり王族の方とお話しするんだな…と心拍数が上がるのを感じた。
だが、続いて確認できた人物に私の思考は完全に停止した。
あ、あれ…?ちょっと待って、あの子ってもしかして───!?
乙女ゲーム時の成長した姿ではない、現在の幼い姿なので本人かどうか分からないが恐らく彼は……
少し不安げな面持ちで、父親である宰相のリンドウ・イノセントと兄に連れられているのは、若葉のような明るいグリーンの髪に琥珀色の瞳を持つアイハナの攻略対象の一人のガザニア・イノセントだ。
(どうしてガザニアがここに……ッ!?)
驚く私を置いてけぼりにして、お茶会が始まろうとしていた。
そして、この時の私は知る由もない。
このお茶会が、ユーフォリア様と王家の方々が親交を深める為のものではなく、私のお友達を作らせるべく開催されたユーフォリア様の過保護の末のものだということを───。
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